コラム

COLUMN

“フィルターバブル”の視点で考える現代の生活者の情報接触態度の考察

2021.06.28広報担当


 

“フィルターバブル”の視点で考える現代の生活者の情報接触態度の考察

 


 新型コロナウイルスの影響で「おうち時間」が増えた今、SNSを使う機会が増えた人も多いのではないでしょうか。私自身日常の多くの時間をSNSに費やしています。SNSは速報性の高い情報収集ができ、自分に必要な情報を収集するのに大変便利だからです。しかし、SNSは自身がフォローしている人々の情報しか入ってこないということが往々にしてあります。そのような情報環境の中で、一つの事象に対して自身のタイムラインの論調だけでその事象の是非を判断するのは危険です。なぜなら、SNSでは自身の見たくない情報や都合の悪い情報はシャットアウトされがちで、一方向からの意見しか目にすることができない可能性があるからです。私はコロナ禍でSNSでの誹謗中傷を始めとした様々な痛ましいニュースや人々の生活に戸惑いを与えるフェイクニュースを見るたびに、上記のような生活者の情報接触態度に問題意識を抱き始めました。

 本コラムでは現代の情報環境における情報収集上の課題と、生活者にとっての新たな情報接触態度の必要性を考察します。

 

現代の情報環境の課題“フィルターバブル”とは?

 「インターネットを通じてパーソナライズされた情報」が届く情報環境は、情報過多時代においては非常に便利な機能です。一方で、前述の通りこの情報環境は自身に必要のない情報の排除を助長することになります。「インターネット上で泡(バブル)のなかに包まれたように、自分の見たい情報しか見えなくなる」現象は“フィルターバブル”と呼ばれています。フィルターバブルは2011年にイーライ・パリサーが著書『閉じこもるインターネットグーグル・パーソナライズ・民主主義』で提唱した概念で、技術の革新によってパーソナライズされていく情報環境への課題を提起するものでした。

 このフィルターバブルの議論の中で様々な研究者・有識者が「生活者に思考の偏狭を及ぼす危険性がある」と指摘しています。つまり、接触情報のパーソナライズ化が進むほど、生活者は自身が必要としない情報と接触せず、閉鎖的な情報空間で自らの嗜好性に合わせて同じような情報や意見のみと接触することとなり、特定の価値観や思考に固定化される可能性があるということです。この現象は「エコーチェンバー現象」と呼ばれ、インターネット時代以前の1990年にジャーナリストのデビッド・ショーが説いた現象です。この現象がフィルターバブルの中で増幅するほど、相反する価値観/思考を持つ生活者同士が交わることが難しくなり、社会の分断が進む懸念があります。

 

情報過多時代に必要な情報接触態度

 上記のようなパーソナライズされた情報環境の中で生活する我々は、自身が接触する情報によって「受動的な情報接触」と「能動的な情報接触」を使い分ける必要があると私は考えています。

 

 

 「受動的な情報接触」とはインターネットの使用によって自然と得られる情報接触です。すなわち自分たちが普段インターネットを使用することで、レコメンドされる情報など、日常の中で自然に触れるパーソナライズされた情報への接触ということになります。自分の好きなモノ・コトの情報に接触するには、このパーソナライズされた情報接触は非常に効率的に情報収集ができるので大変便利な機能です。例えば、自分の“欲しい商品”の発売日がいち早くチェックできたり、“好きなタレントの情報“が常に目に入ってきたりと、狭く深く趣味嗜好に関する情報に接触することに向いています。

 一方で、フィルターバブルの議論で指摘されているのは「受動的な情報接触」の課題です。そこで、必要になる受動的な情報接触の対になるのが「能動的な情報接触」です。「能動的な情報接触」とは、自身が情報を積極的にリサーチして得る情報接触です。この能動的な情報接触は物事を客観的・多面的に把握する必要のある社会性/公共性の高い情報への接触時に活用するべきであると考えられます。政治や経済、事件性のあるニュースを始めとした公共性の高い情報は賛否両論あるニュースも多く、一方からの視点だけでなく、様々な視点で幅広く情報に接触することが必要です。では実際にどのような行動をすればよいのでしょうか。

 例えば、ある一つのニュースに対して自身のSNSアカウントのタイムラインで情報接触した場合、自身の思考と近い情報に編集された文章と共に語られている可能性が高くなります。そういった場合にそのニュースの情報源(ソース)を調べてみる、そのニュースに対して肯定/否定どちらの意見も見てみるなど、情報を賛否の一面だけではなく、両面で捉える。「能動的な情報接触」を行うことで、アルゴリズムを介しての情報接触だけでは得られない情報に接触し、情報バイアスを突破する一助になるかもしれません。

 

新型コロナウイルスによって変化した生活者の情報接触態度

 コロナ禍において、「確かな情報を得る」という情報接触態度の高まりも見られます。博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所が20207月に発表した「緊急事態宣言解除後のメディア接触調査」によると、コロナ禍の危機の中で「メディアの伝えることの信頼性が気になった」65.1%、「情報の真意や鮮度に気をつけるようになった」47.5%など、メディアや情報の質を「確かめる」傾向にあることが分かりました。これは、「トイレットペーパーが不足する」や「お湯を飲めば、高温に弱いコロナウイルスを退治できる」といった信憑性のわからない情報がコロナ禍でSNS上に多く出回ったことなども要因のひとつと考えられます。

 さらに、20208月に一般社団法人日本新聞協会が実施した「新型コロナウイルスとメディア接触・信頼度調査」によると、各メディアの中で生活者が「新聞のデジタル版/電子版(有料)」を始めとした新聞社が発信する情報に接触する機会が増加したことが分かりました。新聞社からの情報接触回数が増えた理由としては「情報の要点がまとめられているから」「情報が信頼できる」「情報が幅広いから」といったものが挙げられ、端的かつ信頼度が高い情報へのニーズが高まっていることが分かります。

 

出典:一般社団法人日本新聞協会「新型コロナウイルスとメディア接触・信頼度調査」(2020

 

 様々な情報が世に出回るコロナ禍で、ある程度情報の客観性が担保されていると思われる新聞メディアへの積極的な接触が起こっているのではないかと考えます。

 このように自分自身で情報の信頼性を見極めることが出来るようになることは、生活者が能動的な情報接触を行う第一歩を踏み出していると考えられます。一方で、客観性が担保されている情報を発信するメディアであっても、そのメディアの特性によって異なる意見を述べていることも往々にしてあります。だからこそ、メディアの中にも異なる意見や視点があることを意識し、より視野の広い情報への接触を図ることも大切です。このように、能動的な情報接触で一つの情報を様々な視点で捉えることを意識づけすることができれば、フィルターバブルによって閉ざされていた情報への接触も可能になるのではないでしょうか。そうすることで生活者の思考の偏狭という課題の解決に寄与できると私は考えています。

 

最後に

 インターネットのパーソナライズ機能からもたらされる“フィルターバブル”。これは、情報過多な社会において、インターネットを使う上で避けることのできない「当たり前」の現象と捉えることもできます。しかし、このような環境のもとで生活者はこの恩恵を享受しつつ、確かな情報を手に入れるという「情報過多時代における新たなメディア接触態度」にシフトしていく必要があると考えられます。パーソナライズされた情報は利便性が高い一方で、受動的な情報接触であると思考の偏狭が起こるリスクを理解し、能動的な情報接触を取り入れながら、自己の思考を常にチューニングしていくことが現代に必要な情報接触態度ではないでしょうか。

 


 

古川 一輝

株式会社オズマピーアール アカウントプランニング本部3部 アソシエイト

2018年オズマピーアール入社。入社後はスポーツメーカーや商業施設、知育玩具、飲料など様々な企業のPRに携わる。
プランニングからエグゼキューションまで一気通貫したPR活動の支援でクライアントの課題解決に従事。
コロナ禍でダイエットをはじめ、12㎏の減量に成功。
PRコンサルティングに関してもダイエットと同じように根気強く取り組む粘り強さを武器にクライアントの課題解決に日々奮闘中。

 

 

 

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連コラム

新型リスクを3つの視点で読み解く  新しい社会課題について 若者らによるオンラインでの課題提起が定着

2022.01.20

新型リスクを3つの視点で読み解く  新しい社会課題について 若者らによるオンラインでの課題提起が定着

新型リスクを3つの視点の変化から捉える 前回のコラムでご紹介したように、「新型リスク」の概念は絶えず変動していますが、リスクの起因となる「社会課題」、課題提起の主体となる「アクター」、課題提起の「手法」の3つの変化から捉えることができます。本稿では、それぞれの視点からリスクの性質や特徴について整理していきます。

2022.01.20広報担当
専門家インタビュー 竹林正樹博士 ナッジ理論専門家/青森県立保健大学 相手が自発的に望ましい方向に動きたくなる「ナッジ」とは? 〜「OZMA Nudge Social Design Unit」におけるナッジ×PRの可能性(前編)

2022.01.17

専門家インタビュー 竹林正樹博士 ナッジ理論専門家/青森県立保健大学 相手が自発的に望ましい方向に動きたくなる「ナッジ」とは? 〜「OZMA Nudge Social Design Unit」におけるナッジ×PRの可能性(前編)

オズマピーアールでは2021年12月、行動経済学・ナッジ理論の専門家である竹林正樹博士をアドバイザーに迎え、ナッジの専門知識を活用した情報発信支援やオリジナルのナッジ研修メニューを提供する専門チーム「OZMA Nudge Social Design Unit」を始動しました。当活動は当社が一昨年立ち上げた、社員自らが考えビジネスシーズを発掘し、事業化に向けて調査・研究・開発を手がける組織『社会潮流研究所(通称「ウズ研」)』で採択されたプロジェクトです。当コラムでは竹林博士をお迎えし、ナッジ理論の現在と、ナッジ×PRの可能性についてお話をうかがいました。

2022.01.17広報担当
社会潮流への洞察:イノベーションの普及を阻害する心理的要因とは?

2022.01.12

社会潮流への洞察:イノベーションの普及を阻害する心理的要因とは?

「イノベーション」という言葉は20世紀初頭にシュンペーターによって提唱され、その後、国を問わずさまざまな文脈で語られ、日本でも戦略論や組織論において常にホットなテーマであり続けています。実際の企業経営においてもイノベーションという言葉は企業の成長戦略で多く語られています。2021年3月期を決算期とする上場会社から提出された有価証券報告書の「企業の概況」ならびに「事業の状況」の項目において、イノベーションという言葉を使用している企業数は572社もありました(※EDINETによる検索)。これは同決算期上場企業のおよそ4分の1にのぼります。

2022.01.12広報担当
< 社会潮流研究所|在住外国人インサイト調査2021(後編)>~日本人とは「時間をかけた関係構築」がオススメ!~ 日本在住台湾人157名に、来日後の日本人との付き合いに ついて調査|親しい距離になるまでに日台で時間差!

2021.12.24

< 社会潮流研究所|在住外国人インサイト調査2021(後編)>~日本人とは「時間をかけた関係構築」がオススメ!~ 日本在住台湾人157名に、来日後の日本人との付き合いに ついて調査|親しい距離になるまでに日台で時間差!

法務省出入国在留管理庁によると、令和3年6月末の在留外国人数は282万3,565人でした(2021.10発表)。コロナ禍でも依然多くの外国籍の方が日本に在住している中、私達は在住台湾人157人を対象に、日々の生活の中での日本人との付き合い方や感じている本音に迫る調査を行いました。題して「在住外国人インサイト調査2021」です。

2021.12.24広報担当
< 社会潮流研究所|在住外国人インサイト調査2021(前編)>~在日台湾人とは「少し砕けた接し方」がポイント!~ 日本在住台湾人157名に、来日後の日本人との付き合いに ついて調査|日台で距離の縮め方にギャップ!

2021.12.24

< 社会潮流研究所|在住外国人インサイト調査2021(前編)>~在日台湾人とは「少し砕けた接し方」がポイント!~ 日本在住台湾人157名に、来日後の日本人との付き合いに ついて調査|日台で距離の縮め方にギャップ!

株式会社オズマピーアールの社内インキュベーション組織「社会潮流研究所」では、様々な社会課題について研究を行っています。そのうちの一つとして、近年注目されつつある多文化共生のヒントを探るべく、在住外国人の方への調査研究を行っているチームがあります。この度、当チームでは20代~50代の在住台湾人157名を対象に、来日後の日本人との付き合いについて調査を行いました。

2021.12.24広報担当
(1)ルール形成で新たな市場の牽引役となる【後編】御社は10年後もありますか? 〜企業への問いが変わる中、未来への意思としてルール形成に取り組む~

2021.12.15

(1)ルール形成で新たな市場の牽引役となる【後編】御社は10年後もありますか? 〜企業への問いが変わる中、未来への意思としてルール形成に取り組む~

オズマピーアールは2020年6月より、多摩大学ルール形成戦略研究所と業務提携し、ルール形成市場のさらなる拡大と深化に向けて活動を進めています。社会構造の変容が急激に進み、それに伴うルール形成があらゆる分野で課題となっている今、新たな市場を作るためのパブリックアフェアーズへの関心はますます高まっています。第3回は、多摩大学大学院ルール形成戦略研究所副所⾧/株式会社オウルズコンサルティンググループ代表取締役CEOの羽生田慶介さんをお迎えしました。民間企業がすぐに取り組めるルール「調達ガイドライン」についてうかがった前編に続き、調達ガイドライン作りを進めるにあたって企業がとるべき戦略について、弊社西山との対談を通じ、さらに話を深めていきます。

2021.12.15広報担当
(1)ルール形成で新たな市場の牽引役となる【前編】民間企業が明日からできる、非市場戦略としてのルール形成

2021.12.15

(1)ルール形成で新たな市場の牽引役となる【前編】民間企業が明日からできる、非市場戦略としてのルール形成

環境、人権、ジェンダーなど取り組むべき社会課題が山積する中で、ポリシーセクターやソーシャルセクターといった非市場領域と連携し、社会課題解決力を内包したビジネスモデルへの変革を提唱するソリューション「ルール形成」が今、注目されています。私たちオズマピーアールでも、パブリックアフェアーズ(PA)を担当する専門チームを立ち上げ、PAとPRを掛け合わせた「ルール形成コミュニケーション」の提供を開始しています。今回、経営におけるルール形成の必要性をより多くの方にお伝えしようと、弊社PAチームのメンバーがホストとなり、ルール形成の最前線で活躍されている方々をゲストに迎えた対談コラムを複数回に渡ってお届けします。第3回は多摩大学大学院ルール形成戦略研究所副所⾧/株式会社オウルズコンサルティンググループ代表取締役CEOの羽生田慶介さんをお迎えしました。経営戦略・事業戦略に関する豊富なコンサルティング経験をお持ちの羽生田さんと、弊社西山が、企業が取り組むべきルール形成と企業価値を伝えるストーリーの重要性について語り合います。

2021.12.15広報担当
企業は社会課題起因の「新型リスク」に備えよ_新しい社会課題に紐づいたリスクが増加中 企業はリスク対策のアップデートを

2021.11.18

企業は社会課題起因の「新型リスク」に備えよ_新しい社会課題に紐づいたリスクが増加中 企業はリスク対策のアップデートを

「新型リスク」の登場___環境や人権の経営課題化、インターネットやSNSの浸透、ミレニアル世代やZ世代の台頭など社会環境が大きく変化する中で、従来と異なる新しいタイプの企業リスクが出現しています。オズマピーアールではこれを「新型リスク」と定義し、分析を進めています。新型リスクは次の3つの特徴を示します。 ①環境や人権、多様性など新しい社会課題に起因すること、②NPO/NGOやZ世代など新しいアクターが関わること、③オンライン署名やツイッターデモなど新しい手法で展開されること。以下では新型リスクの実態と企業が取るべき対策を考えていきます。

2021.11.18広報担当
コーポレート・コミュニケーションは、何から始めるべき? ―企業の認知度やブランドを向上させる「広報戦略」の重要性―

2021.11.18

コーポレート・コミュニケーションは、何から始めるべき? ―企業の認知度やブランドを向上させる「広報戦略」の重要性―

今回のコラムでは、オズマピーアールが考えるコーポレート・コミュニケーションについてご紹介します。コーポレート・コミュニケーションを強化する際には、一体どのようなことから着手すべきでしょうか? そもそもコーポレート・コミュニケーションとは、日本パブリックリレーションズ協会のホームページから抜粋すると、「社会や消費者に対し、企業の理念や活動内容、情報を伝達する活動」とあります。つまり、企業自体を発信していくコミュニケーション活動を指しています。

2021.11.18広報担当

一覧を見る

メンバーインタビュー
MEMBER INTERVIEW

詳しくはこちら

メンバーインタビュー
“メンバーインタビュー“
メールでのお問い合わせはこちら

お問い合わせフォーム

案件のご相談・お見積り・資料請求・危機発生時・
その他(協業のご相談、情報提供のご依頼など)はこちら

危機管理業務のお問い合わせはこちら

03-4531-0220 03-4531-0220

メールでのお問い合わせはこちら

お問い合わせフォーム

案件のご相談・お見積り・資料請求・危機発生時・
その他(協業のご相談、情報提供のご依頼など)
はこちら

危機管理業務のお問い合わせはこちら

03-4531-0220 03-4531-0220