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地域医療を支える病院広報のススメ ~住民から選ばれる病院になるために~ 後編

本コラムは、近年ニーズが高まっている「病院広報」について扱い、前編では、取り組む際のコツや院内の連携で気を付けるべきこと、中編では具体的に広報活動に取り組むためのツールの活用方法や、メディアを対象とした情報提供の手法など、実践的な内容を解説しました。
前編はこちら。中編はこちら

今回は後編として、2019年度より弊社が広報をお手伝いさせていただいている済生会横浜市東部病院の広報推進室 荒木様に、広報活動に取り組んで得られた成果や今後の課題など、当事者としてのリアルな声を聞いてみました。

社会福祉法人恩賜財団 済生会支部神奈川県済生会横浜市東部病院
病床数562床を有す横浜市の中核病院で、2007年に開院。
救命救急センター・集中治療センターなどを中心とした急性期医療および数々の高度専門医療を中心に提供する急性期病院でありがながら、横浜市の政策的医療の一環としてハード救急も担う精神科、重症心身障害児(者)施設も併設されている

佐藤 剛:オズマピーアール ヘルスケア本部 エキスパート
大手化学・化粧品メーカーにて営業を経験後、マーケティング部門にてブランドマネジャーと営業戦略立案、研究開発部門にて新規事業としてアプリとクラウドサービスの開発マネジャーを務める。
OZMA 入社後は医療・ヘルスケア領域にて、メーカー・医療機関・NGOなど多様なクライアントの広報組織立ち上げ、ブランディング、会見・発表会、リスク・クライシスコンサルティングなどコーポレート領域を中心に従事するほか、TETOTETOプロジェクト事務局として患者会支援も行う。MBA保有。

前田 紗希:オズマピーアール ヘルスケア本部 シニアアソシエイト
看護師資格所有。大学卒業後、国立高度専門医療研究センターにて看護業務に従事。
幅広い領域の疾患に関する知識を有し、患者さん、ご家族の目線に立った関わりや、医療関係者を含めた多様なステークホルダーとのコミュニケーションを得意とする。
OZMA入社後は、医療機関や国際NGOのPRを担当し、高度医療や研究発表に関する広報活動のほか、地域住民や患者さん向けの啓発活動、インタビュープログラムなどに携わる。

▼目次
広報は片手間になりがち?病院が広報活動に力を入れる意義とは
病院広報は、院内の士気も高める!院内の情報をいかに集めるかが重要な使命
“良い技術や医療サービスがあっても、それが必要とする患者さんに伝わらなければ意味がない“

広報は片手間になりがち?病院が広報に取り組む意義

佐藤:2019年度から弊社との協働が始まりましたが、PRエージェンシーの活用に至った経緯を教えていただけますか。

広報推進室 荒木 愛美様(以下、敬称略):当院は地域の特性上、横浜市や川崎市だけでなく首都圏の患者様もご来院いただくことが多いです。つまり競合性が高い環境下で、どう皆さんに選ばれる病院になるのか、という課題感が長らく院内にありました。

そんな折、2018年度からの中期事業計画に、病院としての「広報・ブランドの強化」が挙がりました。しかし、当時の担当者含め、社内の誰も「広い意味での広報活動」について知見がなかったんです。

「自走できるようになる」ことを目標に、総合的なノウハウやメディアとのリレーション構築をPRエージェンシーにサポートいただきたいと思い、御社に相談させていただきました。

佐藤:弊社とご一緒する前は、広報推進室としてどのような取り組みをされていたのでしょうか?

荒木:広報誌の発行やホームページの管理、パンフレットやポスター、チラシ等の印刷物の制作が主でした。制作に関するスキルはつきましたが、だんだんとマンネリ化していき「手段の目的化」になっていたかもしれません。
また、当時は広報の専任ではなく、兼務体制でしたので、クオリティにも限界があり歯がゆさはありました。

組織としての位置づけは、広報推進室自体は2013年に立ち上がり、当時は「顧客サービス課」傘下でした。顧客サービス課では、「患者支援室」「地域医療連携室」「広報推進室」が横並びでそれぞれのステークホルダーとのコミュニケーションを担っていましたが、あまり連携は取れていなかったように思います。

佐藤:そうだったんですね。私の経験上、広報の専任者を立てている病院はまだ多くないように感じます。広報の専任者を立てる意義はどこにあると思いますか?

荒木:片手間ではなく、専任で行えること、できることが増えると、例えば制作物一つとっても発信する情報量や質に差が出る気がします。
また注力できることで、取材時のフォローの質も高められるようになりました。最近も取材いただいた記者の方から、「東部病院はよく情報発信をしている」とお褒めの言葉をいただいたこともありました(笑)。

佐藤:たしかに、取材は記者とコンタクトするタイミングが重要で、レスポンスの速さや連携のスムーズさは重要なポイントですよね。

病院広報は、院内の士気も高める?院内の情報をいかに集めるかが重要な使命

佐藤:広報に力を入れてみて感じた、院内の変化はなにかありましたか。

荒木:御社とご一緒するようになってから、制作物が中心だった仕事が、パブリシティ(報道)獲得やSNS運用、またメディア取材も兼ねた市民公開講座の企画など、総合的な対外発信の活動にシフトしました。特にパブリシティはこちらが想定したタイミングでは記事化してもらえないこともあり、まだ難しさも感じますが、逆に想定以上に大きな反響があったこともありました。

例えば、手術支援ロボットの操作体験会は、当初は記者との関係づくりを目的に実施しましたが、結果として記事化いただくことができたのは嬉しい誤算でした。このような成果を見た院内のスタッフから、「自分たちの部門も紹介してほしい」という声が出てくるようになり、外向けの広報活動が院内にもプラスに働いていることを感じます。

前田:実際に現場からの声がきっかけでプレスリリースを作成したこともありましたよね?

荒木:日本腹膜透析医学会学術集会・総会でのコメディカル賞受賞は、スタッフからの相談によるものでした。プレスリリースやSNSでの発信を重ねた結果、複数媒体で取り上げていただきました。
スタッフは思いがけない反響に喜び、感謝されたことは私も嬉しかったです。スタッフにとって自分たちの取り組みを対外的に知ってもらうことはモチベーションの向上にもつながっているようですね。

前田:広報テーマを探すことは大変と思われがちですが、意外と身近なところにあったりするんですよね。

荒木:さまざまな職種のスタッフが働く病院という大きな組織のなかには、見つけられていないたくさんの情報があるのだと改めて感じましたね。でもそれは、広報の存在を知ってもらわないと集約できないなとも感じます。まだまだ拾いきれていないたくさんの種があるんだろうと思います。

佐藤:SNSも毎月力を入れていますよね。

荒木:SNSは公式Facebookを主に運用しています。

特に良いリアクションを感じる内容は職員などの「人」が出るものや、病院の「日常」を取り上げたものです。病院という張りつめた場所だからこそ、温かさが感じられるものが好まれるのかもしれないですね。

特に、年始にリニューアルした壁画の投稿は院内外からたくさんの反響をもらいました。

私自身、学生時代にホスピタルアートを学んでおり、病院が地域の人にとって身近になり、安心や親しみを持ってもらう場所にしたいと考えていたので、こうした活動を通して自分の思いが実現できたことが嬉しいです。

また、SNSは反応をすぐ見ることができるので、病院をより良い環境にしたいと思っての取り組みに共感くださる人がいることを感じられて有難いですし、広報の可能性を実感することができ、励みにもなります。

“良い技術や医療サービスがあっても、それが必要とする患者さんに伝わらなければ意味がない“

佐藤:これまでの取り組みを通じて、医療機関が広報に取り組む意義については、改めてどう考えていますか。

荒木:「病院はつぶれない」と思われがちですが、危機感は持たなければなりません。地域医療を守るために、経営の目線も非常に重要で、そこには真摯に取り組まなければなりません。

2022年4月より、顧客サービス課傘下だった広報推進室が、「経営管理課」の傘下となり、戦略的広報の推進を強化するようになりました。
経営管理課になってからは、病院を俯瞰して広報についても考えることが増え、視座が上がったように感じます。

それだけでなく、自分たちが持つ「より良い医療の情報」を、受け身や片手間ではなく、能動的に発信していくことで、それを必要とする患者さんに届けることができるのではないかと考えるようになりました。

前田:私の臨床経験からも、医療の情報は「難しい」と敬遠されがちで、なかなか社会に受け入れられにくい面もあると思います。でも医療情報が身近になれば、患者さんにも病院にもメリットがあるということですね。荒木さんは広報として、これから東部病院をどんな場所にしていきたいですか。

荒木:4年前に御社と策定したビジョンでもありますが、「地域から頼られる存在、東部地区の医療を共に創るパートナー」になるという目標は変わっていません。
リニューアルした壁画にも、患者さんやご家族、地域の皆さん、職員にとって身近な存在、親しみのある病院になることの願いを込めました。

そのためにも、まずは院内で広報の存在を知ってもらい情報をキャッチできるようになること、「知らせたい」という思いのあるスタッフに、私を利用してもらえるような存在になりたいです。

その兆しも出ており、広報を通じて報道されることで、職員同士がそれぞれの取り組みを知ることもあったり、他部門の取り組みを見て、「自分の診療科もやりたい」と相談されたりすることも増えてきました。
また渉外担当が広報の制作物を持ってクリニック回りをすることもあるようで、その際にドクターから感心されたこともあったと聞きました。広報の視点や活動が院内外にとって有益であることを実感します。

佐藤:最後に、これから「広報に力を入れたい」と考える病院にメッセージをお願いできますか。

荒木:たくさんの病院があるなかで、患者さんに選ばれる病院にならなければならない。これはどの病院も抱える課題であると思います。

病院広報は単に「制作物を作る」「メディアに出す」だけでなく、病院経営においても重要な役割を担うことができます。記事を見て来院いただく方がいらっしゃったり、SNSのリアクションを通じて患者さんや地域の皆さんからの反響を身近に感じたりすることができるのは、やりがいにつながります。

また、スタッフの頑張りを世間に知ってもらうお手伝いをすることで、彼らのモチベーションアップやリクルートにもつながるなど、広報を起点に病院を活性させることができる大きな可能性を秘めているとも感じます。

病院広報は、スタッフとのつながりや広がりが生まれることも多いです。トライ&エラーで成功体験を積み上げ、良い循環を回し、自分の病院の良いところに目を向けて、伝えたい相手に適した手法で地道に伝えていく。これが重要なのではないでしょうか。

佐藤:地道に、大事ですね。

荒木:はい、少しずつ関係を作ることを心がけてきた結果、リリースを配信するごとに注目してくれる記者さんが増えていることや、SNSで投稿するごとに反応してくれる方が出てきています。

以前、佐藤さんがおっしゃっていた「種をまいて少しずつ育てていくこと」が大切なのだと改めて思いますね。

【取材後記(前田)】
「良い技術や医療サービスがあっても、それが必要とする患者さんに伝わらなければ意味がない」

インタビューで、この言葉を荒木さんから聞いた際、私自身も改めて病院広報の意義を感じました。
私自身もかつてそうでしたが、病院スタッフの多くは、目の前の患者さんに一生懸命で(もちろんそうあるべきですが)、それ以外のことには目が向きにくいことは事実だと思います。

自分のキャリアやライフスタイルのために働く場所を選ぶことも多く、病院経営に目を向けることは一般のスタッフでは少ないです。恥ずかしながら私自身、自分の働く病院に広報部門があり、Twitterを毎日更新していることを臨床に立っていた当時は知りませんでした。

多くのスタッフが「苦しむ患者さんを救いたい」という思いを持っているなかで、広報は患者さんにより良い医療を提供するためにも必要な活動である事実をもっと広く伝えていく。

そして病院一丸となって広報に取り組むことができると、巡り巡って患者さんへのメリットはもちろん、悔しいことにも多く直面する日々でもモチベーション維持につながり、生き生きと働けるスタッフも増えるのではないでしょうか。

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