患者会などNPOの広報活動のお手伝いをプロボノ(スキルや専門知識を活用して取り組むボランティア活動)で行う「テトテトプロジェクト」。
NPO経験者としてプロジェクト事務局を担当するメンバーがお届けする、医療・ヘルスケアに関連するNPOの広報が知っておきたいシリーズ第2回です。
今回は情報発信に欠かせない「ツール」がテーマです。
第1回 広報活動に取り組む前に知っておきたいポイント
第2回 コミュニケーションに役立つツールの整備(今回のコラム)
第3回 メディアに関心を持ってもらうための「プレスリリース」作成のコツ
第4回 寄付を募る「ファンドレイジング」の準備
【このコラムのポイント】
●前回の振り返り:広報活動、情報発信に取り組む前に「知っておくべきこと」
の全体像
●患者会の成長フェーズと取り組みの変化
●ツールの種類と特徴の整理
●「仲間」と「サポーター」ごとの「満足」につなげる情報の整理(付録付き)
筆者:佐藤 剛(オズマピーアール ヘルスケア本部 エキスパート)
〔前回の振り返り〕
広報活動、情報発信に取り組む前に「知っておくべきこと」の全体像
第1回目の投稿では、広報の体制について、情報の流れと用いるツールについて図を用いて整理しました。
https://ozma.co.jp/column/detail/69
そのうえで「次のようなことを想像しながら、一緒に取り組みを考えていきます」とお伝えしました。
「『患者同士』『企業』『メディア』のそれぞれで、日常的に使っているツールや情報収集の方法が違っており、それによってメッセージの届け方や見せ方が変わってくるので、目的に応じた『タッチポイント』と『情報流通』を設計できるかな?」
「『やりたい!』ことに応じたツールが用意できているかな?」
「これまでどんな取り組みをしてきたのかな?」
そこで今回は、いざ「情報発信に取り組もう!」と決意した際に、はじめに検討したり、整理したりしておくと良いポイントをお伝えしていきます。
患者会の成長フェーズと取り組みの変化
お話をお聞かせいただいた皆さんの、団体としての取り組みをフェーズごとにまとめると、概ね3つに分けられるようです。
<第1フェーズ>
●患者さん本人やご家族など、当事者同士がつながる。
●同じ医療機関や地域で小さなグループをつくり、お互いに連絡を取り合い、
情報交換を行う。
●使用するツール:SNS、ブログなど
<第2フェーズ>
●他地域での連携や全国的なつながり形成に取り組む。
●特に患者数が少ない希少疾患の場合、治療できる医療機関や相談できる専門家
が居住地に存在しないこともあるため、地域をまたいで協力・連携する輪を
広げていく。
●使用するツール:ホームページ、SNS、紙媒体など
<第3フェーズ>
●規模の拡大と組織化に発展する。
●多様な人が参画すると、ニーズが細分化するため「当事者同士の情報交換」か
ら「治療環境の向上・確立」「ボランティアや寄付など必要な支援の獲得」
「アドボカシー(声をあげて社会や制度に影響を与える活動)」など、
様々な目的と、それにあわせた組織化が進む。
●使用するツール:プレスリリース、ニュースレター、クラウドファンディング
など
「自分たちはどの段階にいるんだろう?(現在地の確認)」
「これから取り組むべき、実現すべきことは何だろう?(未来地図の確認)」
これらの「問い」を重ねて行ったり来たりしながら、リソースが限られてしまうなかでも、できることを1歩ずつ進めていくといった姿勢が大切になります。
ツールの種類と特徴の整理
次に、患者会をはじめとしたNPOが使える・使うべきツールを、その種類や特性を俯瞰して見ていきます。
<ホームページ>
今となっては代表的な広報ツールとなりました。
開設するためにサーバーやドメインなどの契約手続きが必要で、きちんと制作するには専門的な知識も必要になることが多いのですが、最近は『Wix』や『Jimdo』など、基本機能は無料で使うことができ、特別な知識がなくても用意されたテンプレートに沿ってホームページを作れるサービスもあります。
【役割】
たくさんの情報をアーカイブして整理、インターネット検索した人が訪問し、充実した情報を得やすくする
【対象者】
患者さん、ご家族、一般人(サポーター候補)、メディアなど
【特徴】
ページのタブや階層を分けることで、探したい情報に辿り着きやすくすることができ、お知らせ(ニュースやコラム)、SNSと連携させるといった他のツールとの相互利用も可能なプラットフォーム
【手間】
何をどのような場所に置くことで、情報にアクセスしやすく、見やすくできるか、設計をきちんと考える必要がある。
また自分たちで制作や更新する場合も、外部に委託する場合も、「ページ全体および個別ページで何を伝えたいか」を事前に考えて言語化しておくと良い
<SNS/ブログ>
個人でも使っている方が大勢いる、こちらも身近になったインターネットサービスです。
ホームページとの違いは、各種サービス(Facebook、Twitter、Instagram、note、Amebloなど)を利用しているユーザーがコミュニティ化されているので、更新したらサービス内でつながった人に通知されたりするなど、「プッシュ型」のアプローチも可能なことです。
(ホームページは「プル型」といって、GoogleやYahoo!などの検索エンジンを利用した人しか辿り着けない受動的なツール)
【役割】
最新の取り組みや直近で実施したことなどを、写真、動画、テキストを用いて簡単に「投稿」の形で表現できる
【対象者】
患者さん、ご家族、一般人(サポーター候補)など
【特徴】
手軽に利用できる反面アーカイブ機能は充実しておらず、過去の情報が探しにくい。
またつながったユーザーのフィード(ホーム画面のタイムライン)に流れていっても、見過ごされる可能性もあるため、常にプッシュ型が機能するわけではない
【手間】
継続して投稿するためには「ユーザー視点」でコンテンツをシリーズ化していくなど、計画的な運用体制を整える必要がある。
他のユーザーに表示されやすくするためには「この投稿は有益である」と「アルゴリズム(コンピュータプログラム)」に評価される必要があるため、「自分語り」だけでは通用しなくなっていく
<紙媒体>
ある程度の期間運営しているNPOは、こちらの紙媒体の方が馴染みがあるかもしれませんね。
団体紹介、活動報告、会報誌など、手元に残る資料として用意することで、インターネットにアクセスしにくい人に情報を届けたり、仕様に工夫を入れたりすることで「届く」「開封する」「手に取って読む」といった「特別感」のあるリッチな体験を設計することも可能です。
【役割】
保管性やアクセス性など、デジタルコンテンツに適さない、もしくは扱えない場合に整理した情報を届けることができる
【対象者】
患者さん、ご家族、一般人(サポーター候補)など
【特徴】
制作や印刷に一定の時間がかかるため速報性は低い分、写真やテキストで充実したコンテンツにすることができる。
一方、修正が難しいのでチェック体制をしっかりさせる、物として残るので在庫管理が必要になるなど、他のツールよりも運用工数がかかってしまう
【手間】
前述の通り頻繁に発行することが難しく、更新性の高い内容には不向き。
最近はパワーポイントなど身近な文書作成ソフトで印刷用データを作成し、『プリントパック』や『ラクスル』といったネット印刷で発行できる環境が整っている
※プレスリリースやクラウドファンディングは、また別の回で詳しく説明しますね。
「仲間」と「サポーター」ごとの「満足」につなげる情報の整理(付録付き)
今回のコラムでお伝えしたかったことをまとめると、
●団体の置かれているフェーズに応じた、「取り組みたいこと(未来地図)」を
描く
●広報活動で情報を届ける目的、相手の状況や関心に応じたツールを選択する
●「作って終わり」「やって終わり」にならないように、継続運用できる体制を
整える
「まずは手軽にSNSから始める」
「ホームページは最低限の情報から掲載していく」
このように「できること」からスタートすることも大切です。
しかし一度公開してしまい、小まめに投稿や更新ができないなど運用が不安定な場合、
「この団体、本当に大丈夫かな…?」
「ほしい情報が見つけられない。。」
と見た人を不安にさせてしまう残念な結果になることもあるので注意が必要です。
最後に、ツールの使用や制作を検討する際に、「どんなニーズに対して」「こんな情報が用意できると」「ユーザー満足につながりそう」という考えを整理するためのシートをご用意しました。
【シートの使い方】
①まずは「患者や家族(当事者)」と「一般人(サポーター候補)」ごとに
「何を目的にツールを使うのか=ニーズ」を整理する
②次に「そのニーズを満たすための情報は何か」を洗い出す
③最後に、洗い出した情報それぞれが、「どんな内容で」「どんな表現方法
(テキスト、表、グラフ、写真など)で伝えると分かりやすいか」を考える
私たちの日常生活でも、同じ情報を扱っているはずなのに、探しやすさや見やすさで「満足度」が左右されてしまうこともありますよね。
せっかく関心を持ってもらったり、調べてもらったりした人と良好な関係を築いていくために、「ユーザー視点」で情報を届けるヒントになりましたら嬉しいです。
次回は、メディア向け広報の武器「プレスリリース」の書き方についてお届けする予定です。