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メディアの解釈を広げる!難病患者さんの想いを届けるツール共創プロジェクト

近年、製薬企業が難病や希少疾患(※)の医薬品の開発を目指す中、疾患啓発活動においてもそういった領域のご相談や依頼が増えてきていますが、今回は、多発性硬化症という難病の啓発活動を振り返りたいと思います。認知向上と理解促進を目指すべく取り組んだのは、患者さんとの“メディア”創りです。

マスメディアによる報道やインフルエンサーによる発信に頼らなくても、当事者が自身の想いを伝えられる装置=メディアを作ることができれば、周囲へ情報が広がっていく…。PRパーソンとして、多発性硬化症患者さんの想いを最大化することにチャレンジしたプロジェクトを紹介します。 
※希少疾患:日本国内では患者数が5万人未満との疾患と定義

藤原:ヘルスケア本部 コミュニケーションプロデューサー
製薬会社、医療機器、日用品メーカー等、幅広い分野でのPR活動に従事。領域にとらわれないユニークな企画立案と着実な企画実行力を有し、​患者さんやそのご家族との共創プロジェクトなど、コミュニティからマスメディアへの情報流通を狙った企画を得意とする。

■外見からは分かりづらいが故に様々な誤解が生まれる難病「多発性硬化症」
■“想い”を示す「マイバッグ」を開発。患者さん同士で話し合うことが、“想い”の多様さに気づくキッカケに
■患者さん同士で“想い”を共有。多様な想いの存在に気づき、理解を深める
■デザイナーが“想い”を形に。患者さんがディレクション&アップデート
■「マイバッグ」のデザインが、患者さん同士の共感を生み、疾患認知を高める“メディア”に!
■外部ECサイトも“メディア”に。患者さんとの共創から広がるMSの認知・理解
■(プロジェクトを終えて)1人の想いを体現した“メディア”には、周囲を巻き込む力があることを実感

■外見からは分かりづらいが故に様々な誤解が生まれる難病「多発性硬化症」

多発性硬化症(multiple sclerosis:以下、MS)とは、脳・脊髄、視神経などの中枢神経系の疾患で、日本の指定難病に認定されています。視力障害、運動障害、感覚障害などの神経症状が発生しますが、その症状や程度は人によって異なるだけでなく、再発と寛解(病気による症状や検査異常が消失した状態)を繰り返すことが特徴です。

そんなMSをとりまく課題には以下のようなものが挙げられます。

<MSをとりまく課題の一例>
  • MSという疾患に対する社会的な認知や理解が十分ではなく、さらに神経症状であるが故にMSであることが外見からは分かりづらく、周囲から「あの人は怠けているんじゃないか」といった誤解を受けてしまう
  • 症状や程度が人によって様々であり、また再発と寛解を繰り返すことから、MSという病気や自身の症状について周囲に上手く説明できず、それ故に理解が得られづらい
  • 周囲からの誤解が解消されず、また同じMSの患者さんとの接点も多くないため、孤独感を感じてしまう

など

これらの課題はあくまでも一例であるというのが、MSという疾患の難しいところです。様々な課題が存在する中、PRの力を使ってそれらをどう解消できるのか、情報過多の昨今、マスメディアでMSが取り上げられることだけが課題解消の近道なのか。

その糸口になったのは、普段使いの「あるツール」でした。

■“想い”を示す「マイバッグ」を開発。患者さん同士で話し合うことが、“想い”の多様さに気づくキッカケに

レジ袋の有料化に伴い社会一般に浸透した「マイバッグ」。またMSに限らず、外見では分かりづらい疾患の患者さんは、ヘルプマークを「バッグ」につける方も多くいらっしゃいます。このプロジェクトは、そんな「マイバッグ」のデザインで、MSに対する社会的な認知・理解の向上をはじめ、患者さんが抱える課題の解消を目指す取り組みなのです。

■患者さん同士で“想い”を共有。多様な想いの存在に気づき、理解を深める

MS患者さん5名、デザイナー3名が参加。患者さんの想いを共有する場を設け、どういった課題があるのか、マイバッグで何を伝えるのかを話し合います。プロジェクトに参画した同じMSの患者さん同士でさえ、互いの課題や伝えたいことの違いに気づき、会話を経て理解を深めていきました。

■デザイナーが“想い”を形に。患者さんがディレクション&アップデート

MS患者さんとデザイナーがペアでチームを組み、それぞれの想いを形にしていきます。チームごとに、デザインの素案に対し患者さんがフィードバックし、さらなる議論を重ねました。デザイナーたちも、MSについてよりいっそう理解を深めていきながら、5つのデザインが完成したのです。

■「マイバッグ」のデザインが、患者さん同士の共感を生み、疾患認知を高める“メディア”に!

完成した「マイバッグ」のデザインは多様なものでした。
“程度や症状が人によって様々なMSは、そのすべてを周囲に伝えることが難しい”という課題を感じる患者さんが開発したのは、代表的な症状をかわいいイラストで表現したもの。デザインそれ自体がMSのことを説明できるものになっているのです。

またある患者さんは、“孤独感を感じている人が多い”という課題を抱えていました。そんな孤独を解消したいという想いから、人と人が手を取り合うイラストをモチーフにしたデザインを開発。街中で同じマイバッグを持つ人を見つけた時、「同じMS患者さんかもしれない」、または「MSのことを知っている人かもしれない」という気持ちになれるとおっしゃっています。

私はこのプロジェクトがスタートする時、5名の患者さんの総意であり折衷をとれるような1つのデザインだけを完成しようとばかり思っていましたが、それは大きな間違いでした。

上記の2つのデザインの他、MSが自分のアイデンティティであるということを表現したものや、支えてくれる周囲の人への感謝を示すもの、自身を鼓舞しMSの認知向上を願うものなど、MS患者さんが抱く想いが強く反映されたそれぞれのデザインが課題解決の1つのキッカケになりうるものでした。

そして何より、一見すると雑貨店で売っているような、ポップで可愛く、またかっこいいマイバッグであるが故に、デザインがキッカケで周囲の人とのコミュニケーションが生まれる可能性がある“メディア”になりうる、というのがこのプロジェクトのポイントなのです。

SUZURI「MSマイバッグ

閲覧した人が、それぞれのマイバッグが生まれた背景を読むことにより、同じMS患者さんであれば、それが共感につながり、MSのことを知らない人であれば、MSがどういった疾患であるかを知ってもらうキッカケになるのです。

MSマイバッグの流通が始まってからは、本プロジェクトに参画した患者さんを起点に、SNSを通じて情報が広がりました。同じMS患者さんだけでなく、ご家族やご友人にMS患者さんがいらっしゃる方を中心に、写真付きで購入の旨を伝える投稿がなされました。その中には“自分で出来る範囲で患者さんの力になりたい”とコメントする方もいらっしゃり、このマイバッグが、少なからず誰かの心を動かすことにつながったのだと改めて実感しました。

■(プロジェクトを終えて)1人の想いを体現した“メディア”には、周囲を巻き込む力があることを実感

MSは難しい疾患であるために、完成した5名による5つのデザインだけでは解決できな課題もありますし、「マイバッグ」という“メディア”だけでも十分でないかもしれません。
ですが、たった1人であっても、その当事者の想いを発信できる機会・場・ツールを創り出すことができれば、その想いは周囲を巻き込み、情報が広がっていくキッカケになるんだと、強く感じたプロジェクトでした。
このプロジェクトを通して、少しだけでも患者さんの力になれたのなら嬉しい限りですし、今後も一人でも多くの方にMS患者さんの想いが届き、そしてMS患者さんやそのご家族にとって暮らしやすい社会になっていくことを願っています。

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