- 萩原工業株式会社
「おもしれぇ、直ぐやってみゅう」の企業スピリットを継承!サステナブルなブルーシートを軸にした広報戦略策定・推進プロジェクト|萩原工業
アグレッシブな企業文化を、PR活動でも体現する。
2024年秋、岡山県笠岡市にあざやかなグリーンの人工芝サッカーコートが整備された新しい工場がオープンしました。
工場内では、ブルーシート・防音シート・遮熱シートなど、さまざまなシート製品が加工・出荷されています。これらはポリエチレンでできたフィルムを短冊状に切断し、延伸することでできる軽くて強い平らな糸「フラットヤーン」を縦横に織ってつくられています。この工場では、最終のシート製品にするためのすべての工程を一手に担っています。
さらに、絵画と見まちがうような精密な印刷が施された、広告・サインなどに活用される特注シートもオーダーメイドで制作されています。
この工場は、岡山県倉敷市に本社を構える萩原工業株式会社が新たに建設した施設です。記事冒頭でご紹介した人工芝サッカーコートの原材料(人工芝原糸)も、萩原工業が製造しています。
オズマピーアールは、中国四国博報堂とともに、萩原工業様の広報戦略策定プロジェクトに2023年1月から取り組む機会をいただきました。この記事では、オズマピーアール担当者の視点からこのプロジェクトの一部をご紹介させていただきます。
(文:久保田 敦、濱野 香澄)
課題と戦略
新中期経営計画と連動する広報戦略策定
2022年12月、コロナ禍を経て企業の持続的成長を実現していくための企業戦略が記された萩原工業の中期経営計画「v for J」が公開されました。
これまで萩原工業が取り組んできた企業活動・事業に加えて、この中期経営計画を推進していくなかでかたちになるファクトを社会へ発信し、ステークホルダーの企業認知・理解をどのように獲得していくか。その海図となる戦略策定に、萩原工業の広報担当者様とともに取り組みました。
BtoB企業特有の社会との接点づくりの難しさを、いかに打破するか
萩原工業は、国内生産トップシェアのブルーシートや、土のうなどの防災関連製品、メッシュシート・防音シート・コンクリート補強繊維(バルチップ)など、さまざまな用途に活用されるシート製品をはじめとする産業資材を製造しています。これらのプロダクトは、建設業・農業・物流業などで広く利用されています。さらに、紙製レシート用紙から液晶フィルムまで、シート状の長尺ロールを巻出し任意の幅に断裁し、再びロール状に巻き取るロール加工機の製造や、水平リサイクルのための設備開発も行っています。
この高い技術力を武器に、日本国内はもとより、14か国27拠点に事業を展開している萩原工業ですが、製品の大半がBtoB向けであり、「業界以外のステークホルダーとの接点をいかにしてつくり、企業認知を高めていくか」という広報上の課題がありました。
社内ヒアリング・分析から独自の強みを発見
広報戦略をつくりあげるにあたって、萩原工業のこれまでの報道露出分析、オウンドメディア分析などを行うとともに、工場の見学・各事業の担当者様のヒアリング・社史の読み込みなどを通じて企業理解を深めました。
このプロセスのなかで、私たちは萩原工業の独自の強みを抽出して文言化しました。そのうちの一部(以下の3点)についてご紹介します。
企業理念を絵に描いた餅とせず、経営~現場まで通底している
萩原工業は、創業者の口癖「おもしれぇ、直ぐやってみゅう」(おもしろい!すぐやってみよう)という言葉が今も大切にされ、会社全体の行動指針となっています。
社員へのヒアリング・インタビューを行う中で、この言葉に込められたスピリットが連綿と大切にされ、今も受け継がれていること。失敗をおそれずに積極的な努力・変革を重ねることで、中核技術を大切にしながらも固定概念にとらわれず新たな事業をつくりあげ、成長をとげてきた萩原工業の姿勢を理解することができました。
広報戦略を策定するうえで、この行動指針があらわすような萩原工業らしさを、いかに広報活動で実現するか、具体的なアクションにまでつなげるかが重要になると考えました。
ステークホルダー/サステナビリティ/ESG/SDGsなど、昨今英字で語られることが多い概念も
萩原工業は長年にわたって大切にしてきたものばかりである
萩原工業は、製品はもちろん、会社自体も世のため人のために役立つ存在であり続けることをめざした経営を長年行ってきたことも理解できました。
たとえば、社員に対しては「社員の成長と幸福を伸ばす」ことを大切にしてきました。2018年には「第8回日本でいちばん大切にしたい会社大賞」の最高賞「経済産業大臣賞」を受賞するなど評価されています。最近では岡山大学・大原美術館と連携して社員の心理的安全性を整えるためのストレスチェックと大原美術館の芸術鑑賞コースを組み合わせた研修をスタートするなど、新たな取り組みもはじめています。
日本国内においては、災害時にブルーシートや土のうなどの防災資材を供給する防災協定を全国各地の自治体と締結するなど、近年多発する災害への備え、災害発生時に貢献できる体制を構築しています。
グローバル展開においても、例えば、合成樹脂事業においては米国(テキサス工場)で丈夫な野菜袋素材「メルタッククロス」を製造、南米(パラグアイ工場)では道路や工場で使用されるコンクリート補強プラスチック繊維「バルチップ」を製造しています。エンジニアリング事業の上海拠点である萩華機械技術では、食品や日用品の包装フィルム加工用機械を製造しており、東南アジア各国で使用されているなど、地域の人びと・産業に必要とされる製品を、地域と共に作る姿勢を大切にしています。
上にあげた取り組みや評価は一例ですが、「萩原工業が長年大切にしてきた企業姿勢・具体的な取り組み」「社会課題解決のために近年はじめたプロジェクト」を、いかにステークホルダーに広く・深く知ってもらうか、その突破口が重要になると考えました。
ブルーシートは、美しい。
このプロジェクトに携わる機会をいただく前は、ブルーシートという産業資材に対してなかなか意識を払うことはありませんでした。
しかし、実際にブルーシートをつくりあげる過程を工場で見学し、大型のロールに巻き付けられた裁断加工前のブルーシートや、さまざまな用途に応じて最終加工されたブルーシート製品を目にすると、デニムやノッティングなど、質の高いファッション・民藝を生み出している岡山にふさわしい、美しくハイクオリティなプロダクトだなと感じ入りました。
実際、萩原工業のブルーシートは質の高さで評判を得ており、しっかりと丈夫につくられた製品が、災害現場・工事現場など過酷な環境でも長持ちするという評価を得ています。
また、ブルーシートを含む萩原工業が作る素材はファッションアイテムの素材としても活用されたり、さらにはイタリア・ヴェネチアの「第17回 ヴェネチア・ビエンナーレ 国際建築展」でも展示されるなど、アート領域の素材としても採用されています。
©Alberto Strada 提供:国際交流基金
この品質の高さから生まれる美しいブルーシートを活かした取り組みができないかと考えました。
今の、そしてこれからの萩原工業を発信する
アグレッシブ&クリエイティブな「躍動する広報活動」を遂行する
これらの発見・洞察をもとに
中期経営計画「v for J」で飛躍する萩原工業をステークホルダーに向けて発信する
アグレッシブ&クリエイティブな「躍動する広報活動」を遂行していく
という広報方針を定めました。
この方針にもとづきコーポレート広報活動の基盤を整えるとともに、「利益創出は追求しながらも、その土台となるひとや環境を大切にし、長期的な社会への貢献のための努力を大切にする企業」「クリエイティビティ(創造力)や文化・芸術性も大切にする企業」といった萩原工業らしさを体現するような、企業価値向上につながるブランドアクションを積極的に推進していきたいと考えました。
ブランドアクション企画にあたって着目したのが、廃ブルーシートから新しいブルーシートを製造することで、約65%のCO2削減効果がある業界初のブルーシートの水平リサイクルプロジェクト「Re VALUE+」です。
萩原工業は、廃ブルーシートの汚れや異物を取り除くプラスチックのろ過技術を1986年から有しており、これを基にしたリサイクル装置を2000年初頭に開発。この技術は経済産業省の廃プラスチックの資源循環高度化事業に採択されるなど、高い評価を得ています。
このほか、萩原工業には再生原料の回収から製品化までの基礎技術が社内にすべてそろっており、「Re VALUE+」は、同社が積み上げてきた高い技術力によって実現したプロジェクトです。
2021年の本プロジェクト発表以来、研究開発や協業先との検証を経て、2023年5月にはエコマーク認証を取得するなど実用段階に進んでいた同プロジェクト。しかし、2022年度の水平リサイクル関連の報道件数は、生活者にとって身近な「ペットボトル」の話題が約半数を占め、ブルーシートは全体関連報道件数の中の1%しか占めていない状況(その大半が、萩原工業が本社を構える岡山版での掲載)でした。
(日経テレコン調べ/見出しまたは本文に「水平リサイクル」が含む新聞記事を検索)
to B(産業界)のみならず、to C(生活者)にとっても身近な産業資材で、日本全国で使用されているブルーシートが、水平リサイクルによってサーキュラーエコノミーを推進することの重要性を多様なステークホルダーに知ってもらうことで、水平リサイクルの事業を推進しやすい環境づくりと、さらには萩原工業のブランディングにつなげられないかを考えました。
サステナブルなブルーシートで作った、めくるとヴァーチャルな海がのぞけるデジタル水槽「BLUE SEAT」
萩原工業の広報戦略を策定していたのとほぼ同時期に、オズマピーアールは博報堂のもとで、世界最大級の水族館「海遊館」様とのあいだで、サンゴ礁水槽のリニューアル工事期間中のプロジェクトに取り組んでいました。
工事のために一時閉鎖されたサンゴ礁水槽を、サステナブルファッションブランドとの共創でショーウィンドウにする「サンゴショーウィンドウ」(2023/5/12-5/14開催)につづくアクションとして、萩原工業の水平リサイクルブルーシートを活用した企画展示が実現しました。それが「BLUE SEAT」です。
「BLUE SEAT」は、「隠れているものは、つい見たくなる。」という心理を活用し、“中を隠す”はずのブルーシートを、“中の海がのぞける”体験装置に転換する海遊館の特別企画です。
工事壁面をおおう萩原工業製の水平リサイクルブルーシートに設置された、ウミガメやカクレクマノミなどのマーカーにスマートフォンをかざすと、まるでシートがめくれあがったかのように中の様子をのぞけるAR体験を楽しめる展示で、2023年7月14日~2024年1月15日の期間中の体験者(ARを起動してアクセスをしたユニークユーザー数)が30万人を超える人気コンテンツになりました。
萩原工業はこの施策をはじめ、水平リサイクルシートの情報発信を強化し、水平リサイクル素材を使用したシート製品の販売量は前年比113%※を記録するなど、「BLUE SEAT」は、水平リサイクルプロジェクト「ReVALUE+」の成果の一端を担いました。
※13%増加、2022年10月期比2023年10月期実績
プロジェクト担当者より
オズマピーアール リレーションズデザイン本部 濱野 香澄
萩原工業様の企業スピリット「おもしれぇ、直ぐやってみゅう」にわたしたちはとても感化され、BtoB企業のコーポレートPR活動のあたりまえをはみ出すような広報アクションに、ご担当者様と共に取り組んできました。
やり取りの中で特に印象的だったのは、広報戦略策定にあたって各事業部の社員へヒアリングを行った際、どの事業部の方も「萩原工業らしさ」を芯から体現されている方ばかりだったことです。こういった企業スピリットの体現は、どうしても経営層や広報部門だけに留まってしまうことも珍しくない中、社内にこれほどまでに浸透し、当たり前に発揮されていることはとても貴重で、広報アクションを検討する上でも大きな道標になるとともに、インナーコミュニケーションの重要性を感じました。
結果として企業広報戦略策定とその後のブランドアクション(海遊館「BLUE SEAT」の企画展示)、笠岡工場オープンのコミュニケーション活動と、様々な角度から企業の魅力・提供価値を伝える活動にたずさわる好機をいただき、普段なかなか触れることのないBtoB企業の取り組みをわかりやすく表現することにチャレンジしました。
BtoB事業における社会との接点づくりは特にハードルが高いと思われることが多いですが、既成概念にとらわれず新たな価値を編み出すことで、超えられる壁であると考えます。萩原工業様に倣って、何事も「おもしれぇ」から。これからも新しいPublic Relations活動の可能性を追求していきます。
オズマピーアールスタッフ
久保田 敦、濱野 香澄、伊田 雄紀