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工事閉鎖中のサンゴ礁水槽が、海洋保全提唱の場に ~ 海遊館「グレート・バリア・リーフ」水槽リニューアルプロジェクト~
~工事閉鎖中のサンゴ礁水槽が、海洋保全提唱の場に~
世界最大級の水族館「海遊館」の中にあるサンゴ礁の海を再現した「グレート・バリア・リーフ」水槽が2023年5月からはじまった工事を経て、リニューアルOPENを予定しています。
オズマピーアールは、博報堂・博報堂プロダクツと共に、“工事中の閉鎖水槽”を舞台に開催された特別企画である
- 『サンゴショーウィンドウ』(2023/5/12~5/14開催)
- 『BLUE SEAT』(2023/7/14~2024/1/15開催)
の両プロジェクトのPR戦略立案・実行に携わりました。
この記事では、両プロジェクトに携わる貴重な機会をいただいた視点・立場で、Public Relationsの観点から本事例について整理し、考えをまとめてみました。(文:オズマピーアール 久保田 敦)
■課題・背景
リニューアル工事のため、館内で5番目に大きな水槽(「グレート・バリア・リーフ」水槽)が長期間閉鎖することに
水族館の存在価値を忘れず、海洋保全をテーマに、いかに来館者・ステークホルダーとのエンゲージメントを作り続ける機会にするか
「すべてのものは、つながっている。」をコンセプトに、地球でもっとも広大な海“太平洋”を中心に、さまざまな表情を見せる、この環太平洋の自然環境を忠実に再現した展示を中心とする水族館「海遊館」。
おもな展示のひとつに1990年の開館以来、33年にわたって展示されてきた「グレート・バリア・リーフ」水槽があります。
オーストラリアの北東海岸沖の世界最大のサンゴ礁と、そこで暮らす熱帯性の魚たちの生態系を再現するこの水槽が、展示リニューアル工事のため2023年5月から長期間閉鎖されることになりました。
この目玉となる展示が一時閉鎖することにより、館内の連続性や世界観が途切れて、来館者の体験価値・満足度が低下する懸念がありました。
また、「グレート・バリア・リーフ」水槽が再現するサンゴ礁の海は、近年の地球温暖化や海洋環境の悪化で、その生態系がおびやかされています。海のかけがえのなさを実感できる共有空間である水族館としてどのようなメッセージを発信し、アクションをとっていくべきか。
海洋保全に取り組むさまざまなステークホルダーの取り組みを可視化することや、生活者の行動喚起の必要性を訴えていくという視点も重要になると考えました。
そこで、この場所を、自ら声をあげることができない「海・海洋生物」というステークホルダー(=サイレントなステークホルダー)の“代弁者”という存在価値をもつ水族館だからこそ可能な、そして、日本を代表する水族館である「海遊館」だからこそ可能な「海洋保全発信の場」に転換。そうすることによって、来館者をはじめとした声をあげ、行動にうつすことができるアクティブなステークホルダーに、海の大切さ・海洋保全の課題を身近に感じてもらい、反響・行動を広めていくプロジェクトにしていくことを目指しました。
■コアアイデア
閉鎖水槽を、来館者をはじめとしたステークホルダーとつながるメディアとして再価値化
水族館らしく“楽しみながら学べる”海洋保全発信の場に
館内の展示の連続性が途切れた工事中の水槽面を、ステークホルダーの目線が「途切れる機会損失」ではなく、海洋保全という共通の課題解決に向きあうステークホルダーが「集まり、つながる好機」と、逆転の発想で捉えてサステナブルファッションブランド・紙製マネキンメーカー・ブルーシートメーカーという異業種の協働により、「魚が水槽から去り(バックヤードに移動し)、水が抜かれたタイミング」および「水槽が工事シート(ブルーシート)で覆われたタイミング」という、それぞれの工事フェーズの状況を活かした特別な場(メディア)をつくりあげました。
それによって、海洋保全(海洋ゴミ問題・マイクロプラスチック問題)のメッセージを発信すると共に、機会損失であるはずの工事中の水槽へのポジティブな注目を集めることで、展示リニューアルの告知につなげることを目指しました。
■フェーズ① 魚が去り(バックヤードに移動し)、水が抜かれたタイミング
『サンゴショーウィンドウ』
~空の水槽を、ファッションを通じて海洋保全の重要性を提唱する場に~
3つのサステナブルファッションブランド、紙製マネキンメーカーとの共創で、魚を移動し、水が抜かれた水槽をショーウィンドウにした『サンゴショーウィンドウ』を、2023年5月12日~14日の3日間限定で開催しました。
海洋プラスチックゴミや漁網などをリサイクルしたファッションアイテムを、サンゴ礁を表現した水槽の中で展示。水槽の中にマネキンという稀有な体験で来館者に驚きをあたえ、海洋保全について考えるきっかけを創出すると共に、ウィンドウのQRコードから各ブランドへのECサイトで購入を可能にするという「買い場(販売チャネル)」も兼ねることで、来館者の行動も促しました。
■フェーズ② 水槽が工事シート(ブルーシート)で覆われたタイミング
『BLUE SEAT』
~改装中水槽を、サステナブル×デジタルなブルーシートで覆って、楽しく海洋保全にふれるきっかけに~
「隠れているものは、つい見たくなる」という心理を活用し、水槽の“中を隠す”はずのブルーシートを、“中の海がのぞける”体験装置に転換する特別企画『BLUE SEAT』が、2023年7月14日~2024年1月15日の期間で開催されました。
工事壁面を覆うブルーシートに設置されたウミガメやカクレクマノミなどのマーカーにスマートフォンをかざすとまるでシートがめくれあがったかのように、中の様子をのぞくことができるというAR体験を創出しました。
海遊館の飼育員監修のもと、グレートバリアリーフ海域にすむ3Dの海洋生物を制作。それぞれの生物の生態にあわせて動きや泳ぎ方のリアリティを追求し、水族館本来の目的の一つである学びの機会を提供する場となりました。
また、共創ブランドの萩原工業株式会社が開発した、約65%のCO2削減効果がある業界初の水平リサイクルでできたブルーシートを活用し、海洋保全(マイクロプラスチック問題)のメッセージも発信しました。
■成果
AR体験30万人超、展示リニューアルのファクト発信など、さまざまな成果に波及
『サンゴショーウィンドウ』期間中の来館者は25,000人。
展示を共創したサステナブルファッションブランドの展示期間中のECサイトのトラフィックは、120-500%を記録しました。
『BLUE SEAT』の半年間の展示中の体験者(ARを起動してアクセスをしたユニークユーザー数)は30万人を超える人気コンテンツとなりました。
また、両プロジェクトあわせて333件のメディア露出も獲得。新聞/テレビ/ファッション・繊維・化学・水産関連の業界メディアなど露出媒体も多岐にわたり、アーンドメディアを通じて来館者以外のさまざまなステークホルダーへと発信。水槽リニューアルのファクトの発信にも結びつけました。
さらに、Public Relations・マーケティング・プロモーションの施策面からも評価され、下記アワードの受賞(第三者評価の獲得)にもつながりました。
<受賞アワード一覧>
『サンゴショーウィンドウ』
● PRアワードグランプリ2023「シルバー」
● 第16回 日本マーケティング大賞「地域賞(関西地区)」
● 第10回 JACEイベントアワード「イベントプロフェッショナル賞」「ブロンズ賞(企業・業界団体部門)」
● PR Awards Asia-Pacific 2024
「Best Sponsorship/Partnership部門 Gold」「Best Creative Idea部門 Bronze」
『BLUE SEAT』
● PR Awards Asia-Pacific 2024
「Best Use of VR/AR/MR部門 Gold」
■PR視点のクリエイティビティポイント
海洋保全という水族館の使命・存在価値の体現を
水も魚も無い閉鎖水槽でさえも、異業種との共創により貫いた点
水族館という施設は、Public Relationsの視点からみると、本質的な存在意義である「社会的価値」(教育/調査研究/種の保存)と、持続的に運営するための「経済的価値」(集客)の双方の視点が大切であると捉えています。
『サンゴショーウィンドウ』『BLUE SEAT』いずれも、来館者の集客や満足度を維持し、高めるためのプロモーションの視点をもった施策でありながら、「海・水生生物のかけがえのなさを実感する場所」「水やいきものを通じて、人びとの心のゆたかさを育む、やさしい共有空間」という水族館の本質的な価値を工事中の閉鎖水槽であっても貫きとおし、「社会的価値」「経済的価値」を両立させた点が、Public Relationsの視点からみた、このプロジェクトのクリエイティブなポイントであると感じています。
開館以来、多くの人びとによって歴史が積み重ねられ、サンゴショーウィンドウやBLUE SEATなどの特別企画を経て、リニューアルOPEN予定の「グレート・バリア・リーフ」水槽。大阪にお越しの際は、ぜひそのすがたを見に、足を運んでいただきたいと思います。
■オズマピーアールスタッフリスト
『サンゴショーウィンドウ』
久保田敦、沼田信哉、福村知佐子、木村友美、川端里歩
『BLUE SEAT』
久保田敦、濱野香澄、木村友美、川端里歩