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新型リスクを3つの視点で読み解く  新しい社会課題について 若者らによるオンラインでの課題提起が定着

新型リスクを3つの視点の変化から捉える

前回のコラムでご紹介したように、「新型リスク」の概念は絶えず変動していますが、リスクの起因となる「社会課題」、課題提起の主体となる「アクター」、課題提起の「手法」の3つの変化から捉えることができます。本稿では、それぞれの視点からリスクの性質や特徴について整理していきます。

1. 「社会課題」

新型リスクを生み出す社会課題は、多くの場合、グローバルでの事象やキャンペーンなどと連動しています。国連サミットで採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」や、投資家が企業経営の持続可能性(サステナビリティ)を評価する「ESG(環境・社会・企業統治)投資」の要素と重なる部分も少なくありません。ESG観点では、各機関が情報開示基準を策定して企業が優先して取り組むべき重要課題(マテリアリティ)を設定しており、新型リスクを整理する際、これらの枠組みが参考になります。詳しくは下記の図1をご参照ください。

例えば、企業の情報開示を促進するSASB(サステナビリティ会計基準審議会、現・バリューレポーティング財団)は、全産業を11セクター77業種に分けて、企業の将来的な経営成績・財務状態に影響度が高いと想定されるESG要素に関する情報開示基準を設定しています。各業種のESG課題に焦点を当てた枠組み「SASBマテリアリティマップ」 も公開しており*1 、このマップでは、全産業を業種別に分けた上で、ESG課題を「環境」「社会関係資本」「人的資本」「ビジネスモデル及びイノベーション」「リーダーシップ及びガバナンス」の5分野に分類しています。こうした枠組みを用いて想定される新型リスクを整理していくと、主に環境や人権上の課題に結びつくリスクが中心であることが読み取れます。

このような課題は、企業の懸念材料として従来から存在していたものですが、近年はステークホルダーから「リスク」として認識されるようになり、事前対策や迅速な対応を求める圧力が日増しに高まっています。また、VTuberとのコラボレーションによる炎上、新型コロナウイルス感染症によるワクチン接種関連対応での企業バッシング、東京五輪でのキャンセルカルチャーの頻発など、 SASBの課題から想定できない新型リスクも日々生まれており、企業を取り巻くリスクは高度化・複雑化しています。

2. 「アクター」

企業に対して社会課題を提起するアクターは、従来の自社(社員)や競合企業(業界団体)、消費者・ユーザーといったステークホルダーに留まらず、その外側にいる「新しいアクター」が影響力を持ち始めています。特に存在感を強めているのはZ世代を中心とする「若者」たちです。人権や環境リスクに関して、オンライン・リアル両面の活動を通じて、具体的変革を目指す動きが台頭しています。代表的なのは、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんによる活動です。「気候危機」への対策を求めるキャンペーン「Fridays For Future」は国際的な広がりを見せて、日本各地にも活動が広がっています。また、後述しますが、日本国内では特にオンライン上での課題提起が広がっていることも特徴です。

環境・人権系のNPO/NGOも力を増しており、政府へのロビーイングに加えて、他のステークホルダーと連携する動きが見られます。EUは、NPOやその他市民団体などのニーズを取り込んで、個人情報データの保護強化や環境保護のルール化を先んじて進めており、こうした動きが各国に波及しています。

株主総会においても、環境対策を求めるNPOが、いわゆる「環境アクティビスト」として力を増しており、環境系NPOの提案に対して機関投資家が賛成票を投じる動きが日本でも出始めています。2020年には、日本の環境系NPOがメガバンクグループに対して気候変動対策に関する株主提案を行いました。21年は、大手企業に対する環境対策強化の提案について、国内の資産運用会社2社が賛成票を投じており、「機関投資家の環境アクティビスト化」も進んでいます。米国を代表するアクティビストファンドは21年10月、大手石油企業に対して、企業価値の向上策として、伝統的な化石燃料系部門と、低炭素系のエネルギー部門とで会社を分割するよう迫るなど、従来のアクティビストも環境対応に関する提言を進めており、今後、株式市場を巻き込んだ議論が予想されます。

3. 「手法」

デジタルネイティブのZ世代の若者らを中心とするアクターは、SNSなどのソーシャルメディアの拡散力やオンラインプラットフォームの機能を活用して連帯・組織化しており、社会へ直接働きかける手法が日々アップデートされています。個々人が都合の良い時間に参加できる「非同期型」のコミュニケーションで情報は随時共有され、街頭デモなどオフライン空間での活動を必ずしも必要としません。物理的・心理的ハードルは下がり、自分が興味を持ったタイミングでキャンペーンに参加することが容易になっており、Twitter上で共通のハッシュタグを使った投稿を呼びかける「Twitterデモ」は代表的な手法となりました。従来の「ネット炎上」もこの一種と言えますが、新たなオンラインプラットフォームが併用され、これまでのネット炎上とは異なる社会課題やアクターの領域にまで広がっています。

具体的にみると、海外では、米国の「ブラック・ライブズ・マター」運動が代表的事例です。TwitterやInstagram上でハッシュタグを用いたキャンペーンが行われ、アフリカ系の方が経営するブランドや店舗をSNS上で紹介し、経済的に支援する「バイコット運動」も広がりました。

国内では、SNSに加え、オンライン署名サイトや国産のメディアプラットフォームと公開質問状を使ったキャンペーンが主に展開されています。米国で始まった「change.org」は日本でも急速に普及し、高校生や大学生らの利用も増加しました。近年では、コロナ禍で所属大学に学費の減免・返還を求めるキャンペーンで使われ、マスメディアでも報じられました。ほかには、メディアプラットフォーム「note」でキャンペーンサイトを立ち上げ、抗議対象企業に公開質問状を送り、回答内容を公開する動きも見られます。20年末から21年には、Z世代の若者有志が、日本政府が支援するベトナムの石炭火力事業に対して疑問を投げかけ、融資を決めた企業に対して公開質問状を送るとともに、企業からの回答全文を公表しています。

上記のように、若い世代が「社会課題」を咀嚼して公論化する運動が日本でも定着し、企業にとって「無視できない存在」として影響力を強めています。日常的に各課題に意見表明してきた海外の同世代に追いついてきており、企業は今後、国内外で主要な購買者として成長していく若い世代とこれまで以上に向き合っていくことが求められます。

*1 Value Reporting Foundation. 「Materiality Map」. 2021,
https://www.sasb.org/wp-content/uploads/2021/11/MMap-2021.png,(参照 2021-11-29)

コーポレートコミュニケーション部
脇田 駿一
地方紙記者として事件・事故、行政取材などを経験した後、オズマピーアールに入社。
IT企業や官公庁、機械メーカー、商業施設、学校法人等でメディア視点での広報戦略支援に従事。危機管理広報分野では、ネットリスク対応に強みを持つ。大手企業や中央官庁のコンサルティング、報道論調分析・ソーシャルリスニングを活用した潜在リスクの洗い出しなどを手掛けており、ネットリスクセミナーの講師やメディアトレーニングの運営にも携わる。

【問い合わせ先】
株式会社オズマピーアール コーポレートコミュニケーション部
担当:脇田 駿一
E-mail: corp_com@ozma.co.jp

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