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PAリレー対談~ルール形成の現場から(3)なぜ企業にとってルール形成が必要か【前編】羽生田慶介さん(オウルズコンサルティンググループ代表取締役CEO)

環境、人権、ジェンダーなど取り組むべき社会課題が山積する中で、ポリシーセクターやソーシャルセクターといった非市場領域と連携し、社会課題解決力を内包したビジネスモデルへの変革を提唱するソリューション「ルール形成」が今、注目されています。

私たちオズマピーアールでも、パブリックアフェアーズ(PA)を担当する専門チームを立ち上げ、PAとPRを掛け合わせた「ルール形成コミュニケーション」の提供を開始しています。

今回、経営におけるルール形成の必要性をより多くの方にお伝えしようと、弊社PAチームのメンバーがホストとなり、ルール形成の最前線で活躍されている方々をゲストに迎えた対談コラムを複数回に渡ってお届けします。

第3回は多摩大学大学院ルール形成戦略研究所副所⾧/株式会社オウルズコンサルティンググループ代表取締役CEOの羽生田慶介さんをお迎えしました。経営戦略・事業戦略に関する豊富なコンサルティング経験をお持ちの羽生田さんと、弊社西山が、企業が取り組むべきルール形成と企業価値を伝えるストーリーの重要性について語り合います。

聞き手:西山卓(オズマピーアール パブリック・アフェアーズチーム)

(3)なぜ企業にとってルール形成が必要か

【前編】民間企業が明日からできる、非市場戦略としてのルール形成

■ルール形成に取り組まない企業に未来はない

西山卓(以下、西山):第1回の対談では、國分俊史さんと経済安全保障の観点からルール形成についてお話をうかがいました。今回、羽生田さんとはもう少しビジネスに寄ったかたちで、ルール形成が企業にとってなぜ必要かお話していきたいと思います。

正直なところ、今は我々が企業に対してルール形成の重要性をお話しても、ピンと来ていない方がまだ多いという印象です。「民間企業がなぜルール形成を考えなければいけないの?」という反応なんですね。この言葉に対してどう答えたらいいのか、改めてお聞かせいただけますか。

羽生田慶介(以下、羽生田):では大きなところから整理していきましょう。まず、ルール形成に取り組んでいかねば日本の産業の未来はない、そういう局面にいるのだという認識が必要です。

日本の産業は、これまでの戦い方を続けていったところで、もはや万策尽きたという悲観的な状況にあります。平成の30年あまりを通じて、世界での時価総額ランキングでは壊滅的に負けてしまいました。

また、2009年から2019年の間、日本の全産業について合計すると、純利益は5倍になっているけれど売上は1.1倍にしかなっていないんです。これは言ってしまえば、コストを削減してきただけの10年間だったことを意味しています。確かに利益が出れば株価も上がり、経済が伸びているように見える部分もあります。しかし売上が1.1倍ということは、ここ10年で、日本全体で見ればビジネスのサイズは全然大きくなっていないわけです。

西山:利益を上げるためにさらなるコストカットを、といっても限界があります。

羽生田:私はよく「不健康なボディビルダー」という例えでお話しします。ボディビルダーは最後のパフォーマンスに向けて極端に体脂肪を落としていきますが、その結果、餓死寸前までいったり風邪を引きやすくなったりと、きわめて不健康な状態になります。

企業もこれと同じです。過度に筋肉質なサプライチェーンを追求するあまり、結果として投資余力もないし、コロナ禍でマスクが売り場から消えたように、中国のサプライチェーンがちょっと停滞すればすぐに立ちゆかなくなる。とにかく不健康な産業構造に陥っているわけです。

これから先は、これまでマーケティングの教科書で習ってきたような3Cとかコストリーダーシップとか、そういう方法ではもはや通用しません。単純な差別化やコスト競争では勝てないんです。

西山:日本企業の多くはQCDを誇ってきましたが、もはやそれだけで価値を高めていくことは難しい。

羽生田:QCD、クオリティ、コスト、デリバリー。この観点で見ても日本企業はもう勝ち得ない。コストはもともと高いですし、デリバリーつまり納期を守るというのは意外と国際競争力になるものの、納期の速さで日本企業が優位性あるわけではありせん。

また日本が長年、強みとして提唱してきたクオリティについては、海外の低コスト製品のクオリティがどんどん上がってきています。日本の企業が「高品質だから」という理由だけで今後100年続く企業になれる可能性は極めて低いです。

GDP競争ではもうアメリカか中国か、この後来るインドしか勝ちようがありません。GDPでもQCDでも勝てないとなると、違うモノサシで戦うしかない。モノサシを変えるルール形成に本気で取り組まない限り、日本から次の100年企業が出ることはない。これが企業にとってルール形成が重要な理由です。

■これまで日本が取り組んでこなかった、非市場戦略としてのルール形成

西山:今まで通りではうまくいかないときに、ひとつの強力なツールとしてルール形成があると言うことですね。

羽生田:マクロにはSDGsのような新しいモノサシが登場しました。ミクロにも産業別に新しいモノサシを作っていこうというのが今の流れです。

西山:GDP競争で勝ち切れなかったEUが、新しいモノサシとしてSDGsやESGをリードしている。SDGsは社会課題の解決目標ですが、産業面での戦略でもあるわけですね。

羽生田:その通りです。もちろんSDGsの169のターゲットは、途上国の意見も十分入れた状態で国際合意しています。しかし産業の視点では、GDPから競争軸をずらす狙いがあるのも事実です。

西山:確かに、ある日突然グローバルなルールが変わることによって、これまでの優位が逆転することがあります。EUがSDGsを推進しているのには、自国の産業に有利なルールを敷いていくという目論見もあるんですね。

羽生田:脱炭素の流れはその典型です。温暖化対策をやるのは、気候変動に対して地球の持続可能性を守るためという本来の目的があることは大前提です。

しかし、産業の競争軸を変えて市場で勝っていく、現実的にマネタイズするという実質的なベネフィットがなければ企業は動けません。社会課題を解決し、なおかつそれによって新しい市場を創って勝ちにいく。そういうルール形成が今、必要とされています。

西山:EUなどに比べると、日本はルール形成で遅れをとっている感が否めません。

羽生田:厳しいことばかり言ってきましたが、安心してください。産業の戦略としては市場戦略と非市場戦略があって、われわれ日本は3Cやコスト競争など、市場戦略しか取り組んでこなかった。これはいわば、格闘技で左手しか使わずに戦ってきたようなものです。

ヨーロッパやアメリカはずっと両手で戦ってきたんです。日本もこれからは左手だけじゃなく右手も使って戦っていけば、まだまだ勝てる余地はあります。

西山:右手、つまり非市場戦略を企業はもっと取り込んでいこうと。

羽生田:その通りです。非市場戦略にはルール形成があり、PRがあり、標準化戦略があります。ルール形成を担うのは国だけではありません。新たな市場を創ろうという気概のある企業も担うべきです。では、企業が考えていくべきルールとは何か。具体的な話に入りましょう。

■法律や規格を作る以前に、自社ですぐ始められるルール「調達ガイドライン」

羽生田:まずひとつ誤解を解きたいのですが、「ルール」といっても国会を通すようなレギュレーションだけを指しているのではありません。わかりやすく分けると、ルールにはレギュレーション、スタンダード、調達ガイドラインの3段階があります。

西山:レギュレーションというのは、法律や規制ですね。

羽生田:そうです。レギュレーションの主体は国、政府です。産業との関係でいえば規制緩和や、逆に産業を守るための規制策定などがこれにあたります。

次にスタンダード。ここには政府が主導するものと民間企業が行うものが入り混じっています。

一番わかりやすいのは、デファクトスタンダードといわれるWindowsのような事例です。マイクロソフトという一企業の規格ですが、市場競争によって業界の標準として認められるようになりました。このほかISOやIECなどもスタンダードです。公的な認証機関ですが、機関に参加しているのは民間人なので、民間主導といえます。

最後の調達ガイドラインは、企業取引における強制性を持ち得るという意味でレギュレーションに内包されるものですが、私は「企業がすぐに取り組めるルール」として推奨しています。持続可能性の観点からガイドラインをつくり、それに沿ったサプライチェーンを構築することは企業起点で始めることができ、社会課題解決にもつながります。

もっと言えば、社内の制度、たとえば評価制度も「ルール」であり、その運用で社会課題の解決をはかることもできます。「ルール形成だ」と身構えることはありません。企業の中でできることもたくさんあるんです。

西山:一口に「ルール」といっても、いくつかのレイヤーがあるということですね。なかでも調達ガイドラインは、自分たちで決めたらすぐできる「自社ルール」です。

羽生田:たとえばすべての企業が「気候変動対策の進捗を毎年報告しているサプライヤー以外からは買わない」という調達ガイドラインを実行すれば、世の中すべてが気候変動対策するようになる。一企業が決めたことでも、世の中にポジティブなインパクトを波及させることができます。

西山:ウォルマートがサステナビリティにもとづいた調達ガイドラインを作って話題になりました。棚で扱ってもらうには、気候変動対策や人権など、ウォルマートが要求する基準に合致しなければならないというルールです。大手の流通企業がこのようなガイドラインを設けると、取引しているメーカーや物流などは対応せざるを得ません。このような自社主導の社会課題解決の方法もあるということですね。

羽生田慶介
オウルズコンサルティンググループ 代表取締役CEO
多摩大学大学院ルール形成戦略研究所副所⾧/客員教授
政府・ビジネス・NPO/NGOの全セクターにて社会課題解決を推進。 経済産業省大臣官房臨時専門アドバイザー | 一般社団法人エシカル協会 理事|認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン 理事|認定NPO法人ACE 理事|一般社団法人グラミン日本 顧問| 経済産業省「Society5.0標準化推進委員会」等政策検討委員 | 民間臨時行政調査会「モデルチェンジ日本」メンバー。
経済産業省(通商政策),キヤノン(経営企画,M&A),A.T. カーニー(戦略コンサルティング),デロイトトーマツコンサルティング執行役員/パートナー(Social Impact / Regulatory Strategy)を経て現職。

西山卓
オズマピーアール パブリック・アフェアーズチーム
全国紙記者として事件事故や行政取材などを経験した後、オズマピーアールに入社。新聞記者とPRコンサルタントとしての経歴を背景に、メディアと企業広報の双方に通じたハイブリッド人材として活動中。
最近では、「経営にコミュニケーション力を」をミッションに、年間100人近い経営幹部に対峙。経営課題と事業ステージに合致したコミュニケーション戦略を立案し、攻めのPRから守りの危機管理広報まで提供。経営× コミュニケーション領域におけるディスカッション・パートナーとして、幅広いクライアントから評価を受けている。
ロンドン大学大学院開発学研究科修士課程修了/早稲田大学招聘講師(PR論)/多摩大学ルール形成戦略研究所客員研究員

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