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【ヘルスケアPRのミカタ】 “保険適用拡大”を前にNPO法人Fine 松本代表に聞く「当事者の声で創る不妊治療の新しいあたり前」(後編)

オズマピーアールでは、さまざまなヘルスケアに関わる組織と共にコミュニケーション課題の解決に取り組む「テトテトプロジェクト 」を通して、不妊治療患者の支援団体「NPO法人 Fine 」の活動を支援しています。このたび、Fineの活動のひとつである「不妊当事者の声で新しいあたり前を創る」は、公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会(略称:日本PR協会)が主催する「PRアワードグランプリ2021」にて、シルバーを受賞しました。受賞を記念して、松本理事長と、コミュニケーション活動の伴走をしてきた当社ヘルスケアチームリーダー・野村の対談(後編)をお届けします。

▼目次
  • 「妊活」という言葉の登場で口に出しやすい環境ができた!?
  • 不妊治療と仕事の両立という「課題属性転換」が社会の流れを変えた
  • 声を届けるには数値化とキーワード化が武器になる
  • 今後取り組んでいくべきテーマは「教育」

野村(以下、野村):最近では、不妊治療が保険適用され、不妊治療の支援は企業も取り組むべきテーマとされています。松本さんたちがFineを立ち上げた頃からは、社会の意識もかなり変わってきました。地道な活動の成果だと思いますが、何か潮目が変わるきっかけはあったんでしょうか。

松本 亜樹子さん(以下、松本):一つのきっかけは「妊活」という言葉が出てきたことですね。不妊治療という言葉を言い換えたことで、だいぶ口に出しやすくなったように思います。

野村:「妊活」という言葉はいつ頃から出てきたのでしょうか。

松本:この7、8年くらいでしょうか。すでにいろんな「活」がある中の一つとして「妊活」もありだね、と。芸能人がカミングアウトするようになったのもその頃からです。Fineの名誉会員の野田聖子議員や、ジャガー横田夫妻、東尾理子さんなどが不妊治療を受けたことを公表しました。その辺りから徐々に変わっていきましたね。そして2021年に、菅政権が不妊治療の保険適用について言及したのは本当に大きな変化でした。。

野村:「不」というネガティブな語のついた「不妊」という言葉から、「妊活」という言葉に転換され、さらに影響力のある人が発信することで、世の中で声に出して言いやすくなる流れができたのですね。

野村:Fineでは、仕事と不妊という、新しい社会のあり方をつくるテーマにも積極的に取り組んでいますね。

松本:私の周りでも、不妊治療のために仕事を辞めなきゃいけないという人が増えています。休みをとるのもしょっちゅうですし、急な通院もあります。治療を受けていると会社に伝えられていればまだいいのですが、伝えていない人がほとんどです。

野村:隠したまま治療を続けるにも限界がありますね。

松本:プレ・マタニティハラスメントで仕事を辞めた、上司に言ったら左遷された、プロジェクトを外された、という声もたくさん聞きます。この状況をどうにかしたいと思いました。

不妊治療は妊娠・出産すれば終わる、期間限定の治療です。だからなんとか会社でも配慮していただきたいと、両立支援に取り組んできました。それにしても、十数年前の企業の対応はけんもほろろでしたね。アポイントすら取れない。「うちはそんなこと関係ない」とか、ある企業では、「不妊をサポートすると、企業イメージに傷がつきます」とまで言われました。

野村:それは、すごい言われ方ですね。

松本:女性に優しい制度を作っている会社のはずなのに、不妊治療はそういう目で見られてしまうのかと、非常に残念に思いました。ほかにもいろんな企業を回って、けちょんけちょんに言われたこともあります。あまりのショックで立ち直れなくなり、しばらく企業回りはストップしていた時期もあります(笑)。

でも、この数年で機運が高まってきました。2018年には東京都が、不妊治療をサポートする企業に助成金を出すという理想的な支援「チャイルドプランサポート事業」を開始。これを機に、企業も勉強に来てくださるようになりました。東京都の最初の募集では、100社の申し込み枠に倍ぐらいの申し込みがあったようです。

野村:不妊が特定の人だけの課題と思われているうちは、社会全体に関心を広げるには高いハードルがあります。しかし企業の取り組むべきテーマとして俎上に上がると、それは介護や育児と同じレイヤーの課題となり、一気に社会全体で考えるべきテーマとしての認識が進みます。非常に優れた戦略だと思いました。

Fineではルールを変える取り組みもですが、一方で、治療に通いやすくなるよう社会全体の考え方を変えることも大切にされています。ルールの変化と社会の意識の変化、この2つを両立しないと本当の課題解決にはならないですね。

松本:社会の“当たり前”を変えることは本当に大事です。私たちは、「不妊治療のことは言えない、言わないのが当たり前」という時代を知っています。言えるようになるだけでも、たくさんの課題が解決されました。

不妊に限らずマイノリティにとって、声をあげるのは難しいことです。でも、少しでも声をあげてみたら、理解者、協力者が増えるかもしれない。私たちの活動も、世の中に広がっていったのはコツコツと声をあげ続けたからこそです。

不妊治療の保険適用もそうですし、子育て企業認定「くるみん」や、ハラスメント法に不妊治療が盛り込まれる未来が来るなんて、Fine設立当初は思ってもいませんでした。言い続けてみるもんだなって思いますね(笑)。

野村:声をあげ続けてみることがまず大事ですね。

松本:プレ・マタニティハラスメントに関しては、最初は厚生労働省の方はご存知なかったんです。アンケートを見ていただいて、実際に仕事を辞めている人が5人に1人いるとお伝えしたら、「そういうことがあるんですか」と。そういう経緯もあってハラスメント法でも考慮してくださったようです。

野村:声を集め、届ける時にはどんなことに気をつけていましたか。

松本:できるだけ数値化すること、それもできるだけインパクトのある数字を出すことを心掛けました。「不妊退職=5人に1人の女性」「仕事と治療の両立が難しい=96%」って、インパクトありますよね。マイノリティであればあるほど、数字で見せることは大事だと思います。

もう一つは、キーワード設定です。「不妊退職の経済損失」や「プレ・マタニティハラスメント」、これもこれまでなかった言葉なんです。「あれっ?」と思ってもらいたい、覚えてもらいたい。そのためにはできるだけわかりやすい数字、できるだけ印象に残るキャッチーな言葉が必要だとわかってきたので、がんばって作りました。メディアでも取り上げてくださる機会が増えて、やはり数字化やキーワード化は広く伝えるには大事なんだなと実感しましたね。

野村:いろいろな立場の人がいろいろな意見を持っているテーマだと思います。メッセージを考える上で、注意していたことはありましたか。

松本:言葉の使い方には細心の注意を払いました。不妊といってもさまざまな種類の不妊があります。1人目不妊もあれば、2人目不妊もある。不妊症もあれば不育症という、妊娠するけど出産できない症状もある。始めたばかりの人もいれば、もういつ終わったらいいのかと悩んでいる人もいる。養子や里子を迎えた方もいる。そんな中で、誰も傷つかない、誰にもつらいと思わせない言葉を使おう、というのは肝に銘じていました。たとえば「子ども」や「赤ちゃん」というキーワードが入っていたら全部排除するなどの配慮はしていました。

野村:当事者も一面的ではないので、そこに配慮するキーワード設定は重要ですね。

また、社会を動かすには、当事者ではないキーパーソンに働きかける必要もあります。コミュニケーションの際に留意していたことはどんなことですか。

松本:感情的にならないことを心掛けていました。自分たちのことばかり、「困っているんです!」と叫ぶだけでは、対話にならず敬遠されるだけです。『北風と太陽』だったら太陽の振る舞いをしていきましょうと考えてやってきました。

ただ困っていると言うだけでなく、「こうしてはどうでしょうか?」と提案もたくさん出しましたし、支援することで社会的にメリットがあることも併せて伝えていきました。不妊退職を訴えるときも、女性がキャリアを中断しなくてすみ、活躍し続けられること、それは社会的な損失をこれだけ防ぐ意味がある、というように伝えていきました。

野村:不妊・不妊治療をとりまく社会的な環境は大きく変わりつつあります。私も、会社やチームメンバーのあいだで、自然と話が出てくるようになったと感じます。今後、取り組むべきテーマや展望について、どうお考えでしょうか。

松本:これからは教育の領域を重要視しています。すでに要望書を出して、高校生の副読本に不妊を入れていただきました。さらに義務教育でも取り入れる必要があると考えています。中学校、できれば小学校から、性教育で生理や妊娠を学ぶ際に、不妊や不妊治療についても学んだほうがいいですね。また、多様な家族の形成の仕方、養子縁組や里親制度も入れておくと、養子の子が特別視されずにすむと思います。

LGBTQが教科書に記載されるようになりましたが、小学生のうちに、いろんな人がいるんだよということを言い続けていく。そうすることで本当の意味での多様性、ダイバーシティ、インクルージョンができると思います。

野村:確かに、学校教育では避妊は学んだ記憶がありますが不妊はありませんでした。当たり前に誰もが妊娠できると思っている人も多いですよね。

最近では女性も働くのが当たり前で、社会に出てからはキャリア形成がまず意識にあると思います。そうすると妊娠・出産について考えたり学んだりするのが後回しになってしまうのかもしれません。いざ自分が直面したときに、もう少し前から学んでおけばよかったと思う人も少なくないようです。

松本:その通りです。結婚するのかしないのか、子どもを持つのか持たないのか、キャリアプランを考えるにあたって可能性を考慮しておくのであれば、それにまつわる情報をちゃんと入れておくというのがすごく大事だと思います。社員のキャリア形成をサポートするのは企業の責務です。本当なら企業で新入社員研修をしたほうがいいと思っています。こういった教育の面でも、活動を充実させていきたいですね。

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