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PR会社発「統合型パブリックアフェアーズ」とは(前編)

日本でパブリックアフェアーズというと、一般にはロビイングや陳情が想起され、そのためのスキルも、政治家や官僚などのポリシーメーカーと特別なつながりをもつことや、法令に精通した専門家といったイメージが強いかもしれません。

しかし、パブリックアフェアーズにおいてもう一つ重要なポイントは、ポリシーメーカーに働きかけるのと同時に、企業とポリシーメーカーを取り巻くステークホルダーと連携してエンドースメント(承認・推奨)を獲得し、そのルールメイキングの必然性を社会的に醸成していくフェーズにもあります。

ステークホルダーを繋ぐ「連携力」や、社会課題を見据えた「世論形成力」を活かしたオズマの「統合型パブリックアフェアーズ」とは? オズマピーアールのパブリックアフェアーズ部門を統括する井上優介がひもといていきます。

法律・条例など狭義の「ルール」から社会規範や世論など広義の「ルール」まで統合型で取り組む、オズマのパブリックアフェアーズ

日本のパブリックアフェアーズは、政治家や官僚などのポリシーメーカーに対して直接的に陳情するものという印象がまだまだ強い状況です。目的も、規制緩和・維持など自社の事業に関わるルールに関与することと捉えられることが多いでしょう。

しかし私たちの社会は、法令といった「狭義の」ルールだけでなく、文化的・社会的背景に基づいた規範・マナーや生活者によって形成される世論、さらにはビジネス上の取引慣行など、様々な「広義の」ルールに囲まれています。そんな社会においては、法令だけでなく、社会規範や世論まで目配せしたコミュニケーションが必要になります。

昨今ではソーシャルグッドという価値観が普及しつつあります。企業活動においても自社の利益追求だけでなく、官民含めてさまざまなステークホルダーと協働しながら社会課題を解決していく姿勢に対して、社会の評価の目が集まるようになってきました。

また、実際に政治家や官僚に相談をしに行く場面でも、社会課題の解決につながることなのか、世論の支持を得られているのかという視点は当然求められます。自社の利益追求のみが目的というのでは門前払いに終わってしまいますから、そういう意味でも世論(や、それを形成するステークホルダー)を味方につけることは大切です。

オズマピーアールの統合型パブリックアフェアーズでは「マルチステークホルダー」と「大義名分の設定」を重視

オズマピーアールでは、統合型パブリックアフェアーズのプロセスとして「GSIOモデル」をご提案しています。

しばしば見かけるのは、第一段階の「ゴール設定」でどんなルールにしたいのか定めたら、いきなりコアターゲットである議員や官僚といったポリシーメーカーに打診するケースです。しかし私たちは、実は飛ばされてしまいがちな第2、第3のフェーズが肝だと考えています。

マルチステークホルダー発想(連携力)

このフェーズでは、利害関係のあるプレイヤーは誰なのかを見定めるステークホルダー分析を行います。

企業を取り巻くステークホルダーは、競合や取引先、アカデミアやNGO、消費者や従業員など多様です。自社で直接ネットワークをもっていない相手もいますし、自社のビジネスにとって味方になってくれる人ばかりとは限りません。しかしそういう方々の声も取りこぼさず聞き取っていくことは、戦略を組み立てる上では非常に重要です。

その点、私たちは第三者として中立的な立場からアプローチすることが可能です。また、ステークホルダー分析の過程で、共感、協働の意思を示してくださる方については、その後連携し、ワンチームとして活動を広げていくお手伝いをさせていただくこともあります。

例えば宿泊や交通などの観光産業において、新規参入したいディスラプター(既存の業界の秩序やビジネスモデルを破壊するプレイヤー)である場合、単に規制緩和に向けてポリシーメーカーに働きかけるだけでは、既存産業のステークホルダーから反感を買い、受け入れてもらえないリスクもあります。そのようなケースでは、地元の商店街や名士と連携・ネットワークをつくり、街づくりの視点で企画を立てて一緒に街の活性化を図っていくといった協働により、スムーズな事業の成長が可能になります。

オズマピーアールでは、自治体での地域を巻き込んだコミュニティ共創や、ヘルスケア領域での患者啓発コミュニケーションなど、ときにはセンシティブな話題を扱う場でさまざまな立場の人に働きかけ、関係構築を行う合意形成を得意としております。その経験を活かして、ステークホルダーを細分化してコミュニケーションしていくことに関しては、豊富な経験と知見が蓄積されています。マルチなステークホルダーを「統合」し、連携を創りだしていくことが、私たちオズマピーアールが得意とするところです。

大義名分の設定(イシュー設定および世論形成力)

次に、第三のフェーズである「大義名分の設定」についてお話します。第二フェーズの「マルチステークホルダー」では、同じ思いを持つ人を巻き込んで活動を行うことが大切だとお伝えしました。ここで、人を巻き込むために必要なのが、共通で解決していくべき社会課題、つまり「大義名分」です。

「エゴからエコへ」というキーワードを聞いたことがある方も多いかと思います。これからの時代の企業活動は、企業のエゴではなく、環境や社会といったエコを重視する姿勢が評価され、生活者の意識も、それが体現された商品やサービスを選ぶようシフトしてきています。

これまで市場戦略の中では、自社を取り巻くステークホルダーは基本的には顧客と競合、取引先、この3つだけでした。「他よりもたくさん売る」視点だけで考えていればよかったのですが、いまやそれだけでは立ちゆかない時代に入ってきています。企業が社会に対してどう課題を解決し、どんな価値を提供していくのかが問われるようになっているのです。そのためには地域やNGO、行政といった、市場の外(非市場分野)にいるステークホルダーに対しても働きかけ、支持してもらう非市場戦略が必要になってきます。

ここでいう「大義名分」とは、大切にしているものや価値観を共有するための、ステークホルダーとの共通言語だと私は捉えています。自社の利益を追求したいという企業エゴの論理でできた言語ではなく、実現したい社会のありかたを語る言語が必要なのです。この語り口を間違えれば、ステークホルダーとの連携は効果的に機能しませんし、最終的には決裂しさらに悪い結果を招くことにもなります。このコミュニケーション活動によって解決できる社会課題とは何なのか、そして共感、共創の輪を広げていく「イシュー設定」と「世論形成」の力が必要なのです。

なお、ここで重要なのは、社会課題の解決とは、単に「世の中にとっていいこと」をすればいいとは限らないという視点です。いくら企業エゴよりもエコ、といっても、企業の価値向上や収益につながらない活動は持続可能性がありません。

1980年代、フロンガスによるオゾンホールが深刻な地球環境問題として取り沙汰されていたころ、フロンガスを製造していたある世界的化学メーカーは、代替フロンの開発に成功したタイミングに合わせ、オゾン層保護を訴えるNGOなどと連携し、オゾン層破壊物質の規制のための運動を展開しました。自社が利益をあげている製品をあえて自分で規制するという、自分の首を絞めるかのような選択をしたわけですが、その後そのメーカーはいち早く代替フロンにより、大きな利益を獲得しています。

このように、社会課題の解決と自社のビジネス、双方を見据えた“お題”の設定力とそれを推進する力をもつことが、これからの企業経営には求められています。これも、社会を俯瞰して世の中の潮流を見据えつつ、社会課題起点でコミュニケーションデザインを行ってきたオズマピーアールが力を発揮できるフェーズだと考えています。

井上優介
パブリック・アフェアーズチーム

国際NGOにて、アドボカシー活動のプロボノ経験あり。メディアの編集委員・編集長クラスに加え、NGPOといったソーシャルセクターや政治家・官僚といったポリシーセクターに広くネットワークを持ち、パブリックアフェアーズ、アドボカシーが専門分野。社会課題と企業・団体の課題を掛け合わせた「ルール形成戦略」キャンペーンの立案・実施を得意とする。観光、製薬、ITなど幅広い分野の公共政策キャンペーンでプロジェクトリーダーを務める。

◇ 多摩大学ルール形成戦略研究所客員研究員
◇ 経済安全保障コーディネーター

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