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【ヘルスケアPR×ナッジ Vol.2】ヘルスケア領域でナッジはどのように使われている?

ヘルスケア領域の切り口から“ナッジ”を紐解く連載。
Vol.2では、国内外のさまざまな事例から”ヘルスケア領域における
ナッジ活用”に対するヒントを見つけます。


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>目次

■ヘルスケア領域におけるナッジの活用動向
■ヘルスケアにナッジを活用した事例

聞き手:ヘルスケア本部:西山、中村、野村


■ヘルスケア領域におけるナッジの活用動向

中村:
ヘルスケア領域でどういった潮流があり、どのような形でナッジの導入が進んでいるのでしょうか?

竹林先生:
管理栄養士の国家試験にはナッジが出題されるようになり、国の健康関係通知にもナッジがよく見られるようになりました。ナッジは今やヘルスケアに不可欠な手法になっています。その背景には2019年に厚生労働省が策定した「健康寿命延伸プラン」で、ナッジを活用した「自然に健康になれる環境づくり」と「健診・検診受診勧奨」が推奨されたことがあります。

中村:
国の戦略にナッジが明記されているのですね。まず、健康寿命延伸プランにある「ナッジを用いた自然に健康になれる環境」は、具体的にどのようなものがあるのでしょうか?

竹林先生:
柏市(千葉県)では、歩道に「物差しの目盛」を描いています。通りかかった人は、目盛を見てどうなると思いますか?

中村:
目盛りに合わせて大股で歩きたくなり歩くのが楽しくなりそうですね。
では、「ナッジを活用した受診推奨」についても教えてください。

竹林先生:
がん検診未受診の理由の第1位が「たまたま受けていない」という年もあったくらい、「受診意欲はあるけれども未受診の人」が多いことが示唆されています。その背景には、検診案内を見た瞬間に直感が「面倒」「魅力がない」「誰もやっていない」「気分が乗らない」と感じ、「今でなくてもよい」としてしまう可能性があります。この場合、「簡単そう(Easy)」「面白そう(Attractive)」「皆もやっている(Social)」と、心が開いたタイミングで(Timely)言われると、受診してもいいかな、という気持ちが生まれやすくなります。これらの頭文字を取った「EAST」はナッジを設計する時のチェックリストで、ヘルスケア全般に使えます。厚生労働省のまとめたEASTのハンドブック「受診率向上施策ハンドブック(第2版)」はわかりやすいので、ぜひ見てください。

■ヘルスケアにナッジを活用した事例

中村:
新型コロナ対策でも、ナッジは使えますか?

竹林先生:
厚生労働省の調査では、90%以上の人が、「手の消毒や手洗いを行っている」と回答しました。しかし、実際には適切に手洗いや消毒を実施している人は少なく、このような場面こそナッジの出番です。

中村:
ここで情報提供やインセンティブでの消毒促進は難しいのでしょうか?

竹林先生:
消毒液利用の必要性を理解している人にさらなる情報提供をしても、「それ、知ってる」となるだけで、あまり効果は見込めません。また、「消毒液を1回利用するごとに100円プレゼント」というインセンティブを与えるとどうなるでしょうか?

中村:
確かにインセンティブ目当てに大勢の人が集まり、密を作り出してしまいそうで、よくないですね…。
実際に消毒液のナッジがうまくいった例はありますか?

竹林:
私の研究を紹介します。新型コロナ流行初期の頃、保健所の玄関に消毒液を置いても、利用者はなかなか使いませんでした。うっかりと通り過ぎている人に対し、消毒液に向けて床に目立つように矢印を描いところ、描く前に比べて消毒液の消費量が1.6倍に増えていました。次の週、「消費量を計測しています」と見られていることを意識させる貼り紙をしたところ、消費量が1.7倍に増えました。さらに次の週、同調バイアスに訴えかけるように消費量をグラフにして貼り出したところ、1.9倍に増えました。

中村:
啓発やインセンティブで消毒液の消費量を1.9倍に増やそうとしたら、莫大なコストや労力がかかりそうですね。

竹林先生:
この一連のナッジにかかった経費は100円だけでした。ナッジは他の手法に比べ、費用対効果が12倍高いという研究もあります。

これまでは現場の経験則が偏重される傾向もありました。しかし現場ではマンパワーも予算も不足している中、EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング:科学的根拠に基づく政策立案)が求められており、ナッジはこの流れとマッチしています。

中村:
他にも竹林先生が実践したナッジを活用したプロジェクトはありますか?

竹林先生:
ナッジを用いた研修会の効果検証」を紹介します。体重測定は減量の一助となり、米国の公的機関でも推奨しています。そこで、体重測定をテーマにした3種類の研修会を実施し、どれがもっとも費用対効果が高いのかをランダム化比較試験で検証しました。

参加者を「①肥満コストに関するグループ対抗クイズ大会を実施(Attractive型)」「②参加者が「体重測定の時間、場所」を宣言(Social型)」「③他の2群と順序を変え、先に努力が結実し成功に繋がった経験を発表し他者が共感コメントを送るグループワークを行い、その後に講義を実施(Timely型)」の3グループに割り付け、半年後の体重測定習慣を検証しました。

結果は、③が半年後も定期体重測定を継続した者が60.0%で他のグループよりも有意に高く、費用対効果も他のグループよりも最大1.7倍高くなりました。これは、「自分はやればできる」という思考に切り換えてから講義を聞くことで、内容を肯定的に受け入れたことによるものと解釈されます。

中村:
研修会のオープニングは、定例的な挨拶をやめ、努力で乗り越えた経験を思い出させ、それを褒める時間にした方が効果がありそうなのですね。

竹林先生:
この結果は前例に反するように見えますが、ランダム化比較試験というエビデンスレベルの高い研究で検証され、英語論文として海外誌に掲載されたため、信頼できるものと考えられます。研究を通じ、費用対効果の高い研修会の設計方法もわかるようになりました。

他にも世界の研究から蓄積された知見を用いて、ヘルスケアのナッジは進化しています。ナッジを活用しない手はないですね。



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