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“やりたくなる小学校のトイレ掃除”を「仕掛学」で共創!大阪大学 松村教授と考える ブルーレット50周年企画『トイレモンスターズ』(前編)

人と社会に「快」を提供する小林製薬の水洗トイレ用芳香洗浄剤「ブルーレット」は、1969年の誕生から50年。「トイレからニッポンをここちよく」するため、日本全国の家庭用トイレに「快」を提供してきました。

今回は、ブルーレット50周年を機に更なる「快」を届けるため、“家庭の枠”を超えて小林製薬が取り組む企画「小学校のトイレを快適にするプロジェクト」の中で生まれた、学校のトイレ掃除の新しいあたり前を提唱する「トイレモンスターズ」についてご紹介します。

プロジェクトの共創メンバーで「仕掛学」を駆使して、あらゆる課題を解決されている大阪大学大学院 経済学研究科の松村 真宏 教授と、弊社で本プロジェクトを担当したヘルスケア本部 野村、渋谷がプロジェクトの裏側のストーリーも交えて、前編&後編でお届けします。

聞き手:ヘルスケア本部 肥高結衣

松村 真宏さん:大阪大学大学院 経済学研究科 教授
1998年大阪大学基礎工学部卒業。2003年東京大学大学院工学系研究科修了。博士(工学)。2017年より大阪大学大学院経済学研究科教授。「仕掛学」を創始し,仕掛学の研究・実装・普及に従事。著書は『仕掛学』(東洋経済新報社),『人を動かす「仕掛け」』(PHP研究所),『しかけは世界を変える!!』(徳間書店),『Shikake: The Japanese Art of Shaping Behavior Through Design』(Liveright Pub Corp),『松村式 子育て仕掛学』(主婦の友社)など。

野村 康史郎:オズマピーアール ヘルスケア本部 部長
ヘルスケアクライアントを中心に、多様なクライアントのPR戦略立案から企画実行まで幅広く手掛ける。「カンヌライオンズ」「スパイクスアジア」「PRアワードアジア」「日本 PR アワード」など国内外のアワードをヘルスケア案件で受賞。日本 PR 協会「PR プランナー試験対策講座」の講師も担当。

渋谷 美生:オズマピーアール ヘルスケア本部 シニアアソシエイト
OTC、製薬、医療機器、美容、食品商材、ホームエンターテイメントのPR業務を担当し、PR活動の立案・運営、メディアプロモート、CSV活動など包括的に従事。企業や自治体など、幅広いプロジェクトに参画。常識にとらわれないコミュニケーション手法を得意とする。
▼目次
  • 学校のトイレには課題が山積み
  • 「仕掛学」では正論を絶対使わない
  • 学校の現場に「ゲームを入れる必然性」を創る
  • 学校側の”共感者”と共創する環境づくり

学校のトイレには課題が山積み

肥高 結衣(以下、肥高):
はじめに、小林製薬のブルーレット50周年を機に立ち上がった『小学校のトイレを快適にするプロジェクト』と、その企画の中で生まれた『トイレモンスターズ』について、このプロジェクトの背景を教えていただけますか?

野村 康史郎(以下、野村):小林製薬さんのブルーレットが誕生50周年ということで、「日本中のトイレに快をもたらす活動に取り組みたい」というお話をいただきました。その中でブルーレットを発売する企業の社会的責任として、日本のトイレの中でまだ多くの課題が残っている場所「学校のトイレ」をテーマにプロジェクトに取り組もうということになりました。小林製薬さんでは長年にわたって、和式トイレを洋式トイレに変えていくというハードを変えるプロジェクトを実施されていました。そこで、日常的に生徒が中心になって、トイレの環境をより良いものに変えていく、生徒が自発的にトイレ掃除を楽しんでしまうような取り組みができないか、という想いからプロジェクトがスタートしました。

肥高:学校のトイレにはどのような課題があるのでしょうか?

野村  :大人も共通で思い浮かべるイメージとして、小学校のトイレは何となく暗くて、臭い場所という印象があると思います。その結果、学校のトイレを積極的に使わず、トイレに行くことを我慢し、便秘になってしまう子供もいるという課題が有りました。また、トイレ掃除は掃除の時間の中でも最も人気のないものでした。これらは、日本の多くは清潔なトイレという環境の中でも取り残された課題であり、小林製薬さんとしても解決したい課題でした。

「仕掛学」では正論を絶対使わない

肥高:松村先生にお伺いしますが、こういった課題に対して、“仕掛け方”のポイントはあるのでしょうか?

松村 真宏 先生(以下、松村):ポイントは、子どもの興味をどうしたら引けるか?という一点につきます。子どもなので興味がないことは全く聞いてくれないし、関心も示してくれないので、きっかけに「ゲーム」が使えるのではないかと思いました。

肥高:ゲームですか。

松村:表向きはゲームなのですが、ゲームにはまり込むことによって、結果的に知ってもらいたい知識が全部インストールされるような、そういうゲームができたら良いと思いました。たしか、最初に皆さんにお会いした時に、ゲームはどうですか?と訊いたと思うのですが、それ以外に方法が思いつかなかったということです。

肥高:なるほど。先生が専門にされている『仕掛学』がどういった学問なのか、改めてお伺いしてもよろしいですか?

松村:仕掛学は、ついしたくなるような「きっかけ」を用意してあげる考え方です。「きっかけ」を「仕掛け」と呼んでいます。仕掛けがあるから、ついしたくなる、という心理をうまく考えるのが『仕掛学』です。
興味を引くだけでは行動変容が起きないので、こういう行動を起こしてほしいというターゲットの行動とうまく結びつく、そんな仕掛けを考えるところがポイントだと思っています。
「仕掛け」で問題解決へと人をいざなう - 大阪大学 (osaka-u.ac.jp)

肥高:例えば、小学生ぐらいの時期って「○○しなさい」と親に言われても「えー嫌だ!」とつい反抗してしまうと思いますが、だからこそ効果的なのでしょうか。

松村:そうですね。そういったこともあるので、仕掛学では正論を絶対に使いません。言うことを聞くのだったら仕掛けを使う必要もないので。正論言っても全然変わらない、そういう時に全然違ったアプローチとして仕掛けという観点を使いましょうというアプローチです

肥高:お子さまに向いているというお話もありましたが、“仕掛学に向いている領域”はあるのでしょうか?

松村: ターゲットは人間なので、「人間がいるところには全て使える」と思っています。反応の良し悪しはもちろんあるので、子どものほうが乗ってくれやすいのはもちろんありますが、人間だったら誰でも有効だと思っています。
領域は、多岐に渡ります。ゼネコンの安全管理で、事故がどうしても起きるので「ヒヤリハットをどう減らせるか」とか、製品開発で「ちょっと変わった商品を作りたい」という相談もあります。

学校の現場に「ゲームを入れる必然性」を創る

肥高:プロジェクトの担当メンバーに聞きたいのですが、今回のプロジェクトを実現するためのポイントは何だったのでしょう?

野村  :学校にゲームを導入するのは、想像以上にハードルが高かったです。学校の現場にゲームを入れる「必然性」や「理由」を作らなければいけないからです。その点では、子ども達が「ゲームをしながら正しいトイレ掃除のやり方を理解する」とか、「汚れに関する正しい理解を手に入れることができる」ということがないと成立しない、というチャレンジがありました。

渋谷 美生(以下、渋谷) :他にも小学校の施設の中で導入していただけることを前提にしていたので、制限も多くありました。デジタル的なものは何も使えない、チーム対抗など競わせることもNGでした。本当はゲームなので競わせたほうが、よりきれいにしたいという意欲が高まるという先生もいらしたのですが、不要な争いに繋がる可能性もあるということでした。
あとは、遊び要素が多過ぎても困る、という教育現場ならではの視点もありました。その中で、いかに面白くできるかというところがすごく難しかったですし、工夫を凝らしたポイントです。

肥高:なるほど。学校ならではのポイントですね。

野村 :ゲームを通して汚れの原因や掃除の仕方を正しく理解してもらうための工夫をたくさん考えました。結果として、ゲーム内にトイレが汚れたり、匂いが生じる原因となる菌などをモンスター化して、そのキャラクターを何種類か作りました
例えば、おしっこの飛び散りの原因であるアンモニアは「アンモニー」という汚れのモンスターにして、アンモニーを落とせばおしっこの汚れは取れる、ということをゲームしていく中で、子ども達に覚えてもらいました。

肥高:アンモニーですか。汚れや臭いの原因をモンスターに見立てるのは面白いですね。

渋谷:また「アンモニーの掃除を放置したらメタルアンモニーになってしまう!」みたいな、いわゆるゲームの中で「モンスターが進化する」という、ゲームでよく使われる手法も使ったので、子ども達も自分達ができる範囲でちゃんと掃除して倒そうという意識づけをする、という工夫も行いました。

肥高:ゲームのストーリー展開は、自然と子どもたちにも理解してもらいやすそうですね。

松村:僕も視察に行って気づいたんですが、トイレ掃除って実はすごく難しいんです。場所によって汚れの原因も違うし、使う掃除道具も違うからです。そのため、生徒の誰もが掃除の正解を知らなかったのです。水をバーッとまいて、適当にモップでこすって終わり…のような、誤った方法で掃除していました。

だからこそ、汚れをモンスターに見立てて、ここにはこういうモンスターがいて、このモンスターにはこういう武器でやっつけるんだ、という「攻略法」とセットで教えると、子ども達は理解がとても速かったです
子ども達にとっては「モンスターをやっつける」という世界観で動いているのですが、はたから見ると、「適切な道具を選んでちゃんと掃除をしている」と見えるのではないかと考え、そこをみんなで一生懸命考えて作りました。

学校側の”共感者”と共創する環境づくり

肥高:企画をうまく進めるために、学校側のキーパーソンみたいな方はいらっしゃるのでしょうか? 

渋谷:各学校1人くらいキーパーソンの方がいました。教頭先生、校長、生活指導の担当の先生などです。ただ、キーパーソンはいるのですが、他の先生方の合意を得るには、やはり学校それぞれのローカルルールがあるので大変でした。

野村  :最初に代表の先生方とお話をして、後に、現場で運用されている先生達の意見を聞き、仮で作ったプロトタイプを先生達に確認し、さらに意見をもらってより良いものにしていく…、という企画を一緒に創っていく環境をつくり、それを何度も何度も繰り返しました

渋谷 :現場には何回も足を運びました。自分達もトイレ掃除をやってみたことで気づいたことがありますし、学校側とも課題を共通認識にすることができました。

松村:現場に行って気づいたのは、わたしたちが想像していた以上に、他の課題があったということです。そもそも道具が揃っていなかったり、水がもったいないから、洗剤や水で流す日が曜日で決まっていたり、ゴム手袋も無いとか…。現実を知ることができました。

野村:机上のアイデアはあったものの、学校に行ってみたら通用しないみたいなことが多かったですね。

渋谷:確かに。子どもが想像しながら掃除を楽しんでもらうために「音楽」を作って本当にゲームっぽくしてみようとか「ホログラム」を使ってみようかとか、本当にアイデアは沢山あったのですが、先生方から「トイレには校内放送が入りません」「ラジカセもありません」などのフィードバックがあり、難しいことが分かりました。

その過程があったからこそ、“先生の手間をいかにかけないか”にも気を付けました。例えば、「ゲーム(掃除)に点数を付けたら満足度も高まるのでは」というアイデアがあったのですが「先生が毎日チェックすることは難しい」という制限があり「子ども達だけで本当に全部終わらせられるか」が肝になりました。現場に行くことでアイデアを調整していくところは本当に難しかったです。

後編では、「拡がるトイレモンスターの仕掛け方」について、お届けします!

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