
「切れ味抜群 この先右折直進 600m」
カニ・串カツ・たこ焼きに餃子…自らの個性をアピールする巨大な立体看板が軒を連ねる大阪・道頓堀。テーマパークのように賑やかなこの歓楽街の“とあるお店”の壁面に、2025年1月、洒落のきいた電柱広告風の看板が掲出されました。“とあるお店”の正体は、敷地からはみ出した龍の立体看板のしっぽが2024年夏に切除された「金龍ラーメン道頓堀店」です。
包丁をデザインした矢印に従って約600メートル南に歩くと、天下の台所・大阪を支えてきた調理道具の専門店街「千日前道具屋筋商店街」にたどりつきます。この広告は、道具屋筋に店舗をかまえる老舗包丁ブランド「堺一文字光秀」(運営:一文字厨器株式会社)が掲出したものです。
堺一文字光秀は、1953年に道具屋筋で創業した包丁ブランドです。同店のブランドのルーツは江戸時代・慶安初期の「一文字成宗」。70年以上にわたり上方の料理人たちの要望にこたえ続け、現在は2000種類以上の包丁が並んでいます。
なぜ、堺一文字光秀の屋外広告を金龍ラーメンの店舗壁面に設置することになったのか? 実は、この「包丁広告」プロジェクトは、オズマピーアールが博報堂と共にブランディング活動を推進している「金龍ラーメン」(運営:金龍製麵株式会社)の仕事のなかで生まれたアイデアが、きっかけとなりました。
金龍ラーメンは1983年創業の老舗ラーメンブランドで、大阪なんばに5店舗を展開しています。(うち相合橋本店は2027年秋のリニューアルOPENに向けた工事のため休業中)
豚骨と鶏ガラでとったスープと細麺が特徴の「金龍ラーメン」と「チャーシューメン」を提供。365日24時間営業、ニラキムチや白菜キムチなどの食べ放題メニューでも知られています。
金龍ラーメンの先代創業者が、堺一文字光秀製の包丁を愛用していたこと。そして「しっぽ痕が残る店舗壁面を地域活性化のために有効活用したい」という同ブランドの代表者の意向をふまえて企画をつくりあげ、堺一文字光秀の3代目代表 田中 諒社長にアポイントをとりました。最初この企画を持ち込んだ際、田中社長はびっくりされていましたが、「食の大阪だからこそできること。大阪がおもしろくなるならば、ぜひやってみよう」と快諾をいただきました。
堺一文字光秀は、2024年9月、店舗2階にコミュニティスペース「ICHITOI(イチトイ)」をオープン。職人や生産者など、食文化に関わるさまざまな人・モノ・コトをつなぐワークショップを開催しています。このコミュニティスペースでは、「1.ユニークな環境や歴史を持つ場所にこだわる」「2.他者の目線を持ち込み、文化を相対化させる」「3.積極的に発信する」という3つのポイントを大切にしており、今回の「包丁広告」の企画は、これらのポイントに合致していると判断いただけたのです。
ㅤ食文化に関わるさまざまなヒト・モノ・コトをつなぐイベントや
ㅤワークショップを開催している
実施決定後は、堺一文字光秀・金龍ラーメンの両ブランドのご担当者様、博報堂・博報堂プロダクツのメンバーと共に、約2カ月の期間で準備を進めてきました。
デザインは、各ブランドが立体看板や電飾看板で自らの個性を強くアピールする道頓堀において、堺一文字光秀のブランドが持つ伝統を大切にするため、あえて控えめなトーンを採用。コピーも「切れ味抜群」という研ぎ澄ましたシンプルな表現を選択しました。
電柱広告を想起させる縦長の広告壁面の形状および両店舗の位置関係を活かした「この先右折直進 600m」というコピーに添える矢印は、包丁ブランドの堺一文字光秀らしく、そしてユーモアを大切にする大阪らしく、包丁をモチーフにしたチャーミングな矢印を配置しました。
そのほか、屋外広告の設置許可手続や看板制作・施工会社との調整を経て、2025年1月16日に広告掲出を開始しました。
「飲食店舗の壁面への広告看板の設置」という、一般的にはメディアが取材する余地のない取り組みにも関わらず、
- なんばの老舗ブランド同士のコミュニケーションである点
- 龍の立体看板のしっぽを切り、近隣のかに料理店とのコラボレーションでカニの立体看板のはさみに龍のしっぽを挟んで大きな話題になったあとの、次なるアクションである点
- 堺一文字光秀の伝統あるブランド特性、広告を設置する壁面形状や両店舗の位置関係というファクトを活かした広告クリエイティブ
という3つのポイントを訴求することにより、複数のメディアが看板設置当日に取材をし、主要WEBメディアでオーガニック掲載されたほか、複数の広告系メディアにおいても、独創的な広告事例として紹介されました。
この広告によるコラボレーションがきっかけとなり金龍ラーメンは、堺一文字光秀製の包丁30丁を購入し、全店舗の包丁を刷新しました。
本プロジェクトは、
- 立体看板の龍のしっぽが切られて話題になった店舗の壁面に、包丁ブランドのアウトドア広告を掲出するというインパクトがあること
- 両ブランドの店舗が「直線で約600メートル」というファクトに着目したクリエイティブであること
- なんばの老舗ブランド同士にこれまで存在していた縁を、さらに深めることにつながるアクションであること
- オウンドメディアの施策でありながら、アーンドメディアも活用して広告を目にする人以外にもこの取り組みをしってもらうこと
など、広告クリエイティブおよびパブリック・リレーションズのさまざまな技を駆使して実現した、“切れ味抜群”な、プロジェクトになったと考えています。
【広告掲出ブランド】
堺一文字光秀(一文字厨器株式会社)
https://www.ichimonji.co.jp
【広告設置ブランド】
金龍ラーメン(金龍製麺株式会社)
https://kinryuramen.com
【エージェンシー】
株式会社博報堂(プロデュース、クリエイティブディレクション、アートディレクション、デザイン、コピーライティング)
株式会社オズマピーアール(プロデュース、パブリック・リレーションズ)
株式会社博報堂プロダクツ(デザイン)
<本プロジェクト オズマピーアールスタッフ>
リレーションズデザイン本部 RD5部
久保田 敦 伊田 雄紀 濱野 香澄
文:オズマピーアール 久保田 敦
写真提供:堺一文字光秀、金龍ラーメン