- 日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)
日本産味噌の輸出拡大に向けたブランドイメージづくり
潜在関心層を発掘、ファン化して消費者ニーズを引き出すファンコミュニティアプローチとは?
近年 、世界各国で和食がブームになり、日本の農林水産物・食品に注目が集まっています。政府は輸出額目標を2030年までに5兆円と設定しています。その中でも重点品目として、醤油とともに選定されている食品の一つが味噌。既に世界の日本食レストランでは味噌汁がMiso Soupとして親しまれていますが、日本が誇る発酵食品であり、和食文化の広がりとあわせてより広く味わっていただける余地があると考えられています。
今回私たちがお手伝いしたのは、日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)の日本産味噌のブランドイメージ向上事業。JFOODOは、日本産農林水産物・食品のブランディングのために、2017年に日本貿易振興機構(ジェトロ)に設置された、オールジャパンでの消費者向けプロモーションを担う組織です。オズマピーアールでは、これまでにも日本酒などのマーケティングコミュニケーションに取り組んできましたが、今回は味噌の魅力発信を通じて米国におけるブランドイメージ向上施策を展開しました。
課題と戦略
課題
- 米国における味噌の認知度は半数程度。さらに「MisoといえばMiso Soup」という固定イメージが強いなど、認知内容にも課題がみられた。
- 米国の消費者にとって、日本食レストラン以外で味噌を食べる機会や動機が少ない。
アプローチ戦略
- 米国食文化への浸透においてキーとなりうるレシピの開発・検討
- 現地のファンを束ねたコミュニティの創設、活用
- 消費者、流通業者への調査を通じた味噌のポジショニングの検証
PR施策 活動内容
[アプローチ戦略1]
米国における味噌の食べ方とは?
キーとなるレシピを探る
調味料である味噌の特性上、そのまま食べるのではなく何かしらの料理に使ってもらうことが必要です。そこで、米国においてどのようなメニュー・食べ方が最適なのかを探ることにしました。
普段から味噌に慣れ親しんだ日本人の発想だけでは、本当の意味で米国社会に受け入れられるものを生み出すのは困難です。そこで、アメリカの食文化に馴染むように、現地で活躍する料理研究家などのインフルエンサー、フードメディアと協力し、日本の味噌メニューを意識せず、むしろ米国の人が普段食べているものに取り入れることをテーマとして彼女らのクリエイティビティを活かしたレシピ開発に取り組みました。前菜からデザートまで、食事の流れにあわせて考案されたレシピたちは、チョコクッキーのアレンジや、味噌汁とは全くかけ離れたサツマイモのポタージュスープなど、「しょっぱい」味噌のイメージを覆す、甘みやコクを活かしたものとなりました。
[アプローチ戦略2]
現地のファンを束ねたコミュニティを通じた
ブランディング
味噌が本当に米国に浸透するには、普通の消費者にとって味噌の味がどのように感じられ、またどんなメニューだったら試してみたくなるかを探る必要があります。しかし、定量調査にて、米国消費者の味噌の認知率は都市圏であってもまだ半分程度にとどまっていることが分かっていました。そのため現地消費者の意識といっても、お店で食べるだけではなく自分で味噌を買って調理するほどのユーザーはまだまだ多くありません。また、現在の消費者は和食好きなど、日本の食文化として味噌を食べていることが想定されます。
いまはまだ味噌をよく知らないけど、今後味噌ファンになってくれそうな人―こうした「味噌の潜在的なファン」を集めて、まずは各家庭でトライしてもらい、そこでの反応からよりディープな情報を求めている人やファン同士で情報交換したい関心度の高い層のためにオンラインのコミュニティを設けるという構図で実施しました。
このコミュニティに対して、サンプルの味噌を送って自由に料理をしてもらう、開発したレシピを紹介する、簡易アンケートに答えてもらう、グループインタビュー調査への協力を促す、というように関心の高まりに応じて段階別にリアクションしてもらえるコミュニケーションを設計しました。通常、ファンづくりやその後の囲いこみにはオウンドメディアやSNSなどの中長期にわたる地道な情報発信が必要です。今回は、このように段階に分けたコミュニティでのコミュニケーションを設計することによって短期間で味噌のファンを見つけ出し、我々とだけでなく参加者同士でもアイデアを披露しあう複層的なコミュニケーションを実現することができました。
こうした仕組みで現地の味噌関心層をファンに育てつつ、反応を引き出し観察することで、味噌に魅力を感じる要素やポテンシャルのある調理法が見えてきたのです。
例えば、当初は味噌の持つ強みは、「健康」や「発酵」なのではないか、という仮説を持っていましたが、関心層であってもこれらの特長について知識がある人は多くはなく、驚きとともに好意的に受け入れられました。また、調理を体験した消費者からは 「うま味を付与してくれる」という点に評価が集まりました。
[アプローチ戦略3]
ファン、消費者、流通業者への調査を通じた
味噌のポジショニングの検証
ファンの集まるコミュニティの運営とともに、消費者への定量調査や、現地流通事業者への試食体験を通じて味噌のポジショニングを検証しました。対象者も手法も異なるそれぞれの施策での反応は、一回に味噌パックの半分を使ってしまう人がいたり、ピーナッツバターのような風味だと表現されたりと、私たちに驚きをもたらしてくれましたが、結果を総合的に分析すると、特定の食べ方やレシピだけが受け入れやすいという傾向はないようでした。
むしろ、それぞれの反応で共通していた点として、既存のメニューに加えることでコクや風味を増してくれるという、調味料としての「使いやすさ・汎用性・味の豊かさ」が、米国人にとっての味噌の魅力であることが見えてきました。
日本の味噌は米国人にとっては新たな「うま味を増してくれる発酵調味料 」になりうるというブランドのポジションを見出すことができたのです。今後はそのポジションが上手くいくのかを検証しながら確立していく、というフェーズに入っていくことになります。
まとめ
「味噌の米国におけるブランドイメージ向上」というゴールに対して、アプローチの方法は様々です。今回、「ファンコミュニティ」という新たなアプローチで、味噌ファンを米国において発掘・獲得できたことは、私たちにとっても大きな成果といえます。特に海外でのブランディングにおいては、国内で培ったものが通用しないことが多々あります。一つのソースだけでなく、多角的にアプローチすることは消費者の意識を探る上で重要なポイントであり、この積み重ねがブランドとしての説得力に繋がります。
オズマピーアールは、既存の考えや手法にとらわれることなく、“現地の視点”を大切にしながら日本産農林水産物・食品のGlobal Brandingを考えていきます。
プロジェクトメンバー
執行役員 兼 アカウントプランニング本部 本部長
榑林 佐和子
戦略PR・マーケティングブティック会社を経て、2010年オズマピーアール入社。食品・飲料・日用品・製薬など幅広い領域のマーケティング・コミュニケーションの戦略立案から実施まで数多く手がける。また、日本貿易振興機構や民間企業のクラフトビールや日本酒などアルコール飲料の国内・海外ブランディングPR実績も多数持つ。
ビジネス開発本部 ブランドデザイン部 部長
谷澤 和哉
2006年オズマピーアール入社。戦略PR・マーケティングブティック会社、博報堂東京本社PR戦略局への出向を経て、2014年から2年間北京に駐在。その後インバウンド専門ベンチャー「wondertrunk&co.」の立ち上げに参画。これまで日本政府観光局、日本貿易振興機構はじめ、グローバルでのPR・ブランディング業務に携わる。早稲田大学招聘講師(Global PR論 2020-現在)。
ビジネス開発本部 ブランドデザイン部 コミュニケーション・プロデューサー
伊郷 美貴
大学院でジャーナリズムを専攻した後、2012年に株式会社オズマピーアール入社。国内外問わず、マーケティングコミュニケーションから、企業・団体のレピュテーション向上に寄与するコーポレートブランディングまで従事。
ビジネス開発本部 ブランドデザイン部 コミュニケーション・ディレクター
馮 惠芸
インバウンド特化の広告代理店を経て、2019年オズマピーアールに入社。官公庁の訪日プロモーション事業や 海外向け日本食産品ブランディング事業など海外との双方向コミュニケーションに従事。
ビジネス開発本部 ブランドデザイン部 シニアアソシエイト
三澤 茂毅
訪日外国人旅行専門ベンチャー企業で地方自治体向けインバウンド促進支援事業を推進し、2019年にオズマピーアール入社。新規事業開発を担当しながら、海外向け日本産食品の統合型マーケティング・コミュニケーション事業に従事。
ビジネス開発本部 コーポレートコンサルティング部 シニアアソシエイト
清水 晧平
2019年にオズマピーアール入社。コーポレートコミュニケーション分野で、外資系飲料メーカーのPRを担当する他、企業・団体のレピュテーションに関わるメッセージや情報発信のコンサルティングに携わる。