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地域医療を支える病院広報のススメ ~住民から選ばれる病院になるために~ 前編

オズマピーアール ヘルスケア本部では、医薬品や医療機器などのメーカーだけでなく、NGOや患者会など様々なクライアントの広報活動をお手伝いしています。

今回はその中でも、近年ニーズが高まっている「病院広報」について、前編・中編では豊富な経験を有するスタッフが取り組む際のコツや院内の連携で気を付けるべきことを解説し、後編では弊社がお付き合いをしている医療機関の広報の方に登場いただき、成果や課題についてのリアルな声を交えながらお届けします。

佐藤 剛:オズマピーアール ヘルスケア本部 エキスパート
大手化学・化粧品メーカーにて営業を経験後、マーケティング部門にてブランドマネジャーと営業戦略立案、研究開発部門にて新規事業としてアプリとクラウドサービスの開発マネジャーを務める。
OZMA PR入社後は医療・ヘルスケア領域にて、メーカー・医療機関・NGOなど多様なクライアントの広報組織立ち上げ、ブランディング、会見・発表会、リスク・クライシスコンサルティングなどコーポレート領域を中心に従事するほか、TETOTETOプロジェクト事務局として患者会支援も行う。MBA保有。

▼目次
■なぜ医療機関に広報やブランディングが必要なのか?
■病院広報でつまずきやすいポイントを事前に知ろう

なぜ医療機関に広報やブランディングが必要なのか?

私は現在、地域に密着した基幹病院や、全国に系列病院がある法人など、大小さまざまな医療機関の広報・ブランディング、また危機発生時のコミュニケーション活動のサポートをしています。(危機発生時のケースについては、こちらに詳しく書いていますのでご覧ください)

医療圏における少子高齢化や人口減少などの人口動態は、そのまま新規患者さん数の変動を意味し、病院の経営状況にも影響を及ぼします。

またここ数年は新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより診療体制も大きく影響を受けた医療機関が増えてきており、既に通院や入院されている患者さんの治療を維持するだけでも精一杯、という状況もお聞きしてきました。

そのような厳しい環境において、あえて「広報」や「ブランディング」に取り組む意義はどこにあるのでしょうか?

コミュニケーションの世界で用いられる「エクスターナル(外に向けた広報)」「インターナル(内に向けた広報)」という2つの視点で考えたいと思います。

【エクスターナルの視点】
●地域住民に病院の理念や取り組みを伝え、マインドシェア(想起)を高める
●専門性の高い人材、ユニークな人材を掘り起こすことで、各人がスポークスパーソンとして各領域のブランドになっていく

多くの住民にとって自身や家族の健康に不安がある場合に、「あそこの病院に診てもらおう」と真っ先に頭に思い浮かぶ病院があることが多いです。これをマーケティング用語で「第一想起」と言います。

また検査の結果「がん」や「心臓病」のように、難しい治療が必要と分かった場合には、より専門性の高い医療機関を受診する必要がある場合、「地域+病名」や「地域+症状」のようにインターネット検索で調べる患者さんやご家族がたくさんいます。

情報化が進んだ社会では、この「第一想起」や「検索結果」で他の病院より優位に立ち、「安心できそうだな」「信頼できそうだな」と思ってもらうことが、患者さんに選ばれる病院の条件となっています。

そのためにも「受け身」の姿勢ではなく、「積極的に」情報を発信していくことが、これからの病院経営においては重要性を増していきます。

【インターナルの視点】
●広報のテーマとして自院や自分自身が扱われることで、帰属意識が高まる
●「外から見られている」という気づきがなされ、普段の業務でも理念を体現しようという意識が働く

診察室で患者さんに真摯に向き合い、見えないところで研鑽を積む職員の方々は、メディアの取材を受けたり、広報誌やSNSなど一般の方の目に触れる機会のためにインタビューしたりすると、とても生き生きとお仕事についてお話しされるケースが多いように感じます。

広報活動に関して、ご自身の仕事を振り返る機会や、普段は人に見せることのない一面を覗かせる機会として好意的に受け止め、「また頑張ろう」と思ってくださるようです。

また別の側面から見てみると、多くの患者さんやご家族は、目の前にいる職員1人ひとりの振る舞いが「病院の姿勢や価値観」だと受け止めています。

実際、病院を受診し、その対応に残念な気持ちを抱いた人が口コミサイトで低評価のレビューを書き込んだり、SNSでその体験を吐露したりするケースも時折見受けられます。

広報に力を入れ、自分たちが「常に見られている」状況を理解することで、日頃の業務にもポジティブなフィードバックを及ぼすことが可能となるのです。

病院広報でつまずきやすいポイントを事前に知ろう

はじめてご一緒する医療機関の場合、「広報活動とは、何をどこから手を着ければ良いのか…」というところからスタートするケースもあります。

そもそも「広報」という部門や担当がなく、事務部門の職員の方がそれとなく取り組んでいたり、ホームページなど一般の方が目にするツールの制作や運用にとどまっていたりと個々の実情により様々ですが、過去の取り組みや経営層が期待することなどのお話を聞きながら交通整理をすると、次の3点を順番に取り組むことになるケースが多いです。

①担当者自身が「広報の意義」や「メディアの役割」「広報ツールの目的」を理解、腹落ちする

「広報」=「マスメディアに出ること」という考えは間違いではないのですが、先に書いたように取り組む意義はそれだけではないことも事実です。

さらに数年前から、「メディア」を一括りにせず、次の4つに分類する考え方が一般的になってきました。

Paid media(宣伝広告を出稿すること)
Earned media(TVや新聞などに報道してもらうこと)
Shared media(生活者のSNSやブログなどで扱われること)
Owned media(ホームページや公式SNSなどで自ら情報発信すること)

これらを活用(統合)することが広報の仕事であり、「マスメディアで扱われること」だけがゴールでなく、「各メディアを通じて病院の外と内、それぞれに対してコミュニケーションを図ること」と捉えると、様々なシーンが広報のチャンスになりませんか?

例えば公式SNSをうまく運用すると、1つの投稿で地域を超えて数千~数万の人に情報を届けることができます。SNSでは「いいね」や「コメント」で反応が分かるので、協力してくれた職員にもきちんと説明ができ、喜ばれるケースも多いと聞きます。

②経営層と目線合わせを行い、広報の取り組みに賛同を得る

お話をお伺いすると、ほとんどの役員の方は、広報に取り組む目的を「中長期の経営を見据えて患者さんに選ばれる、利用してもらうため(=集患)」とお考えです。

しかし私も時折、経営コンサルがいる会議に同席することもあるのですが、上記のような話題になると「宣伝」と「広報」の両方が混在した議論がなされる場面に出くわします。
(2つの違いについては、こちらに詳しく書いていますのでご覧ください)

そんな時には広報やブランディングを「農業」に例えてお伝えしています。

土を耕す=広報活動に経常的に取り組める体制を作る
種をまく=院内にある広報ネタを、対外コミュニケーションの企画にする
水をやる=根気強く、繰り返しコミュニケーション活動に取り組む
果実が実る=病院に対するポジティブな評判が形成される

人と人とのかかわりと同様に、長くじっくり腰を据えるからこそ、「安心を与え、信頼を得て、何かあった場合に頼ってもらう」関係構築が可能になるのです。

③ 院内各部門に「相談できる人」を作る

過去の取り組み方の影響もあり、他部門にとって広報の仕事は「自分には関係ない」と思われてしまっている、また最悪の場合、広報部門があること自体知られていないケースも見てきました。

そんな状況においても、「出たがり」「目立ちたがり」といいますか、良い意味で「もっと自分や部門をアピールしたい」と考えている方がどの病院にも一定数いらっしゃいます。

まずはその方々を仲間にして、小さな一歩を踏み出すこと。
その一歩で得られた学びを振り返り、次はもう少し歩幅を広げてみること。
こうしたチャレンジを続けていくと、徐々に「なんだか広報と一緒に動くと良さそうだ」という認識が広がってきます。

私が担当している医療機関でも、新しく立ち上がるセンターについて、センター長や広報と相談しながらプレスリリースを出し、地方紙に掲載されたものがWeb版でも取り上げられ、それを見た県外の患者さんが外来に来られた…といった成果につながり、それ以後、他部門から広報によく声がかかるようになっていきました。

ここまで来れば、対外的にコミュニケーション活動に取り組むネタには困らず、院内の連携も強まっていることでしょう。

今回のコラムはここまでとし、次回(中編)では、具体的に広報活動に取り組むためのツールの活用方法や、メディアを対象とした情報提供の手法など、実践的な内容をお届けします。

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