集客数が前年度から3倍増! 天候不順のマイナス要素を逆手にとったPR
比良山系の標高1100mに位置し、琵琶湖を一望する滋賀随一の絶景スポット、「びわ湖バレイ」。12~3月のウィンターシーズンはスキー客で賑わう場所です。しかし高い山ゆえに天候不順の日もあり、4~11月のグリーンシーズンの集客率が思うように伸びない傾向がありました。そこで「大人の山岳リゾート」のコンセプトのもと、テコ入れとして2016年7月にオープンしたのが、絶景をカフェやデッキから楽しめる「びわ湖テラス」です。
しかし雲や霧がでる日が年間3分の1もあり、来場者の目的である絶景が「まったく見えない確率の高さ」がネックになっていました。天候によって“入場者数”も“訪れた印象”も左右される新施設を“びわ湖テラスPRチーム”がいかに戦略的にPRし、開業以来、過去最高の入場者数となるほど劇的に集客数を伸ばしたのか、その逆転的発想で進めたプロジェクトをご紹介します。
課題と戦略
絶景が見られないことを“面白がる”土壌を作る
いまや誰もがスマートフォンなどで美しい景色を撮影し、インスタグラムなどのSNSに投稿する時代です。水盤が空と湖の境目をなくす幻想的な風景を上質な特注ソファに座って楽しめる「びわ湖テラス」は、まさに「インスタ映え」するスポット。しかしひとつだけ問題がありました。それはこの絶景が必ず見られるわけではない、という不確実性です。
高い山に琵琶湖からの水蒸気がぶつかるため、下界は晴れていてもテラスのある山頂は雲の中……という日も少なくないのです。びわ湖バレイの広報・柿本隆美さんも「当施設に限らず全国的に山岳レジャー施設はどこも『天気が悪い日はあきらめてください』としか言えなかった」と話します。来場者は天気が悪い日は何も楽しめず、ただ残念な思いを抱えて帰るしかなかったというのが実情でした。
PRチームもヒアリングや打ち合わせのため何度も足を運び、現状の確認をしました。そして一瞬のうちに霧がわきあがり、まったく視界が見えなくなることを実際に経験し、「インスタ映え」だけで話題を打ち出すのは困難と判断。むしろ絶景が見られないことをポジティブな要素に転換させ、天候に関係なく継続的にファンが訪れてくれるような話題づくりが必要と考えました。そこで、考えついたのが関西の土地柄をいかせば、絶景が見られないことを“笑い”でポジティブに転換してくれるのではないか?それが今回のPRの出発点でした。
取材サポート時に撮影した一枚。視界不良で「もう何も見えない、できない」一見残念に思える状況を「雲の中にいるなんてここでしか体験できない!」とポジティブに面白がる流れにできないかと考えた。
課題
- 絶景がいつでも見られるわけではない不確実性
- インスタ映えだけで話題を打ち出すのは困難
アプローチ戦略
- 天候不良の状態をポジティブな視点でマスディアへ
- 新施設の売り込みは、新たな切り口で
PR施策 活動内容
[アプローチ戦略1] 天候不良の状態をポジティブな視点でマスメディアへ
まずPRチームは今まで築き上げた関係をいかし、関西のテレビ局・出版社・Webメディアなどさまざまなメディアにヒアリングを開始しました。どのメディアに聞いても開業から52年というびわ湖バレイの認知度はとても高いのですが、スキー場やジップラインで遊べるファミリー向けの施設という認識でした。そこでまずそのイメージを払拭する「大人の山岳リゾート」がコンセプトのカフェが開業することをご説明し、「え? あの場所にそんな新しいものができるんですか?」と担当者の興味を引き出しました。
そしてアポイントがとれたところで関西のテレビ局や出版社へ、柿本さんとともにメディアキャラバンをスタート。キャラバンの際、プロジェクトメンバーの木村は絶景であることはもちろん、多くのメディアが取材時に心配される天候の悪さも正直にお話し、その視界不良の状態を「雲の中にいるような」「平地では体験できない面白さ」などポジティブな状況としてとらえることを重点的に提案しました。
“絶景であれ天候不良であれ、どちらでも面白い場所”
メディアキャラバンへの同行が初体験だった柿本さんも、緊張しつつも絶景の素晴らしさとともに天候が悪いときの現場の状況を説明。もともと持っている「絶景ポテンシャル」の高さにくわえ、「絶景はもちろん、天候が悪いのもそれはそれで面白いんじゃないか?」と多くのメディア担当者に思わせることに成功。さらにPRチームだけでなく、柿本さんは従業員が撮影した現地の状況を伝える写真を数多く持参し、現場担当者として状況を熱弁。その熱意もまたメディア担当者たちの心を動かしました。
そしてメディア特性を狙った「その面白い状況を見せられるのは、やはり“映像”なんです」というPRチームの提案が実り、結果的に多くのメディアに“絶景であれ天候不良であれ、どちらでも面白い場所”という視点で取り上げてもらうことができました。
ポイント 逆にオモシロイ! 狙いは「映像」+「関西のノリ」
関西では最新情報の入手先は主にテレビ番組が中心です。またスタジオのコメンテーターたちはネガティブな要素を「笑い」に変える関西人ならではのノリの良さがあります。実際のメディア露出では、一生懸命説明するリポーターの姿が霧のなかに消えていってしまう状況や、中継前は晴れていてもいざ生中継が始まるとあたり一面雲の中……それが逆にオモシロイ!というびわ湖バレイの楽しみ方がテレビによってお茶の間に徐々に伝わっていきました。
写真撮影も、水盤などテラスの風景の使い方+その日の天候+アイデアで、そのときにしか撮れない独創的な撮影ができると、ポジティブに楽しむ人が急増。
インスタ映えしないのもオモシロイ! 来場者も狙いどおりの楽しみ方を実践
来場者のインスタグラム(https://www.instagram.com/explore/tags/びわ湖テラス/)も雲の中にいるような不思議な写真、霧で上半身が見えない写真など自由な発想のものが多くなり、感想も「ここまできたら面白い」「逆に笑える」「びわ湖バレイいつかリベンジ」などとポジティブなものに。
その変化に「昔は景色が見えなかったら『金返せ』と100%クレームでした。でも今は『残念だったけどまた来ます!』と前向きな声が多くてびっくりしています」と柿本さん。
PRチームの「きれいな景色だけじゃない! インスタ映え縛りを打開!」というPRコンセプトが、今までにはなかった大きなうねりを作り出しました。「天気が悪いとわかっているのにお客さんが来る。今から自分は雲の中に行くんだってワクワクしているお客様の顔を見ると、私たちも救われるんです」と柿本さんをはじめ、従業員たちの考え方もポジティブに変わりつつあります。
そして山岳リゾートは天気が悪いと打つ手がないという従来の受身の姿勢から抜け出し、翌年の2017年8月に新たにもうひとつのカフェ「CAFÉ360」をオープンさせる攻めの姿勢に転じました。
[アプローチ戦略2] 新施設の売り込みは、新たな切り口で
CAFÉ360はびわ湖テラスのあるロープウェイ山頂駅からリフトを2つ乗り継いだ場所にあります。もちろんここも訴求ポイントはパノラマの大絶景。とはいえ“2番目のカフェ”でやや新鮮さにかけるカフェをメディアにどう売り込むか。それが柿本さんからの新たな依頼でした。
そこでPRチームは東京でのPRノウハウを培った辻本を中心に、前回とは違う新たな切り口で打ち出すことにしました。ひとつは「びわ湖テラス」より高い場所にあるというオーソドックスな情報。そして2つ目こそ注力した点ですが、年々減少していた来場者数が2017年のグリーンシーズンだけで過去最高の38万人を突破し、今なお来場者が増加し続ける好調な施設だと強調することでした。
そして去年お世話になったメディアの方々に「今年はCAFÉ360ができます」と前回の関係性をいかしたメディアキャラバンを再び実施。再び柿本さんにも同行していただきました。
[ポイント] 人気が人気を呼ぶ⁉ 「過去最高の来場者を突破!」を強調
狙いは「そんなに人気が続いているのはなぜ?」とメディアや一般の人からの注目を集めることでした。
2017年に新たにオープンしたパノラマ絶景カフェ「CAFÉ360」
成果
集客数が前年度から3倍増! 度重ねる成功にさらなる注目が集まる
そして関西圏だけでなく、中京圏へとメディアキャラバンも拡大。そんなPR戦略が功を奏し、関西圏、中京圏で単純なスポット紹介にとどまらず、「なぜ好調なのか?」とその要因を深掘りしてびわ湖バレイを紹介するメディアも増加しました。
その結果、新たな来場者の獲得だけでなく、地方のレジャー施設が集客率で成功を重ねていくびわ湖バレイに注目し、「その人気の理由を知りたい」と日本全国から視察依頼が殺到するほどになりました。
まとめ
「びわ湖バレイ5ヵ年計画」を一緒に汗をかいてサポート
びわ湖バレイは今まで自社でプレスリリース制作やPRをしており、今回初めて他社にPRを依頼。そして自社にはなかったオズマピーアールの逆転の発想を軸にしたPR戦略で、驚くべき効果を得たことに大変満足していただけました。
なお、びわ湖バレイでは「5ヵ年計画」として今後も既存施設を改装するなどして、新たな施設がオープン予定です。「オズマピーアールの強みは、依頼をしてくださったクライアントさんとチーム全員が汗をかいて最後まで一緒に走るという点だと思います」と久保田が言うように、今後も新たなPRの可能性を提案しながら、チーム一丸となって柿本さんとともに最後まで一緒に駆け抜いていきたいと思います。
びわ湖バレイ株式会社 営業部企画課主任 柿本 隆美さん(中央右)と
オズマピーアール“びわ湖テラスPRチーム”