- PRアワードグランプリ2019 グランプリ受賞
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- 大阪府住宅供給公社
大阪府住宅供給公社「茶山台団地」再生プロジェクト
衰退していた団地の未来を「住民との共創」で変えていく
住民の高齢化や入居者の減少などの課題が山積していた団地で、大阪府住宅供給公社はどのようにコミュニティ形成や団地の活性化を実現していったのか。「団地の衰退」だけではなく、「街の衰退」にもつながる課題に対し、オズマピーアールも事業パートナーの1社としてパブリックリレーションズ活動を協働して行いました。
課題と戦略
「団地の衰退」、それは日本全国で顕在化している社会課題
大阪府堺市の「泉北ニュータウン」の一角に、大阪府住宅供給公社が管理・運営する賃貸住宅団地「茶山台団地」があります。最寄り駅から坂道を歩いて徒歩約10分、丘陵地にはエレベーターの無い5階建ての建物が約30棟、きれいに建ち並んでいます。高層棟がないため空が広く感じられ、ゆとりのある敷地。春にはウグイスと桜、秋にはイチョウの紅葉が楽しめるなど、四季を感じさせる豊かな自然環境が自慢の団地でもあります。
1970年に建設された「茶山台団地」は、約1000戸の住宅が満室の時期が続きましたが、まちびらきから約半世紀が過ぎた現在は、入居者の減少と若者離れが進み、住民の半数近くが65歳以上を占めるまでに。さらに、人口減少により近隣スーパーが撤退したことで、買い物難民も発生。こうした一連の変化がコミュニティから活気を喪失させるなど、いくつもの課題を抱えていました。「茶山台団地」が位置する「泉北ニュータウン」全体としても、最盛期には16万5000人を数えた人口が、現在は約12万人まで減少しています。少子高齢化・人口減少によるコミュニティの喪失・生活環境の悪化という負の連鎖に陥っている団地は、日本全国に数多く存在しています。
課題
- 住民の半数近くが65歳以上
- 人口減少により近隣スーパーが撤退し買い物難民が発生
- 団地内コミュニティの担い手がおらず活気が喪失
アプローチ戦略
- 実際に団地に住みながら実践! 共創型インナーリレーションの構築
- 住民の生の声をもとに、常識破りな独自の団地再生策を実行
- 全国的な社会課題にのせ、先駆的事例として全国話題化
PR施策 活動内容
[アプローチ戦略1]実際に団地に住みながら実践! 共創型インナーリレーションの構築
2015年の大阪府住宅供給公社創立50周年をきっかけに、全職員参加型のワークショップが行われました。未来の団地のあり方を議論するなかで50あまりの具体的なアイデアが登場しましたが、そこから生まれたのが「団地に住みながら実践する」という試みでした。
集会所に、持ち寄り型図書館「茶山台としょかん」を開設
利用頻度が下がっていた集会所を持ち寄り型の図書館に生まれ変わらせ、「茶山台としょかん」と名付けて2015年11月に開設しました。定期的なイベント開催など、住民の認知向上・来館促進に地道に取り組んだ結果、まずは子どもたちが集まり始め、続いてその保護者が顔を見せるようになりました。自然と住民との交流が深まり、管理人である“としょ係”として運営にボランティア参加する住民も登場。1周年のお祭りでは手作りの料理やお菓子を住民が持ち寄り、団地周辺の住民も参加するなど、「団地の枠を超えた地域交流の拠点」として、認知が定着していきました。
150人が祝福した「団地ウェディング」
住民参加のスタイルが浸透し、その象徴的なイベントとなったのが「団地ウェディング」です。「茶山台としょかん」の運営に携わってきた住民が企画・運営の中心となり、当日は参加者約150名の大パーティーに。見慣れた団地の大階段に深紅のカーペットを敷き、たくさんの風船が飾られた中、幸せいっぱいの花婿花嫁を、子どもたちは歌やダンスでお祝いしました。
このウェディングイベントは、大阪府住宅供給公社の担当者と団地住民・地域住民が世代を超えてつながり、「共に団地を、地域を良くしていこう」という機運が高まっていく転換点となりました。
住民は、団地再生に共に取り組むパートナー
「茶山台としょかん」や「団地ウェディング」などの活動を通じて明確になっていったのが「共創型インナーリレーション」というアプローチ手法の重要性でした。それは、住民=「住宅サービスの受益者」という関係性だけではなく住民=「サービス受益者」+「団地再生に共に取り組むパートナー」ととらえる構図です。
団地や街を再生させようとする取り組みは各地で行われていますが、その主体は行政や不動産のオーナー(やその受託事業者)が担うケースが多数を占めています。議論を重ねて実施する再生策が、期待通りの成果を残せずに立ち消えになってしまうケースもあるといいます。その原因の一つには、住民を巻き込む求心力の弱さがあるように思われます。「仏作って、魂入れず」という言葉があるように、仕組みや制度を作って提供しても、日々団地に暮らす住民に関心をもっていただき当事者になってもらい、プレイヤーとして団地再生に関わってもらわなければ、継続し、発展させていくことは難しいのかもしれません。
ポイント 「団地の主体は住民、未来を担うのも住民」
大阪府住宅供給公社は、活動の中心となる「茶山台としょかん」という「はじまりの場・きっかけの場」は作りましたが、大家である公社が課題のすべてを主体となって解決するスタイルはあえて取りませんでした。「茶山台としょかん」をベースに、住民と地道な対話を重ね続けることで困りごとや悩みを知る。そして、住民同士が一緒になって問題の解決策を考え、実践していくためのコーディネーター役に徹することを目指したのです。
この意識が住民の間にもじわりじわりと浸透しはじめたことで「共創体制」が生まれ、本当の意味での「住民による団地再生」の動きへとつながり始めたのです。
[アプローチ戦略2]住民の生の声をもとに、常識破りな独自の団地再生策を実行
「茶山台としょかん」や「団地ウェディング」が共用部分やオープンスペースなど、住戸の「外」を活用した団地再生の取り組みであるとしたなら、もう一つの方法として、住戸の「中」を使った独自の取り組みにも、大阪府住宅供給公社は着手しました。そのベースとなったのは「茶山台としょかん」の活動を通じて住民から寄せられたさまざまな声でした。
これらの要望は、賃貸住宅団地という前提条件をこれまでの常識にあてはめて考えると、解決しづらい課題ばかりのようにも思えます。室内の改装やDIYは“退去時原状回復義務”のルールを前提とすると、通常許可は出せません。しかし常識をくつがえす柔軟な発想を取り入れることで、解決の糸口が見つかることもあります。つまり「非常識」なアイデアの立案と実行です。
人口減少に伴う空室率の増加によって増え始めていた空き住戸対策も兼ねて、大阪府住宅供給公社独自の「非常識」な団地再生策が実行されました。
全住戸をDIY可とし、DIY拠点を作る!
まず取り入れたのが、茶山台団地の全住戸(約1000戸)の退去時原状回復義務の免除です。既存住戸のDIYニーズを満たし、入居期間の長期化を図るとともに、若年層の新規入居者増加を狙った大胆な施策でした。
DIY可能団地であることをPRすることにくわえ、一歩踏み込んだ取り組みとして実行されたのがDIY工房「DIYのいえ」の開設です。住棟の1階部分にある2住戸を活用した工房には、DIYの工具や材料などを用意し、住民たちが工房として使える場所にしました。さらに、DIY初心者向けのワークショップを開催。DIYを指導するインストラクターとして技能をもったシニアの住民が活躍するなど、DIYを通じたコミュニティの形成に発展しました。
空き住戸を総菜屋さんに! 改造はDIYで!
「体が弱り、買い物に行けなくて困っている」「団地の中にちょっとした買い物ができる総菜屋やカフェがほしい」。このような声に応えて2018年11月にオープンしたのが、丘の上の総菜屋さん「やまわけキッチン」です。
「茶山台としょかん」で“としょ係”を担っていた若手住民が集まり、住戸の1室を活用して、イートインができる総菜屋さんを作ることを企画。住戸を飲食店に転用するという手続上のハードルを乗り越え、資金はクラウドファンディングで調達。改装作業は団地住民・近隣住民延べ180名が参加するDIYで仕上げました。 この「やまわけキッチン」は、買い物難民・高齢者の孤食などの社会課題を解決する取り組みとしても注目を集めています。オープンから1年が経つ現在はリピーターも増え、子どもから高齢者まで住民たちが気軽に集える場所として賑わっています。「空き住戸をカフェにする」という非常識がコミュニティを生んだのです。
2軒をつないで1住戸化、多様なライフスタイルを提案する「ニコイチ」
団地住戸の間取りは40㎡台の3DKタイプが中心なため、「子どもができると手狭になって暮らしにくい」「狭くてオシャレな暮らしができない」といった声も寄せられていました。この課題にこたえたのが二つの住戸を一つにつなぎ合わせるという「非常識」なアイデアでした。
二つの住戸間の壁を取り払うことで約90㎡の住戸スペースを生み出し、若年層や子育て世代のニーズに対応する「ニコイチ」が誕生。内装プランは「子育て世代が暮らしやすい家」をテーマとして若手の建築デザイナーなどから公募することで、「ふたつのリビングを持つ家」「通り庭・サンルーム・土間がある家」など、ライフスタイル提案型のさまざまな住戸プランが生まれました。応募倍率が最高で11倍になるなど、高い人気を集めています。
さらに、「ニコイチ」に入居した子育て世代の住民が「茶山台としょかん」や「やまわけキッチン」の運営スタッフとして活躍するなど、団地再生の担い手として中心的な役割を果たすことに。「非常識」が好循環を生み出しはじめたのです。
[アプローチ戦略3]全国的な社会課題にのせ、先駆的事例として全国話題化
こうした団地再生策は、当初からすべてが一貫性を持っていたわけではありません。大阪府住宅供給公社職員が一丸となって考えだしたアイデアや、住民が主体となって課題に取り組んだ成果が混在している、可能性を感じる良い意味での混沌状態にありました。
オズマピーアールが参画することになったのは2017年度の公募プロポーザル事業の受託がきっかけでした。受託した事業は大阪府住宅供給公社の広報業務全体の支援が目的でしたが、広報活動のメインとしては茶山台団地再生プロジェクトであることで一致しました。
メディアキャラバンを地道に積み重ねて、全国的な話題化を実現
まずはこのプロジェクトの社会的意義や特徴を、デザイン思考のメソッドなどを用いながら言語化・ストーリー化するところから始めました。そして、そのストーリーを直接メディア担当者のもとに届けるメディアキャラバン活動を、オズマピーアールのメディアリレーションズを活かして首都圏・関西圏で積極的に実施。訪問したメディア担当者に共感をしてもらい、取材・掲載を実現する地道な取り組みを積み重ねて、全国的な話題化につなげていきました。
その結果、「団地の衰退」という全国的な社会課題に対する先駆的な取り組み事例として在阪TV各局を始め、全国ネット局、全国紙各紙、雑誌、Webポータルサイトなどのアーンドメディアでも取り上げられるようになりました。単発的な取り上げ方ではなく何度も継続して発信いただいたメディアや、ポータルサイトでの配信が拡散することで連鎖的な取材が続くことになりました。
ポイント 共創型インナーリレーションがメディア取材時にも力を発揮
メディアからの取材時にも力を発揮したのが「共創型インナーリレーション」です。「住民の声を取材したい」というニーズはどのメディアも持っていますが、通常は対象者を見つけるハードルは高いものです。しかし、茶山台団地には継続して培ってきた住民との「共創型インナーリレーション」が存在しています。
たとえば「ニコイチ」の居住者には「やまわけキッチン」のスタッフとして活動する住民もいます。「ニコイチ」新住戸発表時にはメディア内覧会を企画しましたが、その際には居住者代表として住み心地インタビューをアサインすることが非常にスムーズに実現できました。「やまわけキッチン」のオープン時の記者発表会では、イベント開始のかなり前の時間から店舗DIYに参加した住民たちが自主的に集まり、作業での苦労話・思い出話を語っていただくことで、自然とインタビューが行われたこともありました。また、「DIYのいえ」オープンの際のワークショップにも住民が積極的に参加いただき、電動工具を使って収納棚をつくるなど、メディア取材にも対応していただきました。
人懐っこくて、オープンなマインドを持つ人が多いという大阪人の特性も影響しているのかもしれませんが、広報活動においても「共創型インナーリレーション」が大きな威力を発揮しているのが茶山台団地再生プロジェクトなのです。
第三者機関のアワードの獲得
また、プロジェクトの活動をさまざまな視点で切り取り、関係するアワードや審査会にエントリーすることで客観的な評価を受け、PRにつなげる活動も行っています。「PRアワードグランプリ2019」をはじめ、「2017年度グッドデザイン賞」「2018年マイクロライブラリーアワード」「2019年都市住宅学会 都市住宅学会長賞」「第8回健康寿命をのばそうアワード 厚生労働大臣優秀賞」などを受賞しました。
このほか、国、自治体、全国の大学、NPO法人などから団地視察が相次いだり、他県で「ニコイチ」住戸を導入する団地が登場するなど、「茶山台団地再生プロジェクト」のエッセンスが多方面に展開され始めています。
成果
下落傾向だった入居率が85%を超え、住民からも高い評価を獲得
茶台団地再生プロジェクトがどれだけの成果を残せているのか? 数値化できる指標をご紹介します。
若年層の新規入居割合が増加
20〜40代の新規入居者数は、団地再生前の4年間に比べると10%増加。
入居率が上昇
下落の一途であった入居率が上昇に転じて85%を超え、団地に活気が戻ってきました。
再生の取り組みを続けてほしいと思う住民が75%
2018年の全戸アンケートでは取り組みを「これからも続けてほしい」と回答した団地住民の割合が75%を占めました。
大阪府住宅供給公社は今後、住民との共創をさらに進化させた「(仮称)茶山台パーク化プロジェクト」を構想中です。地域に開かれた団地として、さらに発展していくことが期待されています。
オズマピーアールとしても、今後もPRをコアにした統合コミュニケーション・ソリューションの提案・実施を行い、本プロジェクトのように「世の中に新たな問い」を立てる新たなチャレンジ・事業の推進に引き続き取り組んでいきたいと考えています。
PRアワードグランプリ2019 グランプリ受賞
オズマピーアールは、クライアントの大阪府住宅供給公社と共に「PRアワードグランプリ2019」にエントリーし、グランプリ(最優秀賞)を受賞しました。
https://ozma.co.jp/announcement/news-20191211/
ご担当者様より
大阪府住宅供給公社 総務企画部企画室 経営企画課広報戦略グループ
グループ長 田中 陽三様
賃貸住宅団地をもう一度よみがえらせたい、住民たちと一緒になって団地を元気にしていきたいという想いで、団地の課題を考え、その解決策や仕掛を考えながら、住民と一緒に取りくんできました。それまではメディアとのつながりがまったくなかったので、オズマピーアールに協力いただき、メディアリレーションを強化していくお手伝いをしていただきました。さまざまな角度から提案をいただき、実行することで、世間からの団地に対するイメージも変わってきていることを実感しています。実際に団地の入居率も上昇しています。
大阪府住宅供給公社 総務企画部企画室 経営企画課広報戦略グループ
小原 旭登様
大阪府住宅供給公社では、2016年度に初めて広報部門が設立され、新入職員かつ広報業務の経験がない私が配属されて業務を行っていました。そして、2017年度からオズマピーアールさんにサポートをいただくようになり、アプローチ手法からメディア対応手法など様々な広報ノウハウをご教授いただきながら、今回の受賞に至るさまざまな経験を積ませていただきました。今後はこの経験を生かし、更なる飛躍に向け、業務に励んでいきたいと思います。
プロジェクトメンバー
関西支社 久保田 敦
「住民との共創による団地再生」という、多くの人々の手によって推進された一朝一夕ではなし遂げられないこのプロジェクトで「PRアワードグランプリ」をいただけたこと、プロジェクトに関わることができたことに感謝の気持ち・誇らしい気持ちを感じます。大阪府住宅供給公社様が次の長期ビジョンを掲げ、先の未来へと歩みを進めているように、自らの固定概念を超え続けるようなPRパーソンであり続けたいと考えています。
関西支社 木村 友美
通常であれば「住民の声がほしい」というメディアのオーダーに現場が応じられないケースも多々あります。しかし、茶山台団地ではそれが実現できました。大阪府住宅供給公社様の色々な部署の方が普段から住民とのコミュニティづくりに関わり、「共創」の空気を醸成してくれていたことがその背景にはあります。どの事業も住民の方が中心となって絡んでくるので、事前に明確なストーリーが設定できない、やってみないとわからないことがたくさんありました。それが大変でもあり、逆に面白い事業でもありました。貴重な体験ができました、ありがとうございました。
関西支社 福村 知佐子
「やまわけキッチン」のオープンをお手伝いした際に、大阪府住宅供給公社様の方々が住民の皆さんと手を携えてプロジェクトをすすめていらっしゃる様子を実感し、この取り組みをたくさんの人に知らせたいと思いました。そこで、地元のコミュニティ紙なども含め、地道できめ細やかなメディアコンタクトを心がけました。お世話になった皆様、ありがとうございました。