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「心臓病の子どもたちの“初めての運動会” Challenging Heart Day」PR事例

患者会—医療者の隠れたニーズの開拓と要望に応えるPRの新たなカタチを提供

「生まれつき心臓病を抱えるこどもたちの自立をサポートしたい」、そんな想いを抱えた患者会、医師、そして、製薬会社の願いから、このプロジェクトはスタートしました。プロジェクトを立ち上げたのは、製薬会社のアッヴィ合同会社と、心臓病の患者さんとご家族で構成される「全国心臓病の子どもを守る会」。悩みを抱える患者さんとご家族、そして課題解決に取り組む医師をつなぎ、心臓病を抱える子どもたちの抱える課題解決に取り組みました。

イベント当日の様子①

イベント当日の様子②

課題と戦略

心臓病を抱える患者さんの自立という新たな課題に対し、“初めての運動会” を立ち上げ

生まれつきの心臓病(以下、CHD)を抱えている子どもは、およそ100人に1人。年間1万人生まれてくると言われています。少し前までは、長く生きることが難しいと言われていましたが、現在は医療の発達により、9割以上の患者さんが成人を迎えています。その中で、新たな課題が生まれてきました。それは、成人を迎える患者さんの自立(自律)の問題です。

CHDのお子さんは、とても身体が弱く、病気のことで病院から活動を制限されることも多く、親も必要以上に制限しがちです。当然、運動制限や感染症リスクから、健康な子どもたちが体験できるさまざまなことにチャレンジする機会も限られます。その結果、CHDの子どもたちは自分で本当ならできるかもしれないチャレンジを諦めてしまうことも少なくありません。

また、一方患者さんのご両親も、病気のことを相談する相手はかかりつけの医師のみで、病気を持つ子どもたちの子育てや悩みを分かち合い、相談する相手が限られ、孤独の中でさまざまな不安を抱えていることも少なくありません。

 この自分の病気のせいでいろいろなことができなかった小児期の経験により、自分の病気ときちんと向き合うことができないまま成人になる患者さんが増えてきていることが問題となっています。これらの患者さんは、自立できず、本来なら自分で管理すべき生活や薬の管理が十分できずに病気を悪化させてしまうという問題も起きています。実際成人しても親と共に通院し、自ら病気の説明ができない患者さんも少なくありません。加えて、CHDは内部疾患のため外から見てすぐにわかる病気ではなく、周囲の人たちから病気であることをわかってもらったり、病気を理解してもらえないために起こる社会的課題も浮き彫りになっています。

課題

  • 小児期の経験により、自立できない患者さんが増加
  • 自分で管理すべき生活や薬の管理が十分できず病気を悪化させるケースも
  • 周囲の人たちから病気がわかりづらく、理解してもらいにくい

アプローチ戦略

  1. 親子が離れて参加する「運動会」を企画
  2. 子どもが楽しみながらチャレンジできるコンテンツづくり
  3. ドキュメンタリー映画で、心臓病患者に対する正しい理解を世間の人々へ

PR施策 活動内容

[アプローチ戦略1]親子が離れて参加する「運動会」を企画

コンセプトは、心臓病の子どもたちの「はじめての運動会」

多くのCHDの子どもは、病気の悪化を恐れて見学や不参加となり、運動会に参加できません。つまり、「運動会」はCHDの子どもたちにとっては、「自分にはできないこと」の象徴と言えます。またいつも、何かしようとすると親の保護を必要とするという「親がいないとできない」ことの象徴でもあります。

そこで、あえて今までいつも一緒で離れたことのない親子が、それぞれ離れて参加する「運動会」を企画してみました。この「運動会」が、子どもたちにとっては自分で何ができるか、また親にとっては自分の手を離れて子どもだけで何ができるかという「子どもと親にとっての自立」の一歩を踏み出し、それぞれが“やればできるんじゃないかな”と思えるきっかけになればいいと考えました。

ひとえに「運動会」といっても、患者さんは体を激しく動かし、他人と競い合うことはできません。そこで私たちは、運動イコール「体を使って“できる”を見つけること」と定義しました。その一方で「はじめての運動会」というコンセプトはそのまま残すことにしました。実現に向けては各方面の方々とタッグを組み、協力という形で巻き込んでいく必要があると感じていたため、「はじめての運動会」というコンセプトが持つ明快さ、想いを共有しやすいニュアンスは残したいと考えたからです。

[アプローチ戦略2]子どもが楽しみながらチャレンジできるコンテンツづくり

「アートづくり」と「楽曲制作」を2つの柱に

さらにもっと大切と考えたことは、参加する子どもたち自身が、参加して楽しいと思ってもらうことでした。そこで、子どもたちが楽しみながらチャレンジできるコンテンツは、NPO法人Ubdobe(ウブドベ)とのコラボレーションによって開発しました。Ubdobeは、介護士や看護師、保育士などの資格を持つボランティアネットワークを持ち、医療福祉エンターテインメイントイベントにおいて多彩な実績を有しています。

今回のプロジェクトでは、普段できない運動に楽しく取り組めるよう「体を使っての大きなアートづくり」と、自分の病気に興味を持つきっかけにもしてほしい思いを込めて「心臓音と子どもの声をつかった楽曲制作」を2つの柱として据えました。

ご両親に対しては、専門医の講演会や交流相談会を開催

一方で、子どもたちと一緒に参加されるご両親に対しても、少しでも不安や孤独感を払しょくできる場として、CHD領域のキー・オピニオン・リーダー(KOL)といえる専門医の先生方を当日お招きし、最新の知識を伝える講演会や、親同士・医師との交流相談会を催すことにしました。

講演会の様子

交流相談会の様子

[アプローチ戦略3]ドキュメンタリー映画で心臓病患者に対する正しい理解を世間の人々へ

運動会前から2組の親子に密着。小児期と青年期、2組の家族の“運動会”を通した意識変化を記録

さらにもうひとつ仕掛けがあります。子どもと親にとっての「自立」というテーマを伝えるため、運動会前から2組の親子に密着し、イベント前後の意識変化を記録したドキュメンタリー映画を制作したのです。

プロジェクトの初期段階で「まずは私たち自身が病気に対する理解を深めないといけない」と考え、「全国心臓病の子どもを守る会」の協力を仰ぎ、大学生の患者さんを紹介してもらいました。その彼から、CHDの患者を取り巻くリアルな実状を伺う中で、「自分も心臓病の子どもたちのために何かやってみたい」との想いに触れました。そこで、イベントの準備に関わっていただき、自らの病気と向き合う姿から、当日司会を務める姿までをドキュメンタリーとして追いかけることにしました。TVのドキュメンタリー番組を得意とする制作会社とタッグを組み、女性ディレクターが3ヵ月密着することで、CHDをもつ患者の青年期の課題である“病気の自覚”が浮き彫りになる内容となりました。

また、この映画では、今まさに手術を受けているCHD患者の幼少期の実態を顕在化するため、心臓病の子どもたちのための自主保育グループに通う1組の親子にも密着。生まれながらに重度の心臓病がある幼い次女を抱え、不安を抱きながらも明るく日々を過ごす家族の模様と、その親子が挑んだひと夏の小さな挑戦として、幼い姉妹が初めて両親から離れて過ごした運動会の様子を記録することで、小さな子どもたちでも「“できる”を見つける姿」を浮き彫りにすることができました。

試写会の開催や映画祭への出品、DVDの無償貸し出しも

映画を“作っただけ”で終わらせないための施策として、映画試写会兼プレスセミナーの開催に加え、主要なショートムービー映画祭への出品、さらにDVD化した後、啓発目的として無償で貸し出すことにしました。

青年期を迎えてCHDとともに生きる彼の真摯な姿は、心臓病患者に対する正しい理解を世間の人々に知ってもらう素晴らしい機会となりました。同時に、今現在CHDの治療を受けて病気と闘っている幼い患者さんのいるご家族にとっては、成長した彼の姿は「ウチの子もこんなふうになれるのかも」と思える希望そのものになったようです。

成果

笑顔をみせる子どもたちと、“横のつながり”を喜ぶご家族。参加者の97%が「また来たい」と回答

運動会が、“できる”を見つける機会に

初開催となった運動会には、関東近郊から患者さん27名、ご家族48名が参加されました。当初は患者さんもご家族も、どこか緊張した面持ちでした。というのも、子どもたちがアートや音楽を楽しむ会場と、ご家族が講演を聞く会場を別にしていたからです。親子が離れて過ごすということも、それぞれにとって“できる”を見つけるための機会にするという仕掛けでした。

 始まる前は本当にこの仕掛けがうまくいくかどうか私たちも参加者のかたも不安そうでしたが、いざ運動会が始まると、空気が一変します。会場床に敷き詰めた白い紙の上を、オランダ発祥の幼児用自転車で元気よく、満面の笑顔で駆け抜ける子どもたち。この自転車の車輪にはいろいろな色の絵の具がついていて、動き回るだけでいろいろな色がいろいろな形で床が色づけされていきます、はしゃぐ子どもの声と一緒に瞬く間に床がアートになりました。さらにこの白い紙には、あらかじめ絵の具がつかないようマスキングテープがはられていて、あとでテープをはがすと、子どもたちからご両親へのメッセージが浮かび上がる仕掛けにしました。また、イベント中の自然音や子どもたちの声などをサンプリングしての楽曲作りもおおいに盛り上がりました。

ご家族や医師の方々から届いたさまざまな声

そんな様子を観客席から垣間見たご家族からは「スタッフの皆さんが明るくフレンドリーで、普段は人見知りなうちの子も、自分から積極的に参加できました」「病気の子のイベントとなるとどうしても暗くなりがちですが、今回のようなイベントは、新しい風が入った感じでよかったです」「初めて親と離れて、ほかの子どもたちと一緒に集団活動できるわが子の姿を見て、あらためて成長を感じた」などの感想が寄せられました。

また、参加いただいた医師の方々からも「自分たちの子は病気だからずっと家で過ごさなければと思っていたお母さんお父さんにも、『今回参加してみたら実は自分の子どもがこんなこともできるんだ』ということがわかる良い機会となった」「自分が外来で患者さんとしゃべっている時にはわからなかったけれど、本当はそういうことを考えていたんだとか、そんなことに悩んでいたんだということをあらためて聞けて、今後の自分の診療にも非常に有意義だった」といった声が寄せられました。

参加された患者さんとご家族へのアンケートでは、実に97%が「また来たい」と回答しています。当初は1回限りの開催予定でしたが、今回来られなかった方からもクチコミで「次回はいつ?」などの反響が相次ぎ、第二回を大阪でも開催。第3回の開催も予定されています。今回の企画の第1の成功は、参加したこどもたちの笑顔ですが、それに加えて製薬会社の社会貢献のあり方として、患者会—医療者の隠れたニーズの開拓と要望に応えるPRの新たな「カタチ」を提供できたという点で素晴らしい提案になったといえるでしょう。

まとめ

貢献したい想いが原動力となり、多くの人びとを巻き込めたことが成功の要因

事務局の対応も、他のPRイベントとは一線を画すものになりました。参加されるご家族の不安を少しでも払拭できるよう、事前のお問い合せに対して、参加される方の視点から丁寧にかつ適切にレスポンスするよう心掛けたと同時に、患者さんの病状についてもご家族のご了解のもとできるだけ細かく伺いました。ひとえに心臓病といっても、病気の種類や病状の重さ、現在の治療の状況などにより車椅子の方や酸素ボンベを必要とされる方などさまざまです。事前にこれらの情報を伺って、当日の受け入れ態勢を万全にすることでリスクを最小限に抑える努力をしました。当日は患者さん一人ひとりに対して、マンツーマンでボランティアスタッフ1名をつけるようにしたことも、参加されたご家族の不安を払しょくする一助になったと思います。

今回の私たちの取り組みの成功は、第1に参加された患者さんやご家族にとって何を目標にするかという企画目標の設定、第2に患者会—医療者の協力のもとに、いかに安全に参加してもらうかという運営企画、第3に社会貢献をしたいという製薬会社の想いをうまく原動力にして実現に結びつけたことであると考えています。

またオズマピーアールがいままで培ってきたヘルスケア領域と深いつながりと知見があったからこそ、全国心臓病の子どもを守る会をはじめ、専門医の先生方、NPO法人Ubdobe、番組制作会社、そして多くのボランティアスタッフの方々とタッグを組むことができ、この素晴らしいプロジェクトを成功させることができたのだと感じています。

プロジェクトメンバー

伴野 麻衣子

ヘルスケアの領域で、ここまで患者さんを巻き込んだプロジェクトは、なかなか他に類をみません。参加者募集の段階では、共催の「全国心臓病の子どもを守る会」にご協力いただいたり、クライアントのMRさんたちが病院各所にチラシを配布したり、医師が直接患者さんに参加を促してくれたりと、多くの方に尽力いただきました。PRが秘めている新たな可能性を切り拓いたなと実感しています。

田中 日奈子

「“できる”を見つける」というテーマですが、どこまでができて、どこからができないのか、医師をはじめとした専門家や関係各所に意見を仰ぎつつ、慎重にプロジェクトを進めました。そのため、イベントを終えた時の正直な気持ちは“達成感”よりも「無事に終わった!」という“安堵感”のほうが大きかったです。その後、イベントに参加されなかった方からも、「ドキュメンタリー映画のDVDを観て感動しました!」といった声も届きました。少しでも社会へ貢献できた実感がうれしかったですね。

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