シリーズ:リスクとレピュテーション~危機管理広報最前線~/①コロナ禍における謝罪会見の潮流
オズマピーアールは、これまで多くの企業・団体に対して危機管理広報のサービスを提供してきました。近年では、SNS炎上時の顧客対応や地域住民団体とのコミュニケーション支援など、従来のリスク・クライシス発生時のメディア対応サポートに留まらず、事業領域が拡大しています。広がり続ける危機管理広報の現状について、弊社コーポレートコミュニケーション部の担当チームが執筆するコラムの連載をスタートします。第1回目は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けても、オンライン化が進まない謝罪会見についてです。
- オズマピーアール コーポレートコミュニケーション部 コミュニケーション・プロデューサー 内田栄一
オンライン化が進まない謝罪会見の理由は?
2020年5月、こちらのコラム欄に記者会見のオンライン化について書きました。その後も企業の新商品発表会や事業方針説明会、決算発表説明会などでは、引き続きオンラインによる記者会見が行われ、記者とは対面をしない「非接触」によるコミュニケーションがとられています。
その一方で、コロナ以前から変わらないのが、謝罪会見における発表者の対応です。
4月から5月にかけての緊急事態宣言下では、オンライン上で謝罪する企業も見られましたが、宣言が明けてから、私が知る限りオンラインで実施している企業・団体はほとんど見当たりません。
なぜ謝罪会見のオンライン化は進まないのか。要因は複数考えられます。
まず、謝罪会見は事前の準備をする余裕がなく、突然開催しなくてはならないということにあります。事案が発生してから会見開催の準備をするだけでも精いっぱいで、オンラインの体制を整えてから実施することは困難であると考えられます。最近では、午前中に発生した事故を受けて午後に記者会見を開くといった事案も見られました。やはり数時間でオンラインの配信業者を手配することや、自社でオンライン配信の準備をするというのは難しいのであろうと思います。
記者側も謝罪会見のオンライン化に難色示す
一方で、記者側もオンラインで謝罪会見が実施されることに難色を示しています。
謝罪会見の場では、記者が登壇者を追及するというシーンがみられますが、これが画面上では十分にできないからです。通常のオンライン会見では、記者からの質問はチャットで受け付けることが多く、画面越しに質問ができたとしても、記者の熱意は登壇者に伝わりにくいということもあります。また、オンラインの会見では、写真や映像の撮影ができず、画面越しの謝罪風景では、紙面やテレビでのインパクトに欠けてしまうといったことも要因です。
メリット・デメリットを踏まえた準備の必要性
こうした現状を踏まえて、謝罪会見をオンラインで開催する場合と従来の対面で実施する記者会見の場合を比較した時に、会見を運営する企業・団体の目線で「メリット」「デメリット」「開催の注意点」をまとめました。
【オンライン記者会見】
*メリット |
: 会見場に来ることが困難な記者にも情報を届けることができる : 圧迫感がないため、登壇者がより冷静に話すことができる |
*デメリット |
: 映像配信体制を急きょ準備し、滞りなく撮影・配信することは困難 |
*開催の注意点 |
: 配信業者の確保と記者がオンラインで視聴できるサポート体制の整備 |
【会見場で記者と対面する従来型の記者会見】
*メリット |
: 映像配信の準備が不要 |
*デメリット |
: 緊張感が高まり、思わぬ失言を招くリスクがある |
*開催の注意点 |
: 感染予防対策の徹底が必要 |
こうしたメリット、デメリットや注意点を考慮したうえで、どういった手段で記者会見を実施するのか、常日頃から準備をしていただきたいと思います。私としては現状、事前準備の多さから緊急性の高い謝罪会見の時は、従来の対面式の記者会見で実施する方が現実的ではないかと感じています。
ただ今後、謝罪会見もオンラインで実施することが一般的になる可能性もあるため、広報担当者は今後の動向に引き続き、注視していく必要があると考えています。
内田栄一(うちだ・えいいち)
株式会社オズマピーアール コーポレートコミュニケーション部
コミュニケーション・プロデューサー
2003年からキー局系のニュース制作会社に所属し、報道記者、ディレクターとして民間企業や中央官庁など取材。過去には、震災直後の被災地を振り返る企画でギャラクシー賞報道活動部門の「選奨」を受賞するなど約15年間、テレビニュースの仕事に携わる。オズマピーアール入社後は、主に危機管理広報を担当。メディアトレーニングで講師役を務めるほか、企業のクライシス対応のコンサルティングを行っている。