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新型コロナ禍だからこそ学びなおす「ヘルスケア×危機管理」の心得|事例から紐解く「失敗の本質」(前編)

本コラムでは、オズマピーアールでヘルスケア産業におけるリスク・クライシス事象に数多く対応してきたメンバーが、今の時世だからこそ知っておくべき「ヘルスケア×危機管理」をテーマに論考をしていきます。

佐藤 剛:オズマピーアール ヘルスケア本部 エキスパート
大手化学・化粧品メーカーにて営業を経験後、マーケティング部門にてブランドマネジャーと営業戦略立案、研究開発部門にて新規事業としてアプリとクラウドサービスの開発マネジャーを務める。
OZMA PR入社後は医療・ヘルスケア領域にて、メーカー・医療機関・NGOなど多様なクライアントの広報組織立ち上げ、ブランディング、会見・発表会、リスク・クライシスコンサルティングなどコーポレート領域を中心に従事するほか、TETOTETOプロジェクト事務局として患者会支援も行う。MBA保有。

新型コロナウイルス感染症の流行を機に、人々の健康意識がより高まるのに伴い、これまであまり認知されていなかった医療・福祉・ヘルスケアに携わる多くの企業や団体、またそれらが扱う製品やサービスに、期待と共に注目が集まるようになりました。

特に日本国民のヘルスケア産業に対する期待は、ワクチンに対する様々な声に代表されるように「品質」や「安全性」は「完璧であること」が当然であり、利益を求めることを寛容しない風潮も見え隠れするなど、どこか崇高な倫理観や奉仕の精神を求めやすい傾向にあるとも感じます。ひとたびその期待が裏切られるような事態が起きると、批判の声は鋭さを増し、大きな塊となり、対象に向けて投げつけられることも…。

新型コロナ禍は、ヘルスケア産業に属する企業や団体にとってチャンスである一方、その対応を誤ると窮地に陥る可能性もはらみます。つまり、細心の注意を払うべき「組織の危機管理能力」が試される局面と言えるでしょう。

▼目次

・「謝罪会見」は最後の奥の手
・そこに至る過程の判断・対応がリスクレベルを左右する
・「法的な正しさ」「事業上の必要性」vs.「社会正義」「世論の感情」
・ビジネス上のステークホルダー+国民+複合メディア
・最も重要な情報の集約、一元化と適時共有(ガバナンスが機能している前提)

「謝罪会見」は最後の奥の手

多くの組織人、特に広報部門が「危機管理広報」「リスク・クライシスマネジメント」と聞いて思い浮かべるのは、トップが揃って頭を下げる「謝罪会見」ではないでしょうか。

先述の通り、昨今は企業や団体で発生した不祥事が経営リスクに直結する事例も増えており、そのために広報部門が主導する「模擬記者会見トレーニング」の需要も高まり、弊社も多くの相談をいただいています。

しかし、本来的には、トップによる謝罪会見は「最も避けたい最悪のシナリオ」であり、組織の「透明性高い総合力」や「日常的な危機管理能力」によっては避けられる場合もあります(場合によっては企業評価の低下を食い止めるために意図して会見を活用する判断も十分あり得えます)。

そこに至る過程の判断・対応がリスクレベルを左右する

仮に謝罪会見を開く事態に陥った場合、そのほとんどがステークホルダーとのコミュニケーションに失敗し、批判の矛先が組織や団体に向いてしまっている状態となっていることが多くあります。

なお一般的に、リスク・クライシス事案が発生した場合の危機管理の流れは下記のように整理できます。

ヘルスケア産業は「規制産業」とも言われるように、この流れの間も、自組織内の議論だけでなく、監督官庁や顧客など様々なステークホルダーとのやり取りが発生します。

実は、その社外ステークホルダーとのコミュニケーションの巧拙によって、企業や団体に対する信頼もしくは不信が醸成され、手遅れになった場合に謝罪会見という奥の手を使うことになるのです。

「法的な正しさ」「事業上の必要性」vs.「社会正義」「世論の感情」

例えば大手化学メーカーおいて、転勤人事に関連し社員と企業が対立姿勢となったケースを見ていくと、当初社員の家族がSNSで企業側の対応を批判し、社員とその家族を擁護する流れが形成されていきました。

それに対し企業側は法的な正当性を主張して「企業と雇用される社員の問題」として扱っていましたが、「理不尽なハラスメントに耐える正社員=多くの一般生活者が置かれている立場」であることを理解できていませんでした。

結果的に世論の感情を逆なでし、ブランドに傷をつけることになってしまったケースです。
(参考)日経ビジネス|「育休復帰、即転勤」で炎上、カネカ元社員と妻を直撃

また私が対応したケースでは、国際的に人道支援を行っているNGOにおいて、職員が海外でテロ等に巻き込まれた場合の対応マニュアルを整備する際に、「何を守るか」が重要な論点となりました。

もしこのような事態が現実に発生した場合、「組織とテロリスト間の問題」ではなく、各国政府、外務省、大使館、職員の家族など様々な「ステークホルダーの利害関係」を考慮しながら対応しなければなりません。

刻一刻と変化する状況において「テロリストに屈しない」政府の外交姿勢に配慮しつつ、「職員救助のための交渉に影響を与えない」ことや「職員および家族の安全確保」のための情報統制を行いながら、「様々な立場で声をあげる国民感情」も考慮していくには、「守るもの」に優先順位をつけざるを得ず、厳しい判断が求められるのです。

ビジネス上のステークホルダー+国民+複合メディア

「危機管理」が重要な局面においては「企業vs.社員」や「組織vs.テロリスト」など単純な二項対立の構図ではなく、その周囲に存在する様々な思惑を持ったステークホルダーを意識しなければなりません。

また近年は「1億総メディア」のような環境となっており、誰もがSNSやブログ、ポータルサイトのコメント欄等で事案に対し意見を表明できることにも注意をしなければなりません。

具体的には、事件や事故が発生すれば、近くにいる人がスマートフォンで動画や写真を撮影し、それをメディアに提供できる仕組みが用意されており、テレビ番組では「視聴者提供」というテロップと共に映像が流れるのを頻繁に目にするようになりました。また大手週刊誌は「リーク窓口」を設け、内部資料と共に「情報提供」を受け付けています。

まさに「いつ・どこで・誰が」自分たちのことを見聞きしているか分からない「情報戦」の様相を呈しているのが現代の危機管理の特徴なのです。

最も重要な情報の集約、一元化と適時共有(ガバナンスが機能している前提)

先述の危機管理の流れで最も重要なのは初動の対応(冒頭の図「危機発生後の組織内の動き方の例」1~4)であり、ネガティブな情報をいかに組織内でエスカレーションできるかにかかっています。

すなわち「普段から悪い情報を隠さない組織文化」や「心理的安全性が保たれた組織運営」の実践に他なりません。

それに加え重要となるのが、世論やマスメディアの動向を踏まえた「外の視点」を持つ広報部門が、客観的な分析をもとに「どのように自組織が見られ、語られているか」を関係者にインプットしながら意思決定に参画することです。

リスク・クライシス局面においては、広報部門がハブとなり、「部門間の情報連携」と「組織としてのOne voice化(一貫した情報発信・情報統制)」をリードすることが肝要であり、「情報参謀」として、複雑な情報戦を生き抜くために経営陣を補佐する役割となれるのです。

後編は、私が実際に対応したケースを多く盛り込みながら、危機発生時に組織が陥りがちな「やってはいけないこと」を考えていきます。


【資料】危機発生時における“レジリエンス(早期回復)”を実現するには?

コラムを執筆した佐藤がリードする『ヘルスケア本部・危機管理コンサルティングチーム』が、これまでのサポート実績をもとに、リスク・クライシス事案発生時における組織レピュテーションを早期に回復させるため、平時からの組織体制構築、有事を想定したトレーニング、実際の事案発生時には対応方針の策定、メディア等の対応へのアドバイスを包括的に実施する『危機管理レジリエンスプログラム』の提供を開始いたしました。

<プログラム例>
● 体制構築・プロセス設計(手順書作成)
● 危機管理勉強会(座学)
● メディアトレーニング(座学+模擬記者会見)
● クイックリサーチ(類似ケースの報道・論調調査)
● スポット相談(アドバイス+資料チェック)
● コンサルティング(対応方針検討+アドバイス+資料チェック)
● 記者会見運営サポート

この度、危機発生時に取り組むべきことや検討すべきことを解説した資料をご用意いたしましたので、ご要望の方は下記申込フォームより、必要事項をご記入のうえご請求ください。
https://forms.office.com/r/eAdamD7FGA


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