PAリレー対談~ルール形成の現場から(5)公益の視点をもって進める、パブリックアフェアーズのポイント【前編】髙橋彰さん(ハイランダーパブリックアフェアーズ代表)
環境、人権、ジェンダーなど取り組むべき社会課題が山積する中で、ポリシーセクターやソーシャルセクターといった非市場領域と連携し、社会課題解決力を内包したビジネスモデルへの変革を提唱するソリューション「ルール形成」が今、注目されています。
私たちオズマピーアールでも、パブリックアフェアーズ(PA)を担当する専門チームを立ち上げ、PAとPRを掛け合わせた「ルール形成コミュニケーション」(https://ozma.co.jp/publicaffairs/)の提供を開始しています。
経営におけるルール形成の必要性をより多くの方にお伝えしようと、弊社PAチームのメンバーがホストとなり、ルール形成の最前線で活躍されている方々をゲストに迎えた対談コラムを複数回に渡ってお届けしています。
第5回は、官公庁や議員秘書、そして民間企業でキャリアを重ねてきた、公共政策コンサルタントの髙橋彰さんをお迎えしました。官民を行き来するキャリアパス「リボルビングドア」を実践してきた髙橋さんに、企業がパブリックアフェアーズに取り組むうえでの心構えや実践のポイントなどについて弊社井上がうかがいました。
聞き手:井上優介(オズマピーアール パブリック・アフェアーズチーム)
(以下、本文)
厚生労働省官僚から留学、議員秘書を経て公共政策コンサルタントへ
井上優介(以下、井上):髙橋さんが現在携わっているパブリックアフェアーズについて紐解くうえで、まずはこれまでの髙橋さんのキャリアについて聞かせてください。
髙橋彰(以下、髙橋):私は2007年に大学卒業後、国家一種の法律職で厚生労働省に入省しました。新型インフルエンザや東日本大震災対策などの危機管理業務、大臣官房を中心に、幅広い部局に勤めてきました。
司令部のような立場にいることが多かったため、どちらかというと特定の政策に詳しいというよりは、詳しい人たちの強みを活かしながら、スケジュール内で最大の効果を出していく役回りでした。全体を回していくうえで、それぞれの部局や省庁ができること、苦手なことを把握していないとできない仕事です。そのおかげで、いわば“目利き力”を身につけることができました。それがその後のキャリアで、もちろん今の仕事でも活きています。
厚労省には10年間ほど勤め、課長補佐で退職しました。退職してすぐに、英国のグラスゴー大学で国際安全保障学(社会・文化論)の修士号を取得しました。
英国から戻ると、かつての上司の薦めもあり、参議院議員の秘書を務めることになりました。
井上:議員秘書時代にもさまざまなルール形成に積極的に取り組んでいらっしゃったと聞いています。
髙橋:そうですね。主なところでは、乳児用液体ミルクの国内製造・販売の解禁にまつわるロビー活動や成育基本法の議員立法、外国人観光客の医療問題に関する自民党提言書の作成などが挙げられます。
井上:やはり「ヘルスケア×公共」というキーワードが一貫して浮かび上がってきますね。
髙橋:そうですね。これまでさまざまなルール形成に関わってきましたが、「公共の役に立つ」という軸だけはブれないよう意識しています。
そうやって議員秘書としてさまざまなことを経験し学んでいった一方で、留学から帰ってからも、研究に従事したい気持ちは持ち続けていたんですよね。それで2020年、エジンバラ大学の政治・社会科学院 博士課程(政治学)に合格し、再び渡英しました。
ところがすぐコロナ禍が訪れ、ロックダウンで大学が稼働できなくなってしまったんです。しかたがないのでロックダウンが解けた隙をついて帰国して、縁あって2021年から2023年まで大手広告代理店に常駐することになりました。そこでは公共政策コンサルタントとして、政府から受注した大型BPO事業の中核業務などを担当しました。
井上:官公庁と民間企業との間で、人材が流動的に行き来する仕組みをリボルビングドアといいます。官公庁のことも民間のこともよく理解しているリボルビングドア人材はロビー活動においては重要だとされますが、髙橋さんのキャリアはまさに理想的ですね。
髙橋:政府からの受注案件に対して、民間企業の側から中核メンバーとして携わっていた経験は大きかったです。役所や議員事務所にいて知ったつもりになっていましたが、“民間から見る役所”はやはり全然違うんだなと、身をもって学んだ3年間でした。これが私の強みの一つになっているのは間違いないですね。
パブリックアフェアーズで重要なのは企業であっても「公益」の視点を持つこと
井上:髙橋さんが民間企業に対してアドバイスをする際、最も重要なポイントとしてはどのようなものがありますか。
髙橋:最も重要なポイントとしてお話するのは、「個社の利益だけで動くのではなく、公共の視点を持ってください」ということです。
自社の製品が良いものであるという思いは理解できますが、それを売りたいあまりに自社だけに有利なルール形成をしたい、他社は利用できない補助金を作らせたい、ひどいケースだと入札額を聞いてきて教えてくれ、なんていう相談もあります。最後の話は論外ですが、自社の製品を売るための活動であっても、公益にのっとっている側面がないとルール形成は難しいです。
井上:それはパブリックリレーションズでもまったく同じことが言えますね。自分たちが伝えたいことだけを発信しても、生活者は受け入れてくれません。社会やコミュニティがどういう意識を持っているのか、その視点を加えてメッセージを設計する必要があります。
髙橋:まさにその通りだと思います。製品やサービスを提供している企業は、市場を獲得していくことを目指して営業力を強めていく結果として、「絶対的に良いものだ・・だから自社のものだけを有利にしたい」と視野狭窄に陥りがちです。
その点、オズマのような公共政策にも携わってきたPR会社はコミュニケーションのプロで、メディアや生活者といった社会の目線を常に意識していますよね。もともと社会視点を持っているので、公共の視点を持つことについてもシームレスに対応できる強みがあると感じています。
井上:オズマのルール形成活動プロセス「GSIOモデル」でも、「Issue setting:大義名分の設定」として社会的必然性を考慮するプロセスを掲げています。特にここは、PRに長く携わってきたオズマならではの強みが活きる点だと自負しています。
理想のパブリックアフェアーズは社会の流れと一致していること
髙橋:ここでいう「公益性」についてもう少し話をすると、要は自分が速く行きたいから今この瞬間、目の前の信号を赤から緑に変えてくれというのではなく、信号が変わる時間をどう変えると通る人みんながハッピーになるのか、みんなで考えていきましょう、というイメージです。
自分のために赤信号を緑に変えるということは、交差点でいえば逆側が緑から赤になって止められてしまうことを意味します。それを強引に進めれば、相手と衝突してしまう、すなわち敵を誘引することにもなります。でも、片方の道路はすごく広くてもう片方は狭い、それでスムーズに車が流れていないのであれば、信号が変わる時間に違いを持たせたほうがいいかもしれません。そうやって調整をして決めていったルールの中で、どれだけ速く行けるかの競争は、今度はそれぞれの企業の技量と質の競争です。これが理想のパブリックアフェアーズの姿だと思います。
井上:なるほど、とてもわかりやすい例えです。ほかにもパブリックアフェアーズの理想として挙げられることはありますか。
髙橋:社会の流れと一致しているイシューが非常に強いですね。政策の流れと一致していて、説得力のあるエビデンスが揃っているものが進めやすいと思います。今の日本でいえば、生成AIのルールづくりや、観光やGX(※)における規制緩和などが挙げられます。
良いパブリックアフェアーズとは、ハンドルの補助システムのようなものなんです。強引に舵を切って流れを変えようとするのではなく、必然的な流れがある中で、適切なハンドリングを補助するというのが本来のパブリックアフェアーズのありかただと考えています。
※GX:グリーントランスフォーメーション。化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体の変革を図ること
(後編に続く)
元厚生労働官僚(国家一種(法律職))。
新型インフルエンザや東日本大震災の対策など、危機管理における省内統括部門を中心に勤務。
課長補佐で退職後、グラスゴー大学(英国)で国際安全保障学(社会・文化論)修士号取得。
参議院議員秘書、エジンバラ大学博士課程(中途退学)、博報堂(常駐)などを経て、公共政策コンサルタントとして活動。
参議院議員事務所(当時)では議員秘書として、与党の政策提言書や議員立法のドラフト作成に従事し、質疑調整、議員の原稿・講演資料作成などを担当。
パブリック・アフェアーズチーム
国際NGOにて、アドボカシー活動のプロボノ経験あり。メディアの編集委員・編集長クラスに加え、NGPOといったソーシャルセクターや政治家・官僚といったポリシーセクターに広くネットワークを持ち、パブリックアフェアーズ、アドボカシーが専門分野。社会課題と企業・団体の課題を掛け合わせた「ルール形成戦略」キャンペーンの立案・実施を得意とする。 観光、製薬、ITなど幅広い分野の公共政策キャンペーンでプロジェクトリーダーを務める。
◇ 多摩大学ルール形成戦略研究所客員研究員
◇ 経済安全保障コーディネーター
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