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【開催レポート】SDGs意識調査から見えた生活者・企業のギャップとこれからのコミュニケーション

2023年3月、SDGs(持続可能な開発目標、2015~2030)は「後半の7年半」に入りました。この節目に、「オズマグループ」と「オルタナ総研」が生活者と企業に対して共同で実施し「SDGs意識調査」の結果を初公開するオンラインセミナーを行いました。

ピーアールコンビナート株式会社執行役員の三樹祐司より、調査から見えた企業と生活者とのコミュニケーションギャップや、SDGs/ESG情報発信の精度向上への手がかりについてご説明した上で、サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」の森摂編集長より、SDGs/ESG情報発信において、いま企業に必要なコミュニケーションについて解説していただきました。


▼登壇者プロフィール

森 摂(もり せつ)氏

株式会社オルタナ 代表取締役社長 兼
「オルタナ」編集長
武蔵野大学大学院・環境研究科客員教授

三樹 祐司(みつぎ ゆうじ)

ピーアールコンビナート株式会社 執行役員
社会潮流研究所 SDGsコミュニケーション研究員

▼開催レポート

SDGs意識調査の結果を初公開

2023年1月~2月に実施した「SDGs意識調査」。生活者1,236人(10代~60代の各世代206人・男女比5:5)を対象としたWebアンケートと、企業のサステナビリティ領域実務担当者を中心とした138名を対象としたメールアンケートで回答を得ました。

その結果、企業側がSDGsに関する取り組みの情報発信によって「自社への信用の向上」や「自社の取り組みの認知獲得」「自社への好感の獲得」につながることを期待している一方で、企業が発信するSDGs情報に飽きや疲れ、情報の受け取りづらさを感じている生活者が多いという、厳しいギャップが浮き彫りになりました。

生活者はSDGsに疲れている

ウェビナーの前半で、三樹は結果サマリーを公開しました。

  • 生活者の62.4%が「企業が発信するSDGs情報が多く、疲れや飽きを感じる」
  • 生活者の68.8%が「知りたい情報が探しづらい」
  • 生活者の55.6%が「内容が難しくて理解できない」
  • 生活者の48.7%が「構成やデザインが見づらいと感じる」

多くの生活者が「SDGs疲れ」を感じ、企業が発信している情報の検索性や表現に課題を感じており、情報の根拠や信頼性に対して懐疑的なことが明らかになりました。

10代やZ世代からは良い反応

厳しい結果をふまえつつ、森氏は「SDGsは後半の7年半が始まったばかりで、マラソンでいえば折り返し地点。ネガティブな反応に落ち込む必要はない。PDCAサイクルの”Act”に向けて修正をするきっかけと捉えればいい」と語り、回答における前向きな兆しも含めて展開していきました。

例えば、調査では「過去1年間で、企業のSDGsに関する取り組みを知った時に、気持ちや行動が変化したと思う企業はありましたか?」という設問に対し、

  • 生活者の31.2%が「過去1年で1社以上の企業の取り組みを覚えた」

と回答していましたが、これは「7割の人は覚えていない」低調な結果に見えますが、野球で「3割打者」という表現があるように、サステナ関連で見ると特に低い数字ではないと説明しました。森氏は15年以上の活動の中で、企業のSDGs/ESGの取り組みを生活者に覚えてもらうのは非常に大変なことだと実感しているそうです。

また、生活者の78.4%、つまり5人に4人が「今後も積極的にSDGsの情報発信に取り組んでほしい」と望んでいることは、SDGs後半戦に向けて明るい兆しであると語りました。

さらに、特に10代(15~19歳)から、企業のSDGs情報発信を契機に「好感を持った」「信用が高まった」「商品購入やサービスを利用した」という回答が多いことを指摘。20代のミレニアム世代やZ世代も含め、これから社会の中心的存在となっていく世代に向けた情報発信は、中長期的なコミュニケーションにおいて重要なテーマになると断言しました。

コミュニケーション戦略のヒントとは

三樹は今回の調査結果を整理し、今後、企業のあるべきサステナブルコミュニケーションについて5つのポイントを提示しました。

  • SDGs/ESGは今後も重要なテーマであり続ける
  • 生活者向けの情報開示が大切
  • 生活者が「自分ゴト化」できるテーマ設定が重要
  • 自社らしさを伝えることでブランド構築
  • 企業だけで解決するのではなく、生活者やパートナーと共創する機会提供を

森氏は「自分ゴト化」できるテーマ設定は不可欠であるということに共感し、そして、まさにSDGsの目標17でも謳われているパートナーとの連携や、リアルイベントで生活者とともに考え行動していくことがより重要になってくると強調しました。

SDGsギャップを解消する施策

森氏は、企業と生活者の意識を近づけていくための施策を具体的に挙げて解説しました。

1.ストーリー・テリング
生活者への情報発信では共感と納得を得ることが不可欠です。

2. ネガティブ情報の開示
できていないことを明らかすることこそが、誠実さにつながります。

3.リアルイベント
一方通行ではなく、特に双方向性のコミュニケーションが大切。共創の機会を積極的に設けていくことが有益になります。

4.対話/社会対応力
サステナ経営において「ステークホルダー・ダイアログ」は重要です。

5.社内教育/パーパスの共有
情報発信する側がSDGsや自社の企業のパーパスも理解していないと、発信が上滑りしてしまいます。

6.ウォッシュの事前チェック
発信する情報がウォッシュにならないか社内で事前チェックできるようにします。

7.サステナ領域の目標・方針(主に脱炭素、人権、DEI)
SDGsは言葉に過ぎないので、自社の目標は自社でしっかりと作るべきです。

8.サステナブル・オウンドメディア
オウンドメディアを持つ企業は多いですが、活用できているでしょうか。生活者とのタッチポイントとして非常に有効です。

ストーリーを社会と共有する手法

上記の施策の中で森氏は、特に「ストーリー・テリング」と「ネガティブ情報の開示」の重要性を強調していました。

「SDGsとESGは同じ領域を持つものです。ただし、株主・投資家向けの情報発信の手法は、そのままの形では生活者向けには流用できません。生活者の共感を呼ぶためには”ストーリー・テリング”が必須だからです」と言います。

例えば小説でも映画でも、人を惹きつける物語には「目の前に次々と現れてくる壁に立ち向かい、力を合わせて一緒に乗り越えていく」という筋書きがあります。これがストーリー・テリングです。「壁(=今はまだできていないこと)を明らかする」という企業のあり方が、SDGsの情報発信で力を発揮すると説きます。

そして、2010年代に欧州の消費財メーカーが、「今できていること=青信号、今できていないこと=赤信号・黄信号」として発表し、いかに赤信号を減らしていくかという途中段階の取り組みを公開して、高く評価された事例を紹介しました。「自社ができていることだけを発信していると、生活者にはきれいごとだけを言っていると感じられてしまい、コミュニケーションが上滑りしてしまいます」と指摘しました。

「隠匿」から逃れるマインドセットを

多くの日本企業は、青信号以外の情報発信に対する批判を恐れ、「できていること」の発信に注力している現状です。今後、企業にはどんなマインドセットが必要になるのでしょうか。

森氏は、「欧米の企業の多くはバックキャスティング型なのに対し、日本企業はフォアキャスティング体質が強く、実績をコツコツと積み上げていくことこそが美徳と考えがちです。また、日本には昔から『陰徳』という言葉があるように、『自分たちの実績を声高に発信すべきではない』を美学とする意識があります。しかし、その意識では情報発信は向上しません」と言い切ります。

そして、「SDGs担当者レベルでは、今できていないことも発信することの重要性は理解できていても、上長や経営陣を説得するのは難しい」という参加者からの声に対して具体的な説得手法を提案しました。

  • 他社の突破事例(数字など)を利用する
  • 企業経営におけるインテグリティ(誠実さ)の重要性を説く
  • 昨今は、不祥事が起きた場合にも、生活者に対して改善する筋道を明示することで好感を持って受け止められたケースも多い

「上場企業であれば、ESGの文脈で、脱炭素、人権、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DEI)の3領域で目標を立てて社会に発信することが自社の株価上昇に有効であるということは、すでに経営陣に浸透しているはずです。SDGs情報発信も同じであると説明し、『未来の従業員や顧客の獲得につながるのは確実です』と、SDGs/ESGの情報発信を両輪のように意識してもらうよう働きかけるといいのではないかと思います」と、参加者を勇気づけてウェビナーを締めくくりました。


【関連リンク】


企業・生活者のSDGsに対する意識調査
サステナビリティコミュニケーションチーム

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