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“フィルターバブル”の視点で考える現代の生活者の情報接触態度の考察

新型コロナウイルスの影響で「おうち時間」が増えた今、SNSを使う機会が増えた人も多いのではないでしょうか。私自身日常の多くの時間をSNSに費やしています。SNSは速報性の高い情報収集ができ、自分に必要な情報を収集するのに大変便利だからです。しかし、SNSは自身がフォローしている人々の情報しか入ってこないということが往々にしてあります。そのような情報環境の中で、一つの事象に対して自身のタイムラインの論調だけでその事象の是非を判断するのは危険です。なぜなら、SNSでは自身の見たくない情報や都合の悪い情報はシャットアウトされがちで、一方向からの意見しか目にすることができない可能性があるからです。私はコロナ禍でSNSでの誹謗中傷を始めとした様々な痛ましいニュースや人々の生活に戸惑いを与えるフェイクニュースを見るたびに、上記のような生活者の情報接触態度に問題意識を抱き始めました。

本コラムでは現代の情報環境における情報収集上の課題と、生活者にとっての新たな情報接触態度の必要性を考察します。

現代の情報環境の課題“フィルターバブル”とは?

「インターネットを通じてパーソナライズされた情報」が届く情報環境は、情報過多時代においては非常に便利な機能です。一方で、前述の通りこの情報環境は自身に必要のない情報の排除を助長することになります。「インターネット上で泡(バブル)のなかに包まれたように、自分の見たい情報しか見えなくなる」現象は“フィルターバブル”と呼ばれています。フィルターバブルは2011年にイーライ・パリサーが著書『閉じこもるインターネットグーグル・パーソナライズ・民主主義』で提唱した概念で、技術の革新によってパーソナライズされていく情報環境への課題を提起するものでした。

このフィルターバブルの議論の中で様々な研究者・有識者が「生活者に思考の偏狭を及ぼす危険性がある」と指摘しています。つまり、接触情報のパーソナライズ化が進むほど、生活者は自身が必要としない情報と接触せず、閉鎖的な情報空間で自らの嗜好性に合わせて同じような情報や意見のみと接触することとなり、特定の価値観や思考に固定化される可能性があるということです。この現象は「エコーチェンバー現象」と呼ばれ、インターネット時代以前の1990年にジャーナリストのデビッド・ショーが説いた現象です。この現象がフィルターバブルの中で増幅するほど、相反する価値観/思考を持つ生活者同士が交わることが難しくなり、社会の分断が進む懸念があります。

情報過多時代に必要な情報接触態度

上記のようなパーソナライズされた情報環境の中で生活する我々は、自身が接触する情報によって「受動的な情報接触」と「能動的な情報接触」を使い分ける必要があると私は考えています。

「受動的な情報接触」とはインターネットの使用によって自然と得られる情報接触です。すなわち自分たちが普段インターネットを使用することで、レコメンドされる情報など、日常の中で自然に触れるパーソナライズされた情報への接触ということになります。自分の好きなモノ・コトの情報に接触するには、このパーソナライズされた情報接触は非常に効率的に情報収集ができるので大変便利な機能です。例えば、自分の“欲しい商品”の発売日がいち早くチェックできたり、“好きなタレントの情報“が常に目に入ってきたりと、狭く深く趣味嗜好に関する情報に接触することに向いています。

一方で、フィルターバブルの議論で指摘されているのは「受動的な情報接触」の課題です。そこで、必要になる受動的な情報接触の対になるのが「能動的な情報接触」です。「能動的な情報接触」とは、自身が情報を積極的にリサーチして得る情報接触です。この能動的な情報接触は物事を客観的・多面的に把握する必要のある社会性/公共性の高い情報への接触時に活用するべきであると考えられます。政治や経済、事件性のあるニュースを始めとした公共性の高い情報は賛否両論あるニュースも多く、一方からの視点だけでなく、様々な視点で幅広く情報に接触することが必要です。では実際にどのような行動をすればよいのでしょうか。

例えば、ある一つのニュースに対して自身のSNSアカウントのタイムラインで情報接触した場合、自身の思考と近い情報に編集された文章と共に語られている可能性が高くなります。そういった場合にそのニュースの情報源(ソース)を調べてみる、そのニュースに対して肯定/否定どちらの意見も見てみるなど、情報を賛否の一面だけではなく、両面で捉える。「能動的な情報接触」を行うことで、アルゴリズムを介しての情報接触だけでは得られない情報に接触し、情報バイアスを突破する一助になるかもしれません。

新型コロナウイルスによって変化した生活者の情報接触態度

コロナ禍において、「確かな情報を得る」という情報接触態度の高まりも見られます。博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所が20207月に発表した「緊急事態宣言解除後のメディア接触調査」によると、コロナ禍の危機の中で「メディアの伝えることの信頼性が気になった」65.1%、「情報の真意や鮮度に気をつけるようになった」47.5%など、メディアや情報の質を「確かめる」傾向にあることが分かりました。これは、「トイレットペーパーが不足する」や「お湯を飲めば、高温に弱いコロナウイルスを退治できる」といった信憑性のわからない情報がコロナ禍でSNS上に多く出回ったことなども要因のひとつと考えられます。

さらに、20208月に一般社団法人日本新聞協会が実施した「新型コロナウイルスとメディア接触・信頼度調査」によると、各メディアの中で生活者が「新聞のデジタル版/電子版(有料)」を始めとした新聞社が発信する情報に接触する機会が増加したことが分かりました。新聞社からの情報接触回数が増えた理由としては「情報の要点がまとめられているから」「情報が信頼できる」「情報が幅広いから」といったものが挙げられ、端的かつ信頼度が高い情報へのニーズが高まっていることが分かります。

出典:一般社団法人日本新聞協会「新型コロナウイルスとメディア接触・信頼度調査」(2020)

様々な情報が世に出回るコロナ禍で、ある程度情報の客観性が担保されていると思われる新聞メディアへの積極的な接触が起こっているのではないかと考えます。

このように自分自身で情報の信頼性を見極めることが出来るようになることは、生活者が能動的な情報接触を行う第一歩を踏み出していると考えられます。一方で、客観性が担保されている情報を発信するメディアであっても、そのメディアの特性によって異なる意見を述べていることも往々にしてあります。だからこそ、メディアの中にも異なる意見や視点があることを意識し、より視野の広い情報への接触を図ることも大切です。このように、能動的な情報接触で一つの情報を様々な視点で捉えることを意識づけすることができれば、フィルターバブルによって閉ざされていた情報への接触も可能になるのではないでしょうか。そうすることで生活者の思考の偏狭という課題の解決に寄与できると私は考えています。

最後に

インターネットのパーソナライズ機能からもたらされる“フィルターバブル”。これは、情報過多な社会において、インターネットを使う上で避けることのできない「当たり前」の現象と捉えることもできます。しかし、このような環境のもとで生活者はこの恩恵を享受しつつ、確かな情報を手に入れるという「情報過多時代における新たなメディア接触態度」にシフトしていく必要があると考えられます。パーソナライズされた情報は利便性が高い一方で、受動的な情報接触であると思考の偏狭が起こるリスクを理解し、能動的な情報接触を取り入れながら、自己の思考を常にチューニングしていくことが現代に必要な情報接触態度ではないでしょうか。

古川 一輝

株式会社オズマピーアール アカウントプランニング本部3部 アソシエイト

2018年オズマピーアール入社。入社後はスポーツメーカーや商業施設、知育玩具、飲料など様々な企業のPRに携わる。
プランニングからエグゼキューションまで一気通貫したPR活動の支援でクライアントの課題解決に従事。
コロナ禍でダイエットをはじめ、12㎏の減量に成功。
PRコンサルティングに関してもダイエットと同じように根気強く取り組む粘り強さを武器にクライアントの課題解決に日々奮闘中。

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