オズマピーアールは2020年6月より、多摩大学ルール形成戦略研究所と業務提携し、ルール形成市場のさらなる拡大と深化に向けて活動を進めています。社会構造の変容が急激に進み、それに伴うルール形成があらゆる分野で課題となっている今、新たな市場を作るためのパブリックアフェアーズへの関心はますます高まっています。
第6回は、パブリックアフェアーズコンサルティング事業を展開するOpenPolicy株式会社代表の長島淳史さんをお迎えしました。後編では長島さんの経験から、民間企業でパブリックアフェアーズに取り組む上での課題や、意識すべきポイントについてうかがっていきます。
聞き手:青木大希(オズマピーアール パブリック・アフェアーズチーム)
(以下、本文)
外部と内部を繋いで
「非市場戦略」の重要性を浸透させるのも重要な役割
青木:ここからは長島さんの経験から、民間企業でパブリックアフェアーズに取り組む上での課題や、意識すべきポイントについてうかがっていきます。
長島:パブリックアフェアーズの担当者は、外部のステークスホルダーのマネジメントと同時に、企業内部のさまざまなステークホルダーの理解もしっかり獲得していくことが重要です。ポリシーメーカーとの対話でフィードバックを受けたことが社内的にはなかなか受け入れられないこともありますし、逆に社内のロジックが政府や社会に対しては通用しないこともあります。
青木:外部と内部双方のロジックを、説得しながら繋いでいく役割が求められるんですね。
長島:企業からすれば、第一に考えなければならないのは市場戦略、つまり顧客や競合他社に向けた戦略です。一方、行政やNGOなど市場外のステークホルダーに働きかけることを非市場戦略といいますが、経営者の感度がよほど高くない限りはあまり顧みられないところだとは思います。
経営者も営業やマーケティング畑の人間が多いですよね。パブリックアフェアーズ部門から社長になりましたというケースは、あってもごく稀でしょう。たとえば規制緩和などゴールがわかりやすいものはまだ良いですが、「レピュテーションを上げましょう」といったより漠然とした課題にリソースを割くとなると、だったらそのリソースをマーケティング活動に投資すれば顧客獲得に直接繋がるだろう、という発想には当然なるわけです。
こういう環境が常だと考えると、外部の意見を内部に伝えつつも、内部の意見をどう汲み取りながら外部ステークホルダーとの関係をマネジメントしていくのかが、我々パブリックアフェアーズ担当の業務では重要なポイントになってくると思います。
青木:オズマピーアールでも、顧客・競合・取引先との関係を見る「市場戦略」とともに、市場の外にいるステークホルダーに戦略的に働きかけ、自社に有利な環境を整備する「非市場戦略」の重要性については提唱しています。
長島:考え方として、ルールを変数として捉えるかどうかで見え方は変わってきます。「ルールはあるものだ」と受容してその中で競争するなら、非市場戦略に関与しないというのも一つの選択だとは思うんです。ただ、ルールが変わることによって自社の強みがより生きる状態にもなり得るし、逆に不利になる可能性もはらんでいます。
もちろん、非市場戦略だけ頑張っても意味はないですから、今後のビジネス環境で勝ち抜いていくには市場戦略と非市場戦略を統合した経営戦略が求められます。非市場戦略をやらない、という意思決定もあっていいと思いますが、少なくともビジネスの戦略を考えるフォーマットの中に、非市場戦略の要素が当たり前のように入っているのが理想ですね。
組織の中で信頼される人材になるために
青木:パブリックアフェアーズ担当は外部と内部を繋ぐ重要な役割というお話をうかがいました。間に立ってマネジメントしていくことは容易ではないと思いますが、長島さんが意識していたことがあったら教えてください。
長島:一つは、少々抽象的な言い方になってしまいますが、外部と内部、どちらに対しても期待値を設定しておくことです。普通に考えたら相容れないようなことでも、このあたりなら実現できるのでは、というバランスを見極めて提示していくことですね。外部と内部の間に立つパブリックアフェアーズ人材だからこそできることだと思います。
もう一つ気をつけていたのは、相手によって言葉を変えて話をするようにすることです。ステークホルダーが所属している組織によってロジックが異なりますし、使う単語や言葉使いも少しずつ違います。そのため、伝えるべきことをそのまま持っていくと、誤解や軋轢を生むこともあります。ですから私は、少し相手側の言語に翻訳して伝えるようなことを意識して行っていました。
例えば省庁の組織や政治家の名前や法律の細かい条文のことを事細かに経営層に話したところで、関心がないことも多いと思います。端的に企業にとってどんなインパクトがあるのかが伝わればいいわけです。グローバル企業にいたこともあって、海外に日本の法律の細かい話をしてもピンと来ないから、これはEUでいえばこの法律です、と説明する。厳密に言えば違うところもあるんですが、通じやすいので説明としては理解しやすいことを重視していました。相手によって資料の表現を変えて了解を得るなど、けっこう細かい対応をしていましたね。
青木:「相手に伝わる言語に翻訳する」というのは実務的にも勉強になります。また、社内での理解を獲得するという面では、どんなことをしていましたか。
長島:一番効果的なのは、「現場に連れていく」です。急に具体的なアクションを提示してしまいましたが(笑)、感覚的に理解してもらえることって、実は大きいんですよね。
あとは、「何を言っているかではなく誰が言っているか」というのはどんな場面でもあるので、自分自身が信頼されている人間であることが大事です。そのためには、パブリックアフェアーズに限らないかもしれませんが、小さくてもいいので早めに成果を出すことです。小さな成果を経て信頼を勝ち取ることで、その後の大きなことも実現しやすくなります。
青木:パブリックアフェアーズが浸透している組織でもしかり、新たに取り組む組織であればなおさら小さな成果から積み上げて意義を認識してもらうことが大切ですね。
パブリックアフェアーズは広報・PRやIRなどコーポレート部門との関連性もありますが、他部署との連携でいえば、どんな体制が理想だと思いますか。
長島:100%統合されていればそれは理想ですが、実際はなかなか難しいとは思います。部門ごとにゴールは少しずつ違いますからね。それぞれの組織がゴールにしているところの重なる部分を探し、うまく掛け算して、協働プロジェクトをいかに増やせるかがポイントになってきますね。
パブリックアフェアーズは本来はゴールドリブンな活動なので、プロジェクトチームで取り組むのが動きやすいと思います。そこに経営層がしっかりバックアップしているというのが最もいい状態なのではないでしょうか。
青木:なるほど。パブリックアフェアーズはもとより、マーケティングや広報、コーポレート部門など、それぞれのゴールに向けて動いている部分はありますが、プロジェクトチームも含めて、経営戦略に基づいた統合的、横展開的な動きも必要になってきますね。
ちなみに、オズマピーアールは手法にとらわれない企画力、大義名分を設定する世論形成力などを強みとしながら、パブリックアフェアーズ推進に必要なメンバー・専門家をアサインし、全体を統括する「プロジェクトマネジャー」の役割も担っています。お話いただいた部門間連携に通じるものがあると感じました。
ルールのコンフリクトが課題となっている企業を
パブリックアフェアーズでサポートしていきたい
青木:長島さんは2023年にOpenPolicy株式会社を立ち上げ、パブリックアフェアーズコンサルティング事業を展開されています。設立の思いなどについてもお聞かせいただければ。
長島:中央省庁でのキャリア、そして民間企業3社でパブリックアフェアーズに従事してきたことで、自分の中でパブリックアフェアーズの戦略をある程度一般化できるようになってきたのがきっかけです。パブリックアフェアーズは全然やったことがないけれども関心がある、というような組織に対してサポートしていくことでパブリックアフェアーズを日本でも拡大していければと思い、事業を立ち上げました。
青木:具体的に興味のある領域、分野はありますか。
長島:特にビジネス領域は定めていませんが、元々テック系の会社にいたため、新しくビジネスが生まれようとしていて、ルールのコンフリクトがあってうまく社会実装されていない、社会認知が課題となっているというようなところに、パブリックアフェアーズの手法を用いて課題解決していきたいですね。
また、これまでの活動を通じて、ルールメイキングの中でも社会的な認知、世論を変える活動の重要性は実感してきました。手段も複数あり、まだ体系化されていない部分が大きいと思います。言語化しにくい分野ではあるのですが、そこを整理していきたいなというのは個人的な問題意識として持っています。
パブリックアフェアーズに包括的に取り組むためには、関わる領域も、オズマさんのようにパブリックリレーションズとの連携もあれば、法規制という角度では法務の専門家との連携も必要かもしれません。また、パブリックとの関係を活用するという意味では、例えば、スタートアップでは、公共向けの営業など、ルール形成に取り組む前のフェーズも含めてトータルでどのような支援ができるか考えるべきかもしれません。専門的にピンポイントで関わるのもいいですが、横の展開を広げていく、時間軸でも長期的に関わりを伸ばしていくなど、今後の広がり方はいろいろありえると思っています。
青木:可能性は全方向に広がっていますね。オズマも一緒に、パブリックアフェアーズの領域をどんどん広げていきたいと思います。本日はありがとうございました。
長島淳史
大学卒業後、国土交通省、公正取引委員会にて政策立案に従事。その後、Airbnb Japan株式会社公共政策本部上席渉外担当、Facebook Japan株式会社公共政策部パブリックポリシーマネージャー、株式会社Eureka/Match Group政府渉外・公共政策部長など、複数の外資系企業にて公共政策・政府渉外の担当者・責任者を歴任。企業インハウスの立場から、主にテクノロジー分野のルールメイキングを推進してきた。2023年にOpenPolicy株式会社を設立し、現在は企業のパブリック・アフェアーズ活動の支援を行っている。
青木大希
パブリック・アフェアーズチーム
群馬県の地方紙「上毛新聞」に記者として6年勤務。報道部社会担当、高崎支社報道部、運動部に在籍し、事件・事故、地方行政、国政選挙、プロ・アマチュアスポーツを担当。群馬、埼玉で発生した集団食中毒問題(2017年)、群馬県高崎市の公共事業を巡る贈収賄事件(2019年)など、危機事案の取材経験も多く、リスク・クライシス対応をメディア視点でアドバイス。
オズマピーアールに入社後は、交通インフラ企業や大手IT企業、製薬企業などに、年間30件以上のメディアトレーニングを提供。この他、ルール形成支援のパブリックアフェアーズ活動も行う。
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