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国内グランプリ受賞、海外アワード入賞……24年間、PRに触れて築けたもの、気づけたこと

SAWAKO KUREBAYASHI

榑林 佐和子

ビジネス開発局 シニアディレクター

医療ヘルスケア、食品・飲料、観光・ツーリズム、商業施設、日用品・消費材、大学・教育機関

マーケティングPR会社のコムデックス(元インテグレート)を経て2010年オズマピーアール入社。大手ナショナルクライアントの食品・消費財のマーケティングPRや、外資系製薬会社の疾患啓発活動、大学広報など、幅広いPR業務に従事。 現在は、データ×PRや中華圏インバウンド、危機管理などを担うソリューション部門を統括し、新しい武器づくりを推進する「武器商人」として日々奮闘中。

テレビや雑誌とのリレーション構築、イベント開催やSNSでの情報発信……派手で華やかな印象のPR業界。業界志望者は増加していますが、話題化するための手法が先行し、PR本来の意義が語られなくなっているのも事実。この現状は、新卒からPR畑を歩み続ける榑林(くればやし)佐和子の目にはどう映っているのでしょうか。

24年前、PR担当にはプレゼンの時間が与えられなかった

 

▲前職在籍時の榑林と元同僚

 

榑林佐和子がPR業界に足を踏み入れた1994年、PRの地位はとても低いものでした。

 

榑林 「わたしがまだ新卒だったころ、PR会社はイベントやキャンペーンのパブリシティ機能だけを担うことが多かったんです。

 

広告代理店のビジネスの中では、PRは広告やセールスプロモーションの「おまけ」的な位置づけ。先輩たちと一緒に徹夜で企画書を書いても、PRの出番はいつも最後。プレゼンで代理店のクリエイティブディレクターが長くしゃべって持ち時間がなくなると、『じゃあPRのパートは資料を見ておいてください』で終わったり。

 

『結局、プレゼンできませんでした・・・』と言いながら先輩が帰ってくるような情景を何度も見ましたね。当時のPRはパブリシティ獲得のためのソリューションのひとつという見られ方をしていたので、代理店の方からも『PRってメディアに媚びていればいいんでしょ』、『女性で若いうちはいいけど、先がないよ』なんて言われたこともありましたね」

 

しかし、榑林にとってPRは、知れば知るほど奥深く、誇りを持って続けていきたい仕事。

 

「こんなに面白いPRという仕事の地位をあげたい」、そう想い続けてきた榑林にとって、業界自体の認知度が向上し、志望者が増えた現状は願ってもないこと。ただ一方で、華やかなイメージが先行しすぎているのも、また事実。

 

榑林 「『記者さんとランチしてきました〜!』みたいな、キラキラしたイメージを持っている人って少なくないと思うんです。PRが楽しい仕事だという認識が広がってうれしい反面、もう少し深く知ってほしいという気持ちもあります。


でもこれは、PRとは何かを説明してこなかった私たちの責任にあります。日々の業務に取り組むだけでなく、PR本来の役割を伝えていくことも、これからのわたしたちの使命だと考えています」

 

PR=Public Relationsは、ステークホルダーとの信頼を構築するという意味を持ちます。しかし、「信頼」を数値化するのは、極めて困難なもの。それ故、PRパーソンが積極的にPR論を語ってこなかったという実情があり、それが誤解を生む原因にもなっているのかもしれません。

 

 

答えを明かす広告、問いを投げかけるPR

 

▲アジア地域最大級の広告コミュニケーションフェスティバル、「Spikes Asia」で審査員たちと

 

新卒で入社した会社からオズマピーアールに転職し、日本を代表する食品・飲料メーカーや消費財、大学など、数々の案件を担当してきた榑林。さまざまな経験を重ねていく中で、新卒のころには見えなかったPRの正体、輪郭が少しずつ見えはじめてきました。

 

榑林 「PRって『問うこと』だと、わたしは思っています。広告が“答えを用意している”コミュニケーションだとすると、PRは“いかに考えてもらえる問いを投げるか”というコミュニケーションなんです。

 

つまり、課題を顕在化させること。本当の問題って、もしかしたらここにあるんじゃないの?と気づかせること。それがPRなんです」

 

榑林が手がけた、産学共同プロジェクト「オノマトペラボ」の立ち上げは、まさに“問い”の設定における成功事例。ちなみにオノマトペとは、「どきどき」「ころころ」と行った擬音語・擬声語・擬態語のこと。

 

このプロジェクトで向き合った課題は、可視化できない“神経の痛み”について、医師が患者に最適な診断をするのが、むずかしいということでした。

 

榑林 「神経の痛みは見た目ではわからず、レントゲンにも、ほとんどうつらない。患者さんの訴えを聞いて医師は適切な診断をするのですが、患者は感覚である「痛み」を専門家である医師にどう伝えれば的確に伝えられるのかわからない。

 

一方、日常的にわたしたちは、カラダの不調を表現するとき、ズキズキやピリピリ、ムカムカなど、オノマトペを使いますよね。

 

そこで特定の症状や疾患を持つ人を対象にオノマトペでの痛み表現を調査し、どのような病気の痛み方が、どんなオノマトペで表現される傾向があるのかを実証したのです。その情報を共有することで、患者は自分の痛みの種類に気づき、かつ医師は患者の痛みのオノマトペを聞くことで適切な診断を下しやすくなりました」

 

いままで疾患啓発は「患者に適切な治療を受けてもらう」という目的に対して「多くの人に病気の存在や特徴を知ってもらう」というのが主なアプローチでした。ただしこの病気は医師の診断も難しく、患者が何軒も病院をはしごしたり、通院を途中でやめてしまったりという問題点があったのです。

 

そこで、「患者が自分の痛みを医師にうまく伝えられてないのではないか。両者のコミュニケーションは最適か?」という問いを立てたことが、解決の糸口となり、神経障害性疼痛(とうつう)の受診患者数はプロジェクト実施以前の26万人から197万人へと7.5倍も増加したのです。

 

このプロジェクトはPRアワードを受賞し、カンヌやスパイクスアジアでも入賞。医大の授業に「オノマトペ」が導入されるほどの功績を残すこととなりました。

 

オノマトペラボ http://onomatopelabo.jp/

 

 

PRパーソンはWebではなく、人を見つめるべき

 

▲オズマでは今、部長として後進の育成に力を注ぐ日々

 

「オノマトペラボ」のヒントを得たのは、付き合いのある記者たちも長く続く痛みを持っている人が多く、せっかく病院に行っても症状をうまく伝えられなかったり、結局治らず諦めているという声が複数聞こえてきたことでした。

 

マーケティングの世界では人々を「20代、女性、会社員」のような属性で区切ります。対して榑林は、「●●な行動をする人」「■■な子どもを持つ人」など特定の行動や志向、条件を持つコミュニティとして捉え、それぞれに適切なコミュニケーションを考えることが「問い」を発見するための秘訣だと考えます。

 

榑林 「『SNSを駆使して情報発信、積極的に人々と交流するのがPRパーソンの必須条件だ』という風潮もありますが、それより大事なことがある。今、外でひとりだとスマホを見ている人が圧倒的に多いのですが、出かけた先で人を観察することや、街の人の何気ない会話から見えてくるものって、たくさんあるんですよ」

 

PRは、伝えたいことを伝えるだけではありません。だからこそ、アクティブな情報発信だけではなく、いかに世の中の動きを捉え、ディスカッションできるような議題を投げかけていくのかを考えること。それがPRらしさです。

 

PRが本来もつ “信頼構築”や“広聴”といった機能を含めて、世の中を動かしていける人が、PRパーソンに相応しいのではないかとオズマピーアールは考えています。

 

さらに、「PR論」について、PRパーソンが積極的に語っていく必要があると、榑林は語気を強めます。

 

榑林 「PR会社だけがPRを手がけていた時代はよかったのですが、今はWebマーケティングやデジタル系、クリエイティブ系エージェンシーもPRに参入していますよね。彼らは、分析や数値化、デザインやビジュアル化が得意です。だから、お客さまに納得感を与えるのも上手なんです。

 

『PRってこういうものだから』と、これまで抽象的に伝えてきた部分を、わたしたちも明確にしていかなければならない時代なのかなと」

 

 

PR業界から起業家がどんどん、生まれる時代へ

 

▲今、PR業界で榑林の“教え子”たちが多数、活躍している

 

そう、PRについて語るべきときがやってきたのです。これから先の未来、PRはどうなっていくのか。

 

榑林 「『PRストーリー』という言葉があるように、PRにおいてはストーリーテリングが重視されていますよね。これに、ナラティブ(独自の経験を語り手の視点で伝えること)な要素を加えていくことが、これから先の未来で、PRを成功させていく秘訣だと考えています」

 

世の中には、「こういう要素に多くの人の心が動く」という共通したストーリーが存在します。古くからの「物語」も、たとえば高貴な生まれのものが陰謀などで転落し、世界を放浪したあとに自らのポジションを取り戻す(=貴種流離譚)など、いくつかのパターンに類型化されています。

 

榑林 「これまでPRのストーリーはマスメディアを通して最大公約数的な納得を得ることを主眼に編まれてきましたが、SNSが発達した今、ある事象に対して誰か個人のフィルターを通じて経験することが当たり前になってきました。

 

これまでPRが培ってきたストーリー構築力は活かしつつ、例えば、そこに触れた個人の経験を、魅力ある個々の話として語ってもらう設計ができること。それが、差別化につながり、より共感を生みやすくし、人を動かしていくのだと思っています」

 

また、これからはPRパーソンから起業家が生まれるような風潮ができるかもしれないと、榑林は期待しています。

 

榑林 「PRパーソンって、潜在的なニーズを捉えながらコネクションしていく力を持っています。事業家もそうですよね。世間一般のニーズに合わせて商品やサービスを提供し、人とマッチングさせていく。

 

これまで、PR業界にはサポート役気質の人が多いイメージもありましたが、こうした特性を活かせばもっとPR出身の起業家や経営者が出てもいいんじゃないかなと個人的には思います。憧れの起業家はPRパーソンだった、そんな理由でPRを目指してくれる人が増えても嬉しいですね」

 

オズマピーアールでも、自社発信で世の中に問いを提示できるような事業開発への取り組みをはじめています。自分たちが率先して事業の芽をつくり、PRの真価を伝えていく。それが、オズマピーアールが次に目指す在り方です。

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