古橋 正成
上席執行役員
MASANARI
FURUHASHI
クライシス・コミュニケーション、データドリブンPR、生成AI時代の情報設計を専門とするPRコンサルタント兼研究者。証券会社でのIRコンサルティング・M&Aアドバイザリー業務(7年)、企業広報・危機管理広報コンサルティング(17年)の経験を有する。2025年、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科にて博士号(政策・メディア)取得。組織のコミュニケーションにPRがどのような局面で必要になるのかを、生活者やステークホルダーの認識を定量的に検証することで明らかにする研究に、実務と並行して取り組んでいる。
専門・活動テーマ
クライシス・コミュニケーション/データドリブンPR/AIO(AI検索最適化:生成AIに参照されやすい情報環境の設計)/イノベーションの社会受容とPRほか
― なぜPRにデータ検証が必要なのか
人が動く"ツボ"を押さえるストーリー設計力。そして、それを支えるデータの力
企業が自分の言いたいことだけを話しても、相手には伝わりません。そして、ファクトをただ並べるだけでも足りない。それをどう組み合わせ、どんなシナリオに仕立てるか。社会のインサイトを捉え、人々が動く"ツボ"を押さえることで初めて、情報はストーリーとなり、行動変容が起きます。こうしたストーリー設計力は、私たちPR会社が強みとする領域です。
一方で、PRの仕事には、ストーリーを紡ぐ力とは別に、状況を正確に把握し、判断の精度を高めるためのデータ検証が不可欠な局面があります。
クライシス・コミュニケーションは、まさにそうした局面です。組織不祥事が発生したとき、ステークホルダーの認識は危機の性質によって大きく異なります。「その危機は組織の責任なのか」「組織は防げたはずなのか」「道徳的に許されない行為なのか」――こうした認識の違いが、企業の評判や購買意欲に直接的な影響を与えます。ただ、日本ではこれまでこの認識の構造に関する定量的な検証の蓄積は十分に行われていませんでした。
私は、この課題を定量的に検証すべく、日本の消費者450名を対象とした定量調査を行い、組織不祥事に対するステークホルダーの認識構造を検証しました。クライシス・コミュニケーション研究で国際的に広く参照されている状況的クライシス・コミュニケーション理論(SCCT)の日本における適用可能性を実証的に確認するとともに、ステークホルダーの脅威評価には階層構造が存在するという独自の知見を示しています。この研究は、査読付き学術論文として『広報研究』第30号(日本広報学会, 2026年)に掲載されました。
ストーリーを設計する"右脳"の力と、状況をデータで検証する"左脳"の力。この両輪が揃うことで、社会に対して本当に説得力のあるコミュニケーションが成立すると考えています。
― 生成AI時代にPRはどう変わるべきか
生活者の"情報との出会い方"が変わった。PRも変わらなければならない
私が強く意識しているのは、生活者の情報収集行動が大きく変化しているという点です。総務省『令和7年版 情報通信白書』(2025年)では、日本における生成AIの利用経験率が26.7%に達し、わずか1年前の9.1%から約3倍に急増したことが示されています。20代では44.7%が利用を経験しています。さらに注目すべきは、その使われ方です。内閣府 消費者委員会の『生成AI利用者の利用実態に関するアンケート調査(速報)』(2026年)でも、生成AI利用者の約76%が日常生活において「情報の検索・リサーチ」を目的として生成AIを利用しており、利用者の過半数が「以前よりもAIを使う頻度が増えている」と回答している実態が確認されています。生成AIは、もはや一部の先端ユーザーのツールではなく、生活者の日常的な情報収集手段になりつつあります。
これは、PRにとって何を意味するでしょうか。従来、PRの情報フローは「企業→メディア→生活者」が主流でした。しかしいま、生活者はAI検索に直接質問を投げかけ、AIが要約・推薦した回答をもとに意思決定を行うようになっています。情報の流れは「企業→Web情報→生成AI→生活者」も含めて多層化しつつあります。
私は、この変化をPRの価値が高まるものと考えています。生成AIはWeb上の情報を参照して回答を生成する以上、報道記事や第三者の評価といったアーンドメディアは、「AIが参照する権威性あるソース」として再評価されるべきものです。メディアに報道されること、社会的文脈のなかで語られることの重要性は、むしろ増しています。
ただし、従来と同じやり方だけでは、AIに正しく参照される保証はありません。私は、これからのPRエージェンシーに求められる知見を4つのレイヤーで捉えています。
1.メッセージ設計 ― クライアント企業が何を・どう伝えるか
2.メディア情報設計 ― ニュースバリューと社会的文脈の構造化
3.AI情報設計 ― 生成AIが収集・推薦しやすい情報の構造化
4.行動喚起設計 ― 生活者の意思決定フローに適合した情報導線の設計
この多層レイヤーすべてに対応できることが、これからのPRエージェンシーの競争力になると考えています。
― 目指す未来
AIを武器に、"ヒト"の価値を高める。PRが必要とされる局面を、データで証明する
テクノロジーの進展を前提に考えると、AIを適切に活用することで、一人ひとりのコンサルタントの洞察力と提案力が高まり、クライアントに届ける価値そのものが引き上がる。データとAIは"武器"であって"主役"ではなく、最終的に価値を生むのは人間の判断と創造力です。しかし、テクノロジーが進化する時代だからこそ、PRが本当に必要とされる局面はどこなのかを、データをもって明らかにしていく必要があると考えています。
私が研究者として取り組んでいるのは、まさにこの問いです。PRがどのような局面で必要になるのかを、生活者やステークホルダーの認識を定量的に検証することで明らかにしていくこと。
たとえば、破壊的イノベーションが社会に受容される過程では、性能や価格だけでなく、それが「新しい当たり前」として社会に定着するプロセス――いわば"イノベーションの社会化"が不可欠です。博士論文では、培養肉という社会的に議論の分かれるイノベーションを対象に、日本の消費者の受容メカニズムを定量的に検証し、受容を促進・阻害する要因の構造を明らかにしました。この研究は、イノベーションの社会化においてPRが果たせる役割が大きいことを実証的に示しています。こうした検証は現在も継続しており、クライシスにおけるステークホルダーの認識構造の解明と合わせて、PRが必要とされる局面をデータで証明する研究を進めています。
実務と研究の往復を続けることで、パブリックリレーションズの可能性をもっと広げていきたい。社会と企業をつなぐ仕事だからこそ、社会が変われば、つなぎ方も変わる。自分たちなりの羅針盤を持って、一歩先を照らしていく。それが、私たちの使命だと考えています。
― 座右の銘・好きなフレーズ・格言
「一歩先を照らし、二歩先を語り、三歩先を見つめる」
これは本田宗一郎氏とともに本田技研を世界的企業に育て上げた藤沢武夫氏の言葉として知られています。三歩先は10年後の未来。誰にも予測できませんが、自分なりのビジョンを持っていることが大切。二歩先は中長期の経営シナリオで、皆に語って共有するもの。一歩先を照らすというのは、いまの行動の具体的な方向性を示すことです。前例にしたがっているだけでは、変化が激しい世界で生き残っていくことはできません。目線を高く持ち、本質を見据えて突破口を見出していく力が必要です。
PROFILE 経歴・プロフィール
証券会社にてIRコンサルティングおよびM&Aアドバイザリー業務等の投資銀行業務に通算7年間従事。その後、外資系/国内PRエージェンシーにて企業広報・危機管理広報コンサルティングに通算17年間携わる。現在は当社にて、コンサルティング業務に加え、経営企画・研究開発業務も兼務。また、組織のコミュニケーションにPRがどのような局面で必要になるのかを、生活者やステークホルダーの認識を定量的に検証することで明らかにする研究に取り組む。日本広報学会/研究イノベーション学会/日本マーケティング学会/日本フードシステム学会の各種会員。
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程修了。博士(政策・メディア)。
2019年度 早稲田大学商学部 招聘講師。
主な研究業績
- 「日本における状況的クライシス・コミュニケーション理論の適用可能性 ―日本の消費者は組織不祥事をどのように捉えるのか―」『広報研究』第30巻, 2026年
- 「培養肉の種類による消費者受容の違い―家畜培養肉と培養シーフードの比較研究―」『フードシステム研究』第32巻3号, 2026年
- 「日本の企業コミュニティにおけるアクティビストへの正統性形成プロセスに関する考察―全国紙記事のテキスト分析を通して―」『広報研究』第27巻, 2023年
- 「イノベーションの導入・普及におけるリスクの社会的増幅プロセスに関する考察」『研究 技術 計画』第37巻4号, 2023年
WORKS 活動実績・受賞歴
受賞歴
PRアワードグランプリ2017 シルバー受賞