PAリレー対談~ルール形成の現場から(7)政治家と民間が共に取り組む変革とは【後編】 福田峰之さん(多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授/株式会社H2&DX社会研究所代表)
オズマピーアールは2020年6月より、多摩大学ルール形成戦略研究所と業務提携し、ルール形成市場のさらなる拡大と深化に向けて活動を進めています。社会構造の変容が急激に進み、それに伴うルール形成があらゆる分野で課題となっている今、新たな市場を作るためのパブリックアフェアーズへの関心はますます高まっています。
第7回は、多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授、および株式会社H2&DX社会研究所代表を務める福田峰之さんをお迎えしました。後半では、横浜市議会議員から衆議院議員に転身し、内閣府副大臣、内閣府大臣補佐官を務めてさまざまなルール形成に携わってきた福田さんに、議員から見たパブリックアフェアーズ、今後の責務やルール形成企業に期待することについてお話しいただきました。
聞き手:井上優介(オズマピーアール パブリック・アフェアーズチーム)
一般には見えない政治の世界の窓口として機能する
パブリックアフェアーズの専門家
井上:ルール形成に取り組んでいこうという企業にとって、どんな感性を持った人にアプローチするかはその後の道を大きく変えることになります。その見分けはどうすればよいのでしょうか。
福田:見分けるのはなかなか難しいでしょうね。一般的には見えない政治の世界の窓口として機能するのが、パブリックアフェアーズの専門会社です。企業が解決したい課題に対して、どの議員につなぐべきかを知っている。オズマのパブリックアフェアーズチームもその役割を担っていますよね。
井上:国会議員、つまりルールを作る側の立場からすると、そういった民間のパブリックアフェアーズ専門のセクションにはどんな動きを期待しますか。
福田:パブリックアフェアーズの担当が社内にいるような大企業はともかくとして、新しいルール形成を望んでいるスタートアップなどは特に、政治家との付き合い方が皆目見当がつかないという企業も多いですよね。
誰に相談を持っていったらいいのかもわからない状態でいることも少なくないです。ルール形成に関わる政治、行政、有権者の関係性は、ジャンケンルールで例えるとわかりやすいんですよ。例えば有権者がパーなら、政治はグーです。有権者に選ばれなければ政治を行うことができません。行政はチョキですね。企業や団体、個人は行政が執行するルールに従わなければならないし、破れば罰則があります。そして行政の人事も予算も政治が握っているから、行政に対しては政治のほうが強い。これが民主主義の基本原理です。
これが理解できていれば、相談がある時にどこに話を持っていったらいいのか判断できるはずです。例えば新しいビジネスのために規制緩和を望んでいる時に、行政に聞きに行っても、行政ができる答えは「この規制に抵触する恐れがあります」とリスクを伝えることしかできないわけです。行政が想定していないビジネスモデルを持ち込まれても困るだけなんです。時にはこういう基本的なことから、パブリックアフェアーズの専門家はコンサルティングする必要があります。ここの整理をしてもらえると、政治と民間はスムーズに協働できるようになり、相互に有意義な関係が構築できると思います。
今後の責務はルール形成人材を育てること、
水素エネルギーでカーボンニュートラルを実現すること
井上:福田さんの現在の活動についてもおうかがいしたいと思います。現在は多摩大学ルール形成戦略研究所の客員教授を務め、私たちオズマも大変お世話になっています。
福田:今、私の一番大事な仕事は、ルール形成人材を育てることです。「失われた30年」と言われるように、日本経済は低迷が続いてきました。私は秘書から横浜市会議員、国会議員、副大臣まで務めましたが、「失われた30年」は、自分が与党で政治に携わってきた30年でもあるんです。そこに私は強く責任を感じています。
ルールを作る側に回らない限りは、大きなパイを描けないですし、その恩恵を受けることもできません。ルール形成を理解し、さまざまな企業の中で活躍して、これから新しく経済を活性化させていく人材を育てていくこと。それが、今の私がやるべき責務だと考えています。
井上:福田さんは大学での講義を担当されるとともに、多摩大学ルール形成戦略研究所の水素利活用に関するスピンアウトベンチャー企業・H2&DX社会研究所の代表も務めていらっしゃいます。こちらについてもお聞かせいただけますか。
福田:「失われた30年」では、経済の低迷とともに後悔が残るのが、環境悪化の30年でもあったことです。その思いもあって、CO2削減は私にとって大きなテーマの一つです。CO2削減に取り組むとして焦点を当てるべき産業領域を検討したところ、挙がってきたのが世界の飲食領域でした。
EU の共同研究センターが主導した調査によると、世界で排出される 温室効果ガスの3分の1は「食」に関係すると言われます。その中で具体的に打てる施策として、専用の調理機器で水素を燃焼させて肉や魚、野菜といった食材を調理する、 今までにない新しい調理手法を確立しました。
業界に責を負わせて対策を迫るだけでは、彼らもとるべき方策がわからず困ってしまうわけです。そこで私たちは、アイデアやサービスを提供して、世の中の変化に貢献していきたいと考えています。ほかにも燃料電池事業など、水素エネルギーを利用したカーボンニュートラルを目指した事業を行っています。
民間側もルール形成で得られる恩恵を無駄にしない努力が必要
ワンウェイではなく支え合う関係でこそ改革が継続できる
井上:最後に、ルール形成に携わっていきたいと考えている企業にどんなことを期待するかお聞かせいただけますか。
福田:ブルーオーシャンを見せてくれる企業が面白いですね。世の中にまだない産業で新しいルールを作っていくのは、やっぱりワクワクします。
例えばシェアリングエコノミーは今、2.5兆円程度の市場規模まで育ってきていて、10年後には15兆まで成長すると予測されています。既存のものを少し変える、あるいはあるものを置きかえるというだけでは、経済が大きく変わることはないのです。やはり新しい経済を大きく育っていくようなことをして欲しいです。
ルール形成に関わる企業、団体に対しては、社会のために意義のあることをしようと始めたからには、ルール形成のプロセスでもルールが作られてからも、本来担保すべきことを継続していってほしいですね。社会のルールを大きく変えるようなことは、私たち政治家もさまざまな逆風を受け、ときには先輩達から怒鳴られながらも、歯を食いしばって成し遂げているんです。それでルールが変わった後に、業界がすべき努力をないがしろにしてルールを変えた意味がないものになったら、もうその人達の言葉を聞く気にはなれません。
井上:確かに、ルールを変えるだけでは社会が変わるわけではない面もあります。民間側も国民も、ルールによって得られる恩恵を無駄にしない努力も必要ですね。民間と政治家が仲間になって、ともに政治をアップデートしていくという視点も大切だと感じます。
福田:その通りです。ワンウェイではなく、支え合う関係がないと、改革を継続的に行っていくのは難しいのです。自社や業界の利益のためにルールを作ってもらう、変えてもらうという視点ではなく、ともに社会を良くするために、政治、行政、民間それぞれが力を出し合ってルールを作り上げていくのが理想です。その理想に向かって私もできることをしていきたいと考えています。
福田峰之
元衆議院議員、元内閣府副大臣、元内閣府大臣補佐官
1964年生まれ。立教大学社会学部卒業。1999年横浜市会議員(2期)、2005年衆議院議員(3期)。2015年内閣府大臣補佐官(税と社会保障・マイナンバー制度担当)、2017年内閣府副大臣(IT・サイバーセキュリティ・科学技術・知財等担当)。
衆議院議員時代は、IT&デジタル、水素エネルギー、再生可能エネルギー、ルール形成戦略、知的財産、選挙制度等の実務責任者を務めた。また、インターネット選挙運動解禁の改正公職選挙法、サイバーセキュリティ基本法、官民データ活用推進基本法等の議員立法の策定に尽力する。
大学時代は、恩師である野田一夫教授(多摩大学名誉学長・全国経営者団体連合会会長)の下、ニュービジネスの育成について学び、現在では数多くのベンチャー企業のアドバイザーも務めている。
CRSでは、院生に講義を行うと共に、「サスティナブルエネルギー研究会」、「細胞農業研究会」等の社会課題解決に向けた研究会を設立・運営している。
2021年9月、当研究所の水素利活用に関する研究会からスピンアウトしたベンチャー企業「株式会社H2&DX社会研究所」を設立した。
【主要著書】
『元IT副大臣のセカンドスクール』(BCCKS)
『世界市場で勝つルールメイキング戦略~技術で勝る日本企業がなぜ負けるのか』(共著/朝日新聞出版)
『水素たちよ、電気になーぁれ!』(アートデイズ社)
『俺たち「デジタル族」議員』(kindle)
井上優介
パブリック・アフェアーズチーム
国際NGOにて、アドボカシー活動のプロボノ経験あり。メディアの編集委員・編集長クラスに加え、NGPOといったソーシャルセクターや政治家・官僚といったポリシーセクターに広くネットワークを持ち、パブリックアフェアーズ、アドボカシーが専門分野。社会課題と企業・団体の課題を掛け合わせた「ルール形成戦略」キャンペーンの立案・実施を得意とする。 観光、製薬、ITなど幅広い分野の公共政策キャンペーンでプロジェクトリーダーを務める。
◇ 多摩大学ルール形成戦略研究所客員研究員
◇ 経済安全保障コーディネーター
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