- NPO法人 日本科学振興協会(JAAS)『学生アイデアファクトリー』
“あきらめない社会”をあたりまえに──学生研究とPRが交差する、新しい課題発見の場
“好き”から始まる問いが、社会を変える―『学生アイデアファクトリー』がひらいた研究の可能性
学生の自由で先入観のない発想が、社会課題の新しい解き方をひらく──。
オズマピーアールは、JAAS(日本科学振興協会)が主催する『学生アイデアファクトリー』に2024年度からPRパートナーとして参画し、2025年度からはゴールドスポンサーとしてJAASおよび、自主研究に真摯に向き合う学生たちと継続的な関係性を築いてきました。
本鼎談では、2025年に行われた学生アイデアファクトリーでオズマ賞を受賞した近藤史織さんのアイデアと『自分の好き』を問いに変える思考を手がかりに、オズマピーアールがパーパスに掲げる『新しいあたりまえ』の視点から、“研究×PR”が切り拓く社会課題解決の可能性を語り合いました。

聞き手:
(写真左)オズマピーアール コーポレートコミュニケーション本部
ブランドデザイン1部 吉田周平(新卒4年目)
(写真右)オズマピーアール コーポレートコミュニケーション本部
横山奈津(新卒3年目)
アイデアの起点|「いつか、食べられなくなるかもしれない」という不安から
横山奈津(以下、横山):
この度はオズマ賞受賞、おめでとうございます!まずは、オズマ賞を受賞された『咀嚼できなくても“おいしい”はつくれるのか』という研究アイデアについて、ぜひ詳しくお伺いできればと思います。タイトルを拝見した瞬間に、多くの方が「おいしさとは何か」という問いを突きつけられるような、非常に印象的なテーマだと感じました。
近藤史織さん(以下、近藤):
ありがとうございます。この研究は、咀嚼・嚥下機能が低下した高齢者に提供される嚥下食*飲み込みやすさを重視した食事が、安全性を確保しながら「おいしさ」や「満足感」をどのように両立できるかを検討するものです。歯による咬合、舌と口蓋によるすりつぶし、唾液と食物が混合する食塊形成の過程に着目し、これらが味・温度・質感の認識にどのように関与しているかを整理し、その要素を部分的に再現できる嚥下食の開発を目指しています。
具体的には、「ベーコンエピ」を題材に、発酵温度や材料の調整によって食感の変化を検証しています。音・振動・電気などを用いた人工的な咀嚼感の提示について検討し、嚥下食においても咀嚼に近い感覚を付与できる可能性を今後の研究課題としています。

吉田周平(以下、吉田):
私たちオズマピーアールが、このオズマ賞を設けた理由は、PRの仕事が“情報発信”だけではなく、“問いの発掘”から始まると考えているからです。学生のみなさんが持つ等身大の疑問や違和感は、社会にまだ言語化されていない課題そのものです。その価値をすくい上げたいと考え、この賞を設けました。
その中で近藤さんの自主研究にオズマ賞を授与した理由としては、“自分の好き”を起点としているだけではなく、「高齢化社会における高齢者のQOL向上」という社会課題の先にある一人ひとりの課題を解決に変換していることです。それに加え、ファイルプレゼンテーションでは、近藤さんの「ベーコンエピ」への“好き”が爆発していたことも理由の1つです。
横山:
近藤さんから伝わる“好き”の熱量は本当に爆発していますよね。
パンにもさまざまな種類があるかと思いますが、その中でも「ベーコンエピ」に特別な思い入れがあるのでしょうか。なぜベーコンエピだったのか、その“好き”の原点について、ぜひ教えてください。
近藤:
小さいころからベーコンエピは好きだったのですが、すごくハマったのは高校1年生のときに近くにあったパン屋さんで食べたときに、とっても美味しい!と思って(笑)。高校を卒業して、大学に入学後、学校の近くにベーコンエピを販売しているお店が3軒もあったので、毎日食べるようになりました。毎日?と思われるかもしれませんが、固いものもあれば、柔らかいものもあったり、小麦の香りが強かったりなど、それぞれのお店の特徴が異なる味わいを楽しんでいます。毎日買うのはお金もかかってしまうので、今では、美味しいベーコンエピを自分でも作ってみたいと思い、自家製にも挑戦しています。
吉田:
美味しいベーコンエピの追求に留まらず、自分の「好き」という想いが、この自主研究に繋がったのでしょうか。着想のきっかけが気になりました。
近藤:
大学の授業で、自分自身の噛む力(咬合力)を測る機会がありました。そのときに「噛む力(咬合力)が実年齢に比べて無い」と言われてしまい、そこから、いつか噛めなくなる時が来るのかもしれないと、急に不安になりました。その不安と共に、「周りの人よりも早い段階で大好きなベーコンエピが食べられなくなるんじゃないかな」って思ったことがきっかけです。
横山:
噛む力と嚥下食の関係については、「噛む力が弱くなるなら、歯や噛む力=筋力を鍛えればいいのでは?」と思ってしまいました。嚥下食が「おいしくない」「満足感がない」現状を踏まえ、「それでもベーコンエピをおいしく食べたい」という想いと、噛む力が弱くなったその先の状態を見据えた発想に至った背景をぜひ教えてください。
近藤:
ベーコンエピを作り始めた頃と同じ時期に、嚥下食についても自宅で調べたり、実際に作ってみたりしていました。両方を食べ比べてみると、嚥下食は食感を感じにくくて、毎日だと飽きてしまうなって。
そういえば、咬合力が弱くなったら、いつかハード系のパンに分類されるベーコンエピも食べられなくなるのかも……と。不安に思ったときに、“じゃあ、ベーコンエピで嚥下食を再現できたら全部解決するじゃん!”って思ったんです。(笑)
吉田:
完成されたアイデアというよりも、日常の中で生まれた考えが、問いとして形を持ち始めたのですね。いつも楽しんでいる大好きなベーコンエピが噛む力がなくなることによって、嚥下食を選択しないといけない生活が当たり前ではなくなってしまう不安が、問いに変わっていくのが興味深いですね。
対話で磨く│一人の違和感が、社会の問いになるまで
横山:
ベーコンエピと嚥下食を食べ比べたという、体験から生まれた違和感が、ここまで明確な研究テーマへと発展していったプロセスにとても興味があります。
ふとした瞬間に浮かんだアイデアは、そのままにしておくと消えてしまうことも多いと思います。近藤さんはその最初の着想を、どのように整理し、誰に相談し、どんな対話を経て輪郭をはっきりさせていったのか、そして最終的に学生アイデアファクトリーへ応募しようと思った決め手は何だったのか、ぜひ教えてください。
近藤:
大学で二人の先生にアイデアについて意見を伺ったところ、「面白い」と評価をいただきました。先生からそのような言葉をいただくのは稀で、研究を続ける後押しになりました。「学生アイデアファクトリー」への応募を決めたのは、大学を散歩中に見つけた掲示されていたポスターを見て、「東京に行ける!」って書いてあって(笑)。自主研究ということも、あまり深く考えずに、申し込みました。
吉田:
かなり直感的でいいですね。(笑)その直感こそが、近藤さんの研究の出発点にある「問い」とつながっているようにも感じます。自分の中から自然に湧き上がる感覚を信じて動いたこと自体が、すでに研究的ですよね。
学生アイデアファクトリーという場に身を置いてみて、一番の気づきは何でしょうか?
近藤:
大学の同級生には研究に関心がない人もいるため、なかなか自主研究に関して友達と話すことはできず、教授や研究をしている先輩が相談相手になることが多かったです。ですが、学生アイデアファクトリーでは、全国から多くの学生が集まり、サマーキャンプや、ファイナルプレゼンテーションを行い、同年代で同じような自主研究に関心がある人が集まるからこそ、科学に対する向き合い方そのものにすごく刺激を受けました。「その疑問はどこから生まれたのか」を大切にする姿勢に触れ、自分自身の研究への向き合い方も大きく変わりました。さらに、『正解かどうかより、まず言葉にしてみる』という空気が、とても安心して話をすることができました。
しかし、同じ学部ではないことから、自分が理解していることを、相手に伝わる形で説明しなければディスカッションが進まないので、専門用語の言い換えなど“伝わる工夫”に意識が向きました。

吉田:
オズマピーアールは “新しいあたりまえ” を生み出すために、個々の気づきを社会へと接続する視点を大切にしています。学生アイデアファクトリーの取り組みは、まさにその姿勢を体現していると感じました。特に、サマーキャンプというプログラムでは、学生が何度もプレゼンテーションを実践する機会が設けられており、一人ひとりの「好き」や「違和感」を社会に伝わる形へ“翻訳していく”プロセスが丁寧に積み重ねられています。こうした点に、ブランドデザイン部としても非常に強い親和性を感じました。
『諦めない社会』をつくる│個人的な問いの先に
横山:
大好きなベーコンエピをずっと食べ続けていけるように、嚥下食に『おいしさ/満足感』を加えて、高齢者の生活の質(QOL)向上を目指すという研究アイデアですが、「高齢化社会における課題を解決したい」という意識は最初から持っていたんですか?
近藤:
正直に言うと、高齢者の課題を解決したいというよりも、「諦めない社会をつくりたい」という思いが先にありました。高校時代、制度上は可能なのに、知られていないことや前例がないことを理由に選択肢が閉ざされる現実を目の当たりにして、できるはずのことを「できない」の一言で終わらせない大人になりたい──そう思ったんです。さらに、親が言語聴覚士であることもあって、健康寿命が尽きるとできないことが一気に増える現実を間近で見てきました。だから、歯学部にいながらも、考え方はけっこう福祉寄りなんです。
吉田:
近藤さんのアイデアは、高齢者の課題を解決するだけにとどまらず、「諦めない」という姿勢そのものを社会に提案していると感じます。結果として一人のQOLを押し上げ、その積み重ねが社会全体の課題解決へ波及していく動きをつくっていきたいですね。近藤さんは、研究者視点も自然と身についているから、仮説を立てて原因を仕組みや構造からも紐解いていこうという考え方があるのかもしれないとお話を伺って思いました。

研究と臨床、どちらも手放さない│“二刀流”という選択
横山:
学生アイデアファクトリーでオズマ賞を受賞されたことは、近藤さんにとって一つの大きな節目だったのではないかと思います。外部から評価を受けることで、自分の中にあったアイデアの位置づけや、これからの向き合い方にも変化が生まれることがありますよね。
学生アイデアファクトリーでオズマ賞を受賞された後、アイデアとの向き合い方にどのような変化があったのか、ぜひお聞かせください。
近藤:
最初はうれしくて、ついニヤニヤしてしまったんですけど(笑)、その後は「ちゃんと取り組まなきゃ」と思うようになりました。もっと精度を高めて、将来的には学会で発表したい——そんな気持ちが、はっきり自分の中に芽生えました。
横山:
ぜひ、近藤さんの将来的なキャリアについてもお伺いしてみたいのですが、歯学部卒業後としては、歯科医師という選択肢もあるかと思いますが、研究者というキャリアなども検討されているのでしょうか?もちろん「二刀流」というキャリアもありますし。
近藤:
今考えているバランスは、研究が7割、臨床が3割くらいかなと。私は目の前の人を助けたい気持ちがすごく強くて、患者さんと向き合ったり、人を直接見る経験が、研究のモチベーションになったり新しいアイデアを生んだりするんです。一方で、臨床に偏ると疑問が自分の中に溜まるばかりで、十分に深掘りする場を失いかねません。だからこそ、研究を軸に臨床も並行させることで、成果を社会にきちんと届けられる人になりたいと思っています。
吉田:
研究を軸にしながらも、臨床を並行させるという考え方は、論文としてまとめるだけでなく、実際に社会で“使われる”ところまで見据えているのですね。成果を社会に届けるためには、研究の精度だけでなく、現場との接続が欠かせないと思います。その中で、近藤さんにとって成果を社会に届けるため、臨床の役割は何だと思いますか?
近藤:
臨床経験を通して、訪問診療の現場や高齢者支援の実態をしっかり理解したいと思っています。実際に患者さんと向き合うことで、研究をより現場に根ざしたものにして、臨床の現場で『これなら使いたい!』と思ってもらえる嚥下食の開発につなげていきたいです。
学生×企業の交点──PRがひらく“社会デザイン発想”の場
横山:
最後に、近藤さんが実際に「学生アイデアファクトリー」に参加してみて、この取り組みをどのように感じましたか?
近藤:
私は、同じように自主研究をしている同年代と出会えたことで、とても良い刺激になりました。そのため、同じように自主研究に熱意をもっている学生に、届いて欲しいなと思っています。また、企業の方にはもっと参加してもらい、ここまで真剣に自分の好きを言葉にして、研究として突き詰めている学生がこれだけいること、強い情熱を持っていることを知っていただき、次世代の研究の可能性を実感するきっかけにしてほしいです!
吉田:
近藤さんのような姿勢・思考を持つ学生の存在を、企業の方々にこそ広く認知していただきたいです。
学生のみなさんが持つ“言語化されていない問い”や“社会の課題と結びつく前の純粋な疑問”は、社会の構造を捉え直すための大切な手掛かりかもしれません。その小さな声が、企業の事業開発や社会の仕組みづくりの出発点にもなり得ます。
オズマとしては、そうした問いが安心して育まれる場を、多くの企業と一緒に広げていきたいと思っています。

●NPO法人 日本科学振興協会(JAAS)
●自主研究に取り組む学生の研究アイデア発掘・支援プロジェクト「学生アイデアファクトリー」
JAAS代表理事・深澤知憲氏と、オズマピーアール一ノ瀬寿人による対談記事