患者会などNPOの広報活動のお手伝いをプロボノ(スキルや専門知識を活用して取り組むボランティア活動)で行う「テトテトプロジェクト」。
NPO経験者としてプロジェクト事務局を担当するメンバーがお届けする、医療・ヘルスケアに関連するNPOの広報が知っておきたいシリーズ第4回です。
今回は活動の生命線となる「ファンドレイジング(資金調達)」がテーマです。
第1回 広報活動に取り組む前に知っておきたいポイント
第2回 コミュニケーションに役立つツールの整備
第3回 メディアに関心を持ってもらうための「プレスリリース」作成のコツ
第4回 寄付を募る「ファンドレイジング」の準備(今回のコラム)
【このコラムのポイント】
●コミュニケーション活動の総力戦
●「助けてください」では受け入れられない国、ニッポン
●信用してもらうための「大義・ストーリー」+「ファクト・データ」=
「論語と算盤」戦略
●相手の立場で考える、ホスピタリティの気持ちが大切(付録付き)
筆者:佐藤 剛(オズマピーアール ヘルスケア本部 エキスパート)
コミュニケーション活動の総力戦
このシリーズは過去3回、このような内容を扱ってきました。
・賛同や共感を得るためのストーリーやメッセージの作り方
・ステークホルダーとコミュニケーションするためのツールの準備
・メディアに向けたプレスリリースの作成方法
個人や企業などから「寄付」という形で資金を支援してもらったり、行政などの事業を受託して業務委託費を得たり、物品やサービスなどの対価として料金をもらったり、NPOが活動資金を調達する方法は様々あります。
ここ数年は「クラウドファンディング」という手法・サービスが浸透し、誰もが取り組みたいプロジェクトを世の中に表明し、賛同と一緒に運営資金も得られるようになりました。
しかし、ファンドレイジングについて相談を受けているなかで感じることですが、声をあげれば誰でも応援や支援を得られるというわけではありません。
日本人の特性を考慮して、より共感を得やすい伝え方をするなど、テクニックが必要になってくることはあまり知られていないようです。
そのために押さえるべきポイントは過去のテーマで扱ってきていますので、今回はそれらを踏まえた「応用問題」としてファンドレイジングについて説明していきます!
「助けてください」だけでは支援が受けられない国、ニッポン
これは私の実体験も含まれているのですが…
悲しいことに日本は、海外と比較して「慈善活動」「ボランティア」に「清貧=私欲を捨て、行いが清らかで、生活が質素であること」を求めやすい傾向があると言われています。
特に「お金」を、見返りを求めずに「寄付」という行為で消費することに対し、シビアに考える人が日本には一定数いるのではないかと感じます。
(ちなみに海外では、財力、権力、社会的地位の保持には責任が伴うことを意味する「ノブレス・オブリージュ」という言葉があるなど、古くから身分が高い人の道徳感として社会貢献が根付いています)
背景には、「ボランティア」や「非営利活動」という言葉が正しく伝わっていない可能性もあると思います。
これらの言葉のイメージから「収益を上げてはいけない」や「必要以上にお金を集めてはいけない」といった誤解をされている人にもたくさん出会ってきました。
また、善意の寄付で集まったお金を別の用途に使いこんでしまったり、横領してしまったりする残念な団体や人が存在することで、「NPO」が一括りにされ、厳しい目で見られてしまうようなことも影響しているかもしれません。
寄付先であるNPOが本当に信用できるのか、目的通りにお金を使ってくれるのか、財務諸表や事業報告を詳しくチェックし、必要があれば問い合わせて疑問を解消される人もいらっしゃいました。
信用してもらうための「大義・ストーリー」+「ファクト・データ」=「論語と算盤」戦略
これまでコラムでお伝えしてきたことを振り返りながらファインドレイズのコツを考えて見ましょう。
その名も「論語と算盤」戦略です(センスない…)。
論語=「世の中やより多くの人のためになる」という想いを示すこと
算盤=活動継続のための「必然性を数字やデータで示す」こと
第1回目のコラムでは、「サポーターづくり」についてこのように記載しました。
“寄付やボランティアをしてくれた人に話を聞くと、「困っている人が“こんなにいるんだ”と初めて気づいた」「これは“社会みんなで解決しなきゃいけない”ことだと思った」のように、「多くの人の悩み」や「社会の問題」といった「共通項」で括り、「自分にできること」を重ねているケースが多いように感じます”
「世の中にこんな課題があって、これだけ多くの当事者が、こんな状況に困っていて、助けを必要としている」とストーリーテリングすること。
つまり「大義名分」と「共感メッセージ」をつくることにつながります。
また第3回目のコラムでは、メディアに向けた情報発信の方法としてこのように書きました。
“「少ない椅子」をめぐって様々な企業や団体がプレスリリースを配信していますので、目に留めてもらい、読み進めてもらうためには、自分たちの言いたいことだけではなく、それが世の中や人々にどうかかわり、影響するのか、「それを今、報じる理由」とセットでなければなりません。”
“①「どのように報道されるのが望ましいか」というゴールイメージを描いてか
ら逆算する
②それぞれのパートで必要になりそうな要素を集めストーリーに組み立てていく
③必要に応じて追加のリサーチ、アンケートやヒアリングを行いながら情報を
作っていく
このような順番で考えていき、企画を練っていきます。”
定性的なメッセージや訴えを繰り返すのではなく、リサーチやアンケートなどで具体的な数字、当事者の生の声、情報を発信するツールによっては画像や映像など、より説得力を高める「ファクト=事実」を積み重ねることが大切です。
また「〇人に〇人」や「〇〇の〇%」のように、大きな話題であるように見せる表現の工夫や、「〇円でできる支援」や「1日あたり〇円から支援できます」のように、具体的な金額を示しながらハードルを低く見せる表現の工夫なども、よく用いられるテクニックです。
そして、自分たちの存在(設立背景、団体によっては「私たちの使命=ミッション」や「目指す社会=ビジョン」などの言葉)や具体的な取り組みを「ソリューション」として提示することで、皆さん自身が「解決のキーパーソン」であることを印象付け、「だからこの人たちを支えていくべきなんだ」と背中を押してあげることが目指せると良いです。
ここまで準備できたら、第2回目で整理したように、皆さんが使っているツールでステークホルダーに伝えて「共感」や「賛同」を広めていく。
これらのテクニックは、インターネットを活用したファンドレイジング、また法人営業のような交渉による寄付の依頼の際にも意識したい「型」であると考えます。
相手の立場で考える、ホスピタリティの気持ちが大切(付録付き)
今回のコラムでお伝えしたかったこと、ファンドレイジングで意識した方が良いことをまとめると、
●社会に対して問題や課題が存在することを示し、その解決に取り組む必要性を
納得してもらう
●寄付で実現できる支援、その先に実現したい未来を具体的に語る
●NPOの皆さんの活動が、なぜ、どのようにして解決につながるのかを、
ファクトを用いて示してあげる
このコラムで何度もお伝えしているかもしれませんが、広報・コミュニケーション活動は、自分たちが言いたいことを声高に叫ぶのではなく、あくまでも相手の立場になること、そのうえで相手から理解や賛同を得ることが、中長期的に重要になってきます。
これは寄付をしてもらう時だけでなく、その後のプロセスすべてに当てはまります。
「寄付して良かったな」と感じてくれた人が、再び寄付してくれたり、友人知人に紹介してくれたり、支援の輪を広げてくれる「スポークスパーソン」になってくれることもあります。
なお将来的にファンドレイジングを強化したい場合は、「カスタマーリレーションシップ」「カスタマーエンゲージメント」の観点で、呼びかけ・申し込み・お礼・フォローといった一連の取り組みを設計する必要があります。
そこで今回の付録として、そうしたファンドレイジング体制を強化する際のポイントや、知っておくと良いことを資料にまとめましたので、ご参考になりましたら幸いです。
特別編として、私たちがお付き合いある団体の方をお招きし、コロナ禍で特有の「オンラインコミュニケーション」について「どんなことに困って」「どう乗り越えていったのか」対談形式でお届けする予定もございますので、是非ご期待ください。
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