- 株式会社うぇるねす
超高齢化時代の新しい可能性を社会に問いかけるコーポレートPR支援を実施(後編)
先入観を取り払うと、見えてくる。 「超高齢化社会のシニアの生き方・働き方」と「パブリック・リレーションズが果たせる役割」
就労意欲のあるアクティブシニアをリスキリング(学び直し)し、労働人材としてパワーアップを図り、人手不足に困るマンション管理の現場に“ピンチヒッター”として派遣するマンション管理員サービス事業を展開する株式会社うぇるねす。2023年9月より、オズマピーアールは株式会社うぇるねすのコーポレートPR活動を開始し、認知度アップに向けた広報活動基盤の整備やメディアリレーションズ活動に取り組みました。
うぇるねす下田会長インタビュー
今回、株式会社うぇるねすの東京本社をお訪ねし、創業者で81歳となったいまも現役で活躍する下田会長に事業を取り巻く背景や社会課題、超高齢化社会における事業の展望についてお伺いしました。
(写真左)株式会社オズマピーアール リレーションズデザイン本部
リレーションズデザイン5部 部長 吉田 真佐浩
■加速する超高齢化、労働人口の減少など、深刻な課題を抱える現代社会
吉田:内閣府が公表している「令和4年版高齢社会白書」によると、2025年には75歳以上の後期高齢者人口が2,180万人、65~74歳の前期高齢者人口が1,497万人に達すると予測されています。国民の約3人に1人が65歳以上、約5人に1人が75歳以上になる、いわゆる「2025年問題」において、最大の課題といわれているのが労働力人口の減少です。そして、あらゆる産業において人材が不足し、労働力人口が減ることで経済成長率が低下すること、さらに、高齢者が増えることによって高齢者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の低下が懸念されています。こうした超高齢化における社会課題について、下田会長はどのように捉えていらっしゃいますか?
下田:労働力人口の減少ということですが、まず、国や社会は古い基準・あたりまえにとらわれすぎだと思いますね。現在、労働力の中核となる生産年齢人口は15歳以上~65歳未満と定義されていますが、就労意欲があり元気な高齢者・アクティブシニアが増加するなかで、年齢に上限を設けるのは本当に正しいのか?と。2022年の日本人の平均寿命は、男性が81.05歳、女性が87.09歳。(厚生労働省「簡易生命表(令和4年)」より)65歳以上や70歳代の労働力も生産年齢人口に入れても良いのではないかと考えますね。
そもそも、定年制そのものが時代遅れだと思っていて、うぇるねすでは定年を設けていません。50歳の働き方、60歳、80歳の働き方はそれぞれ違っていても良い。それぞれに見合った働き方を開発したり、IT技術を活用すれば、シニア世代も十分な労働力になり得るわけです。
吉田:高齢化社会はさまざまな課題がある一方、マーケットとしての可能性も大きいですね。今回、うぇるねす様のコーポレートPRの仕事に携わるなかで一番に感じたのは、シニアに対する見方を変えていくべきだということ。弊社はコミュニケーションの仕事をしていますが、私自身、ある種ステレオタイプな見方をしている部分があったかもしれないなと。御社で働いておられるシニアの方々は、デジタル機器も使うしアクティブだし、情報感度も高い。いきいきと働く姿を見ると、「シニアだからこうだ」という固定観念にとらわれていることに気づかされます。下田会長ご自身がシニアとのコミュニケーションを図るうえで、大事にされていることはございますか?
下田:むしろ、「高齢者だから」と意識しないことです。世の中の状況も仕事の有り様もどんどん変わっていて、昔の価値観や基準は考え直すべきだし、人と接するときも、固定観念を含んだ年齢でとらえるのが間違っていると思うのです。例えば「70歳になったから老人らしくしないといけない」「定年になったからもう仕事がないんだ」とか。無意識で思ってしまっている人は多いけれど、それは違うということを、もっとちゃんと考えていくべきですね。
■現実に制度が追いついていない今、大きな意識変革が求められている
吉田:コーポレートPR活動を行うにあたって、経済的な価値と社会的な価値の両側面から最適解を導き出す「社会デザイン発想®」という弊社独自の考え方を底流にすえて取り組んでいきました。この社会デザイン発想においては、まず「解決すべきPR課題とは何なのか?」という「問い」をしっかりと立てることを意識しているのですが、今回であれば「年齢に関する古い価値観や制度、人々の意識を変える必要があるのではないか?」という問いを根本に設定しました。御社の事業は、高齢化社会のあり方と、建物が長く大切に使われ、資産価値に貢献するマンション管理、ふたつの課題解決に向け正面から取り組んでおられますね。2002年に下田会長がこの事業を立ち上げた時、こうした世の中の状況やシニアのライフスタイルの変容を、イメージされていらっしゃったのでしょうか?
下田:当時、明確にイメージしていたわけではないですね。ただ、私がマンション管理事業に携わっていた50歳の頃、多くの管理員さんと出会うなかで現場で働くシニアの方々の元気な姿を目の当たりにしました。そして、お付き合いを重ねるうちに、元気で優秀な方々がたくさんおられるなと感じるようになり、私自身が高齢者に対し勘違いをしていたとわかったんです。それで、60歳でうぇるねすを立ち上げたとき、定年制は要らないな、と。近年、世の中では生産年齢人口の低下によって日本経済が衰退してしまうという論調ですが、「あれ?うちで頑張ってくれている方々は十分元気し、まだまだ活躍できるぞ」と思うわけです。
吉田:2025年4月から「65歳までの雇用確保」が義務付けられましたが、現在の60歳という定年年齢はそもそも昔の平均寿命を土台に考えられたもの。今は平均寿命はもちろん健康寿命も伸びているので、この年齢設定が合わなくなっているのかもしれませんね。
下田:本当に時代遅れだと思います。最初に定年制ができたのは、日本の平均年齢が50歳に満たなかった頃。当初55歳定年がその後の法改正で60歳になったものの、実態に制度が追いついていません。人々はどんどん長生きして元気になっているのに、古い基準に縛られているから「高齢者だから・・・」と思い込まされている。少子高齢化が進む今だからこそ、世の中全体の大きな意識変革が求められていると痛感しています。
■本当に必要なのは、生きがいであり社会の役に立っているという実感
吉田:私の両親は65歳ですが、リタイア後、毎日好きなことをして定年ライフを満喫していますね(笑)。
下田:私からみればもったいないですよ(笑)人間って緊張感なく過ごしているとどんどん体力も気力も落ちしてしまうけど、仕事をしているとそういう衰え方は絶対にしないものです。むしろ、働いているほうが元気になれるから。
吉田:確かに、仕事を辞めると社会から切り離されてしまい、それによって健康的にも経済的にも苦しくなり、結果、生活の質が下がってどんどんネガティブになってしまいがち。経済的な必要性で働き続ける方も多いとは思いますが、実は社会参加することで心身の健康につながっていることが、最も大切なポイントなのかも知れませんね。
下田:実際に当社で活躍しているシニアの方々と話をすると、その点を大いに感じますよ。60代、70代、80代の人たちが本当に欲しいのは「生きがい」なんです。ところが、働く場を失うと社会とのつながりがなくなり、自分が人の役に立っているという実感がなくなってします。そうなると、まるで社会から要らない存在だと思い始めてしまう。そこが非常に問題で、なんとか変えていかなければならないところですね。
とはいえ、このあたりまえを変えるのは大変です。現実問題、70歳以上の求人はほとんどありません。シニア人材はたくさんいるのに、活躍できる場所がほとんどないわけです。その結果、「もう自分は用無しなのか」という雰囲気におちいってしまう。そこを何とかしたいと考えたのが、当社の事業の始まりとも言えます。シニア層は若い世代に比べ体力は劣るけど、豊富な経験や知識があります。無理のない働き方やしっかりとした教育体制を開発することで、十分にその力を発揮できるのです。
吉田:超高齢化社会が抱える課題に一つひとつ向き合っていくのは本当に大変だし、正論だけでは解決しないこともたくさんあると思います。でも、御社の事業を支えているのは、シンプルに「シニアだって働ける」という想いであり、それがシニアのQOLの向上につながっているのが魅力的だと思うんです。誰もが意識や行動を変えていきやすい環境が整っているからか、シニアの皆さんの「働きたい!」という意欲が伝わってくるようです。
下田:そう。まさに「まだまだ働きたい」という意欲を持った方々が当社に集まってきます。そうなると仲間も増えますし、毎日の暮らしにハリができる。社会の役に立っているという実感が、生きがいにつながっているんだと思いますよ。
■だからこそ、もっと「仕事の場」を創りだし、意識を変えるコミュニケーションを
吉田:現在、御社で活躍するマンション管理員の数は、コンシェルジュを含めて全国で約3,000人。その輪はどんどん広がっています。研修の現場にもお伺いしましたが、いつまでも学び、成長する意欲をもった元気なプロ集団が形成されていると感じます。下田会長としては、今後どのような展望を描いておられますか?
下田:活躍するシニアをもっと増やすために、さらに多くの働く場を提供していきたいですね。そのため、2023年7月に、長寿社会における高齢者の生活の充実と日本の生涯現役を促進する地域事業に寄与するNPO法人『百歳現役』を立ち上げました。現在のマンション管理事業だけであれば、せいぜい10万人が働くぐらいの市場規模ですが、農業や漁業、林業、教育など可能性のある分野へ広げれば、1,000万人単位の需要を生み出せるのではないでしょうか。70歳、80歳、90歳が働ける仕事を開発し、意欲のある人とどうマッチングさせていくか、その仕組みづくりに今後取り組んでいきたいと考えています。
吉田:たとえば物流のように一見シニアには難しい業界であっても、実は高齢の方でもできる仕事がたくさんある。そこをどう開発していくか、ですね。
下田:そうです。今、農業では働き手がいなくて、休耕地がたくさんある。ここにIT化した道具などを活用してシニアでも無理なく働けるようにできれば、雇用問題はもちろん日本の食料自給率向上につなげることもできるわけです。
吉田:本当にいろんな可能性が広がりますね。そんなお話をお聞きしていると、まずは固定観念にとらわれず、認識を変えていくところから始めることが必要だと痛感します。特にコミュニケーションの仕事に携わっている私たちは、さまざまなバイアスを取り払ってフラットな視点を持つことが大事だと改めて勉強になりました。
下田:価値観を変えるというのは、簡単ではないですよね。だからこそこれからの日本社会には、新しい時代に沿った価値観や柔軟な発想を育んでいく幼児教育が重要になると思います。人材育成は15年、20年とかかりますけど、社会をより良く変えていくためには取り組むべき事業だと思っています。
吉田:いろいろと考えさせられるお話で、とても勉強になりました。本日はありがとうございました。
【インタビューを終えて】
高齢化社会における課題認識はありましたが、いろいろな課題が入り組んでいるので、解決するには大変だなと思っていました。ただ、下田会長の話を聞いていると、意外とシンプルな思考やアプローチで解決できることもあるということ、そもそもの高齢者に対する定義や概念、価値観を見直す必要があると感じました。実際、下田会長も元気ですし、まだまだ実現したい夢がありそうなので、僕も負けないようにしたいです(笑)
この場を借りて協力して下さった皆様にお礼を申し上げます。今後ともよろしくお願いいたします。
(取材日:2024年1月25日)
【プロジェクトメンバー】
リレーションズデザイン本部 5部
川端 里歩 久保田 敦 田中 日奈子 吉田 真佐浩
コーポレートコミュニケーション本部 コーポレートコンサルティング部
福田 敦